ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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2章4話『不足、擬態、金色の翼』

「やらかしたやらかしたやらかしたッ!」

 

 前方に展開されたGNシールドが音をあげてガトリングの豪雨をその身に浴びた。エネルギー直結式のビームガトリングは伊達ではなく、シールドに粒子を展開しているにも関わらず粒子の壁を突き破りシールド本体にダメージが蓄積、モニター左下に表示されたシールド耐久値が見る見る内に減少していく。

 加えて1発1発弾着時の衝撃が凄まじく、こちらはザクⅢに向かっている軌道のはずが規格外の発射レートにより、まるで向かい風を飛んでいる鳥が如くその場で飛行の姿勢を取っているだけで前には進んでいない。

 

 操縦棍を半ば強引に後ろへ引き倒しガトリングの掃射から距離を取って上へと回避、ガンダム00シリーズに多く見られる太陽炉搭載機の飛行能力の恩恵に感謝しつつ機体状態へと目をやる。シールドは今の攻撃だけで耐久値が半分を下回り防御が行き届いていない機体下部にもダメージが見受けられた。

 

 ───警告音と共にモニターが赤く点滅。

 

 無誘導のロケット弾が寸分違わずアイズガンダムへ迫る。これをシールドで弾き眼前で爆散、煙が空中で大きく広がりやがてアイズガンダムがステージ端のブロックへ突っ切るように降下した。

 

「空中の敵に無誘導兵器を当てるとかヤベェだろエイジ……クソッ、早くもピンチか?」

 

 爆発の衝撃で全身にくまなくダメージ、モニターにも異常発生、シールドに至っては耐久値が極僅かで小突かれただけで原型を無くすだろう。

 初動の判断ミスからの流れに奥歯を噛み締める。前回およそ3ヶ月前のバトルではガトリングの破壊が決め手でこちらが勝利を収めたのだが、その方法をなぞろうとガトリングを破壊することに固執し、こうしてエイジの策に嵌まってしまった結果にリュウは苦虫を潰した表情でモニターを睨む。

 

 幸いレーダーは死んでおらずザクⅢの距離はガトリングの有効射程範囲外、だからと言って安心できる相手ではなくガトリングに装備された実弾装備のなかには誘導兵器も多く存在し、物陰に隠れた敵をミサイルで燻り出した後にガトリングで蜂の巣にするといった合理的で強力な択をエイジは所有している。

 対してアイズガンダムは誘導兵器の類を一切持ち合わせず、GNバスターライフルに背部バインダー内臓火器とどちらも素直な性能だ。つまり仕掛けるにはザクⅢの前に身を投げ出さなくてはいけない訳だがガトリングにはビームコーティングが施されており、1度防がれれば報復として苛烈な弾幕が牙を剥くだろう。

 そしてアルヴァアロンキャノンはチャージ中は身動きが取れず格好の的、消去法で考えていくと最も危険なビームサーベルでの白兵戦に道を絞られた。

 

「懐に入りさえすれば……」

 

 ──運動性の違いで勝ち目はある。全身に備えられた装備が至近距離では災いし取り回しが効かないことはザクⅢの外見を見れば明らかだ。

 とすれば後は接近するイメージを走らせ、脳内に写る自分の幻影と同じ動きをするだけ。

 1度瞼を閉じて想像に集中する。ガトリングと実弾火器の弾幕を掻い潜り懐に飛び込む方法、思考をし断念。思考をし、これも断念。幾つも思考し最適解を探る。

 やがて1つのイメージがぼんやりと姿を現す、霞がかかって全貌が伺えないそのイメージは自分の動きではない。──このイメージは。

 

 ───警告音で目を開ける。アイズガンダムへ迫るマーカー4つ、ミサイルだ。

 

「だぁああッッ! もう少しで掴めそうだったのに! ぶっつけ本番かよ!」

 

 弾薬を惜しまないエイジのサービス精神に涙が溢れ、大小それぞれ形が異なるミサイルがブロックを覆うような挙動で迫る。まずはこれを真上への跳躍で回避し、続いて聞こえるのはガトリングの回転音。ハイスピードモードへと変形させたバインダーの粒子制御によりガトリングの火線を2、3度空転しタイミングを図り、弾幕がバラけた隙にバーニアとバインダーを後方へ向け爆発的な加速でザクⅢへと殺到した。

 

 しかしそうは逃さないと再び火線がアイズガンダムへと収束、1秒にも満たない前進にリュウは笑顔を浮かべ舌打ちを鳴らしもはや使い物にならないGNシールドを構える。数度の金属音の後シールドが僅かに膨張、アイズガンダムが前方へとシールドを投擲し弾幕に曝された大盾は空中で大仰に回転、爆発した。

 煙がアイズガンダムを包むが尚も回転する金属の砲身は煙に無数の穴を開け、策を講じる猶予さえ与えずこのまま戦闘を終わらせようと発射音が鳴り響く。煙を穿ち、穿ち。最後の一塊に狙いを定めたその時、突如としてガトリングの捉えた煙が破裂した。

 

「こっから先はイメージしてねぇぞぉぉおおッ!!」

 

 真紅の軌跡を描きながらアイズガンダムはザクⅢ目掛け殺到し、間髪いれずにガトリングが迎撃を開始する、が。アイズガンダムの軌道後にトランザム特有の残像が空中に残り中々標準が定まらない。

 エイジは躊躇せず武装スロットを滑るように展開させ面制圧のシュツルムファウスト、サブマシンガン、無誘導ロケット弾を同時に展開させた、外付け火器を全て使用したフルバーストだ。

 

 これが走馬灯かと、リュウは目の前の光景とは対極的にスローモーションで昨日の戦闘が頭に浮かぶ。

 ナナとのLinkの際繰り広げられた人外同士の戦闘、目を開いているにも関わらず何が起きているか把握すら出来ない攻防。

 

 ───アレに比べれば今のこの状況、何てことはない。

 

 弾速が最も速いのはロケット弾、続いて2発のシュツルムファウスト。サブマシンガンとガトリングは火線が別々に展開されており、面としては逃げ場は見当たらないが立体として捉えると穴はあった。針の穴と呼ぶに相応しい極僅かな点が。

 

「……ナナならどうする」

 

 景色が変わりアウターでの戦闘へ。脳裏に死の記憶としてこびりついたあの戦闘が巻き戻るように再生され、1つのシーンが切り取られる。

 

「……ナナならどうするッ」

 

 あれはGNフェザーを行った後だろうか、ナナがバインダーをハイスピードモードに変形させ敵のアイズガンダムへ向かった時、迎撃の攻撃全てを回避したあのマニューバ。

 ジリジリと頭が焦げ付くような錯覚を覚えながら再生を続ける。あの挙動、あの速度、それをなぞるように。

 鼻の奥から血の臭いが香り、意識の時間が走馬灯から現実へと引き戻された。

 

「───ナナなら、こうするッッ!!」

 

 バインダーの貯蔵粒子を指定方向へ爆発、アイズガンダムは瞬間的に右へと機体をずらしロケット弾が肩を掠める。続いてシュツルムファウストが目の前に現れ、初速の慣性を無視する形で再びバインダーの粒子を噴かし機体は右方向への移動を止める。シュツルムファウストはアイズガンダムの真上、紙一枚を通り抜け後方で爆散し衝撃が機体を大きく揺らした。

 息つく暇なくサブマシンガン、ガトリングの火線が別々にアイズガンダムを捉えようと蛇の様な火線でうねりながら迫り、これを1度上へと避け、充分に引き付けてから右下左下とフェイントを交えつつ地面ほぼ表面を滑空。ガトリングとサブマシンガンの弾幕は空中の紅い残影を捉えたままだ。

 

「はああぁぁぁあああッッ!!」

 

 眼前のザクⅢが後ずさる。その隙に指を5番スロットGNビームサーベルへと走らせ一閃。下から上に振り抜いた紅い斬撃と共に大型ガトリングが宙を舞い、勢いそのままに振り上げた腕をコックピットへ突き立てようとビームサーベルを逆手に構え直した。

 

「今のマニューバ、想定外だったぜ。リュウ」

 

 どこか余裕を感じさせる声だった。思わず眉を潜めながらも既に機体の挙動を変えることは叶わない。サーベルからの粒子が低い音を唸らせながらザクⅢに降り下ろされる瞬間、モノアイが音をあげて妖しく光った。

 

「なッッ───にっ!?」

 

 数瞬後にコックピットを貫くはずのビームサーベルは構えた右腕諸共宙を舞い空しく眼前で空振り。違和感と殺気に似た悪寒で肌が粟立ちながらこの異常な事態を把握しようと別の思考が片隅で走る。

 近接武器のヒートブレードは片手に構えたままで使用された形跡は無い、運動性が低いザクⅢが何故トランザム状態のアイズガンダムに近接攻撃を加えることが出来たのか、ここまで考えたところで冗談を聞かされたかのように小さな声で思考が漏れ出た。

 

「誘い……出された?」

 

「ご明察。お前は何らかの手段を講じてザクⅢを接近戦で倒しに来る、初めから俺はそう踏んでいた」

 

 斬り落としたはずのザクⅢの左腕。ガトリングとの接続アームとも言うべき細い基部の先端に煌々と輝く粒子の刃、───隠し腕。

 咄嗟に間合いを取ろうと操縦棍を後ろへと引き、ライフルを構えるが最早この勝負はエイジの思惑通りに進んでいると心がどこかで理解してしまっている。まとわりつく敗北感を拭わないま1番スロットGNバスターライフルにかかる指を強めた。

 

 目の前で閃光が瞬いたと感じた次にはチャージ限界まで貯めたライフルが構えた腕毎地面へと落ちる。驚きに口を開いたまま最早それは確信として声に出ていた。

 

「そ、そのザクⅢ……駆動系が前回とまるで違ぇ。全身の装備を外せば近接格闘機体ってことかッ!?」

 

「そこまで看破されてんのか、流石だな。……じゃあこれで終いだ!」

 

 謙虚が度を超え皮肉にも取れる言葉に怒りを感じる間もなく、一瞬の内にザクⅢがアイズガンダムとの距離を詰める。その速度、脳裏によぎったのはアクトザクと呼ばれるザクタイプの機体だ。見た目はザクだが中身は相当に手を加えられた機体でファイターからは「見た目はザクだが中身は別物」と評される要注意機体だ。目の前のザクⅢが繰り出す挙動の目覚ましさは最早元の機体速度を大きく上回り文字通り別機体の挙動だった。

 

 ヒートサーベルを突き出す為手前へ引く腕をどこか達観的に眺め、今度こそ敗北を覚悟する。手の内は尽き、対応できる武装も何もない。ただ突き立てられる刃をこの身に受けるだけだ。

 目を瞑る。一杯食わせたエイジの勝ちだとリュウは笑みさえ浮かべ受け入れた。

 

 ───モニターに警告音が響く前に事態を察知したのはエイジだった。

 

 突きはコックピットを逸れてバインダーを貫き即座にアイズガンダムから距離を取る。撃墜音が聞こえないことからリュウは怪訝に目を開きモニターの表示に目を疑った。

 

「これ……Emergency、乱入者ッ!?」

 

 向かい合うアイズガンダムとザクⅢが同じタイミングで同じ方向を見る。

 

 ───空中で静止した機体は重心のブレを感じさせず、噴き荒れるバーニアからは高い機動性が一目で感じられた。表面装甲は目映い黄金の内部装甲が僅かな面積ながらも存在感を主張し、機体各所にはデカールが彩られている。

 大きな翼、綺麗な機体、早そうな機体、強そうな機体。リュウは童心ながらに突如現れた乱入者に目を奪われ、続いて浮かんだ機体の印象を無意識ながらに口が紡いでいた。

 

「……可愛いかっこいい」

 

 ───SDストライクフリーダムガンダムは荘厳たる面立ちでこちらを空から見据え未だ動く気配無し。

 そもそも乱入者とは何か、その疑問が走ったと同時に目の前のザクⅢから回線が走る。

 

「バウトシステムには乱入システムがある、乱入者側は自分を除いた機体を全て撃破すれば通常よりも多いGPが手に入り、乱入された側は乱入者側を撃破出来れば獲得GPに上乗せがされる」

 

「解説どうも。ただそうなると俺のアイズガンダムは役立ちそうにねぇな、見ての通り満身創痍だ」

 

 見れば武装の全てが破壊されており、バトル前にエイジが語ったGPにボーナスが入る項目が満たされていることに気付く。ここまでエイジが計算していたと考えると空恐ろしい。

 時間にして十数秒か、互いが攻撃をせずに相対する構図が続き、唾を飲み込む。

 短い電子音がストライクフリーダム側からの回線──オープン回線が開かれたことを示し身構えた。

 

「あー、てすてす。よしっ。マイク良好ですねっ」

 

 どうやら乱入者は少女らしい、数度の咳払いの後スピーカーから大きな深呼吸の声が聞こえどこか毒気を抜かれる感覚を覚える。

 

「全国の視聴者の皆さんこんにちはっ!アウターtuberアイドルのゆななだよ~っ!今日は皆さんお待ちかねの学園都市バウトシステム編っ!」

 

 スピーカーからの猫撫で声にただただ唖然とするリュウとエイジ。聞き慣れない単語の羅列に僅かに顔をしかめるが更なる驚愕がポップな音楽と共に戦場へ鳴り渡った。

 

「それじゃあいくよ~っ! スタートナンバー。『恋してっ!ガンプLOVEっ!』」

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