ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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2章
2章1話『第3学区でお買い物』


 ───リュウが春休みの際に行った調査によれば『学園都市第3学区』は萌煌学園と隣接した学区の1つであり、土地の広さは60.03平方キロメートルと他の学区と比べてやや小さいのが特徴の1つだ。

 将来的にガンプラに関する職業を目指す生徒が在籍しているエスカレーター式の中学校、高等学校が学区端に建てられておりこれは全国の応募から当選した中高一貫の学校が丸ごと移設されている形だ。第3学区に限った話ではないが学区に存在している教育機関の生徒はほぼ全員学校から貸し出されている寮に集団で生活しており、その数平均300人。校舎は数年の工事で新たに建設されたもので、学校の広さは萌煌学園と比べれば大きく劣るが設備は最新鋭の物が取り揃えられ、中でもここ第3学区の【爛苗(らんびょう)学園】はガンプラで行うショーやパレードといった催し事に特化しているのが特徴だ。更に第3学区は商業施設にも力が加えられており、世界最大規模の広さ誇るガンプラショップを初めとした大型ショッピング街が敷地の大半を占めている。

 当初懸念されていたのは通勤や生徒の登校ラッシュによる交通機関の渋滞だがリニアモーターカー、無人バス地下鉄その他多くの交通機関が24時間ノンストップで動いており、配布されたアウターギアを持っているだけで乗車手続きの手間は必要ない。これらの画期的かつ実験的な要素が含まれた学区のシステムは学園都市解禁前からマスコミによって大きく報道され学園都市が世界から注目される要因の1つとなった。

 

 ───そして現在時刻は9:30。

 

「お待たせいたしました。こちらでしたらとてもお似合いになると思います」

 

「うぉお……似合うだってよナナ、その服でいいか?」

 

「問題ないです」

 

 女性スタッフがカーテンを開き、今までの拘束服から一変、少女が相変わらずの無表情でしかし服は様変わりしていた。

 

 一言で言えば可憐な印象だ。黒を基調としドレスの様な意匠が随所見られる洋服にすらりと伸びた脚。日本人が着ればやや浮いた印象からコスプレに見えるであろう服の外見は、艶やかかつ淡い白色の髪と薄蒼の瞳を持つ少女が着ることによって見事幼さとドレスの彩りが放つ淑女らしさが高次元で両立されている。リュウは試着室から出てきた少女の劇的な変わり様を喜びと驚きの感情でまじまじと眺め、少なくとも拘束服よりはよっぽど年相応の少女らしいと笑顔を店員へ向けた。

 

「この服でお願いします」

「ありがとうございます、会計はこちらで」

 

 動作一つ一つにマナーの良さが滲む店員に思わずこちらも笑顔で返してしまう。普段こういった店に入ることは少なくないのだが店員の接客態度が群を抜いてこの店は高く、女性が姿勢に足取りと男の自分でも見とれるような振る舞いでエスコートし水鳥の雛のように俺とナナが後に続く。

 衣料品店【エクターゼ】はスマートフォンによると、この第3学区で最も大きな衣料品店だ。全3階までなる建物には日本のメーカーは勿論のこと世界でも有名なブランド衣料も取り揃えており、価格も学生に優しく良心的と至り尽くせりの名店だ。日本に【エクターゼ】が出来て5年程だが、今では全国へ規模の拡大を続け各都道府県の大きな都市には大体見かける程に一般的かつ人気店である。

 

 それでも会計で表示された金額は普段単発のアルバイトをこなしてやや豊かな生活費と模型費分しか稼いでいない自分には手痛い出費であり断腸の思いで紙幣を数枚支払う事となった。

 

「っかしいなぁ、ガンプラの出費と生活費の出費、値段は同じはずなのにどうしてこうも金銭感覚が違うんだろう……」

 

 店を出る間際、店員の挨拶もおざなりに疑問を溢す。──第3学区に来た目的の内1つであるナナの衣類等の購入を済ませ、残すは模型店での買い物……なのだが、これで買って良かったと思えるような買い物なら心持ちも違うのだろうが隣の少女は喜ぶ様子もなく、ただただ自分の動きに合わせて付いてくるだけ。服の事についての言及なし。

 

「まぁ女の子だしそこら辺は色々複雑なのか?」

 

「?」

 

 僅かに首を傾かせ疑問の意をこちらに示すがそれを少女の頭に手を置き受け流す。

 そもそも自分は少女──ナナの事を何も知らない。出自から好きな食べ物、年齢さえも知らずナナも俺の事は同様に知らない。頭に置かれた手に異を唱えることもなくこちらを見つめる薄蒼の瞳からは少なくとも感情の色が伺えなかった。

 

「ナナは俺みたいな何も知らない奴と一緒に暮らせって言われて平気なのか?」

 

「問題ありません、博士が決めたことです」

 

「さいですか」

 

 視線も合わせず淡々と告げる。言葉に棘を感じないのは本人が本心からそう思っているに違いない。……違いない。

 時間を見付け女博士から聞き出すことは多そうだと、衣類と生活用品がいっぱいになった袋を持ち上げたその時、食い込んだ持ち手から来る痛みと共に見慣れた人影が道路を挟んだ正面の店から出てくる。

 

「リュウ! ここの模型店凄いぞ、品揃えが地元とダンチだ!」

 

「マジかエイジでかした! すぐ行くから待ってくれ! ナナ、行くぞ!」

 

 エイジが満面の笑みで手をぶんぶんと振ってくる。こちらも手を振り返し、ふと隣のナナを横目で見る。少女は少し間を置いて手を小さく動かし何かをしようとするが、本人自体が行動の意味を理解していないのか手の動きはどうもぎこちない。

 

「ナナ、こうやって」

 

「……?」

 

 少女の手を取り、何倍にも大きく動きを増幅させる。先程は何をしているのか分からない動作も今見れば立派な手を振る挨拶だ。

 

「これはまぁ、あいさつって言うんだが、分かるか?」

 

「あい……さつ」

 

 初めて口にしたものをゆっくりと飲み込むように言葉を反復した。少女に添えた手を慎重に離し少女は1人でに小さな手を動かす。ひらひらと続けられる動作は表情のギャップも相まってどこか微笑ましい。

 片手で服の裾を小さく摘まむ仕草から言葉で表現できない大事な何かが少女の心で動いているような気がしてならなかった。

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