ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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2章7話『Result』

「と、まぁバウトシステムについてはこんな感じだな、リザルト画面で手に入れたGPが分かるはずだ。それと──」

 

 衝撃が3つ、リュウの中で激しく渦巻いていた。

 まず【プラクティス】を構成していた粒子が輝きと共に空間へ溶け、半透明になったフィールドには元々の歩道が透けて見える。幻想的という感想を超えた言い様のない感動が胸に湧き、自分が学園都市での先行実験に参加している実感に手が汗を滲ませる。

 

 次にアウターギアが映し出すホロスクリーンに表示された約600GPの表記。本当に今のバトルで仮想通貨を得れたのか何度もアウターギアを再起動させるが、変わらずに表記は続く。

 

 最期の衝撃は、今しがた行われていたエイジとゆなを名乗ったファイターの戦闘内容だ。SDストライクフリーダム側のパイロットによる操作ミスが目立ったが、搭乗した機体のレギュレーションは800赤文字。レギュレーションの中でも更に性能の指標となる文字色だが低い方から緑文字、青文字、紫文字、赤文字と4つの区分に分かれておりSDストライクフリーダムはレギュレーション800に相応しい機動性、射撃火力を誇る機体だった。

 対してザクⅢ・ウェポショナリーアームズのレギュレーションは400青文字、マトモにやりあえば劇中よろしく即撃破されるマッチングだがそれを持ち前の読みで勝敗を覆した試合結果に震えと感動と、黒い感情が芽生えるのを抑えられない。

 

「ってことなんだが、……リュウ今の聞いてたか?」

 

「──あ、悪い。聞いてなかった」

 

「もっかい話すぞ?つまりザクⅢ・ウェポショナリーアームズはザクⅢに元々内蔵されてたビーム兵器を撤廃し、そこに回してたエネルギーを駆動系に送ることで運動性が向上していて……」

 

「あれ!? さっきまでGPの説明してなかった!?」

 

「リュウさん大丈夫です。リュウさんが説明を間抜けに……あっ呆けて……あのっ考え事して聞いていなかった分を私が記憶しています」

 

「間抜けでいいよッ! 優しいフォローがかえってキズを増やしてるからねナナくん!?」

 

 思いがけないナナからの無自覚な罵倒に心が損害甚大。空に嘆いていると少女がこちらへ近付き視線がリュウを捉える。おずおずと少女が手を伸ばし、そのまま人差し指と中指をその手に握られる。何事かと小さな手から顔へと視線を移し、こちらを見つめる少女の目は微かに潤んでいるようだった。

 

「……何ともないですか?」

 

「お、おう? バウトシステムへの感動とエイジに対しての嫉妬心が沸いている以外は大丈夫だぞ?」

 

 返答に少女は答えないが、目を逸らされ淡い綺麗な髪が揺れる。

 握られた手は力を増して小さく震えていた。

 

「ロリコン」

 

「今のは言われても仕方ねぇと思ったけど言わせてもらう! これは違う!」

 

「まぁいい、そろそろここから離れないとオレ達も巻き込まれるな」

 

 茶化すエイジが顎で視線を促す。見れば道行く通行人が今のバトルを観戦していたようで皆興奮した面持ちでアウターギアを耳へかけており、少し離れた場所では既に1on1のバトルが行われているのを伺えた。

 

 ──バトルシティという表現が咄嗟に浮かび、それがあながち間違いでもないとアウターギアの電源を切る。

 

 このままバウトシステムに明け暮れるのも悪くないが多くの荷物があるのと購入したガンプラを早く帰って組みたいであろうナナが居ることからそれは躊躇われた。

 

「ん?あの女の子」

 

 脇に避けた荷物を持とうとしたところ、1人の少女が明らかにこちらへと向かってきているのを視界に捉える。腕を大仰に振る様子からは怒っているようにも見えた。

 というか明らかに怒っている、でないならばあそこまで鼻息荒く大股で近付いてくる人間が居るものかと思わず後ずさる。

 

「ちょっと! エイジって人はどっちですかっ!」

 

「こっちです」

 

「俺を指差すな!」

 

 いけしゃあしゃあと笑顔で向けられた指を強引に突き返す。

 交互に掛けられた視線がエイジへと収束し、少女が1歩更に近付いた。

 

「あなたがエイジさんですか?」

 

「そういう……ことになるな、ご用件はなんでしょうか」

 

 視線を少女から外すが、逆に少女からの視線が強まる。

 笑顔がひきつる表情が何とも愉快だ。

 

「決まってるじゃないですか!ゆなの生放送を台無しにした責任、取って貰いますからねっ!」

 

 腰に手を当て、少女は良く通る声で薄い胸を張った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「リュウ配達サービスに時間かけすぎだぞ、いつからあるサービスだと思ってんだよ」

 

「昨日出来たばかりのサービスだよ!? スマホで簡単操作とかなんだこれ、便利!」

 

 学園都市のサイトからアプリをダウンロード。スマホの指示に従えばあら不思議、指定されたGPを支払えばドローンが飛んできて荷物を自宅まで届けてくれる便利な機能だ。荷物の量が量だけに獲得したGPの残りは心許ないが元より泡銭の様なものなので目を瞑る。

 世界最先端技術が多く備わった学園都市の恩恵に感謝しながら最後の荷物───デンドロビウムの箱が空へと飛んでいった。

 

「で、エイジさん質問なんですが。どうして俺とナナも連行されるのでしょうか?」

 

「頼むよリュウ、こんな意味不明自称アイドルの少女と一緒に行動するなんて何されるかわかったもんじゃないだろ」

 

「誰が自称アイドルですかっ! ユナは正真正銘のアイドル、アウターtuberアイドルゆななですっ!」

 

 小声で会話するエイジが隣から噛み付かれる。

 自称アウターtuberアイドル──ユナがエイジをじろりと睨み、それを興奮した動物を宥めるようにエイジが手で制す。

 

「ユナちゃんは第3学区の学園生徒なのかな?」

 

「そうですよ、【爛苗(らんびょう)ガンプラ学園】期待の1年生ユナ・ホシハラですっ!あっ、サインは1枚300GPですよ」

 

 自己紹介と共に少女がウィンクとポーズを取る。

 言われてみれば見れば整えられたネイルに薄いメイク、デフォルメされたザフトのロゴがワンポイントに光る黄色のノースリーブと首に掛けられた大きめのヘッドフォンから成るファッションは一般人とは確かに違う芸能人然とした風貌だ。

 ──【爛苗学園】、ガンプラによるショーやタレントの育成を主点に置いた学園だったはずと記憶を掘り起こす。

 

「それでぇ、学園都市解禁2日目の昼間から学校をサボっているお2人はどこの不良学園の生徒なんですか?」

 

 深々とブーメランが突き刺さっている発言を無視し、エイジが後ろ頭を掻きながらそれとなく告げる。

 

「オレとリュウは萌煌学園3年生で今年プロを目指しているガンプラビルダー兼ファイターだ」

 

「──ほぅッッ!?」

 

 ジャングルに生息してる鳥のような奇声をあげ、少女は身を硬直させる。

 見開いた大きな瞳を1度瞬きし、言葉を発しようとしているのか口が開閉をする、が。驚きのあまり言葉が出てこないといった具合にただ口をぱくぱくとしているだけだ。

 

「ほ、ほぅっ! ほほっ、ほほーっ! ほうほぉほぅッッ……! 萌煌学園!? 萌煌学園と言いましたか今ッ!?」

 

「そんなに驚くことじゃないでしょユナちゃん」

 

「驚きますよっ!萌煌学園といえば『技量は衰え、力は弱まり、されど日本に萌煌あり』と海外選手に言わしめた学園じゃないですか!ユナの大好きなあの人も居る学園ですっ!……そっかぁ、それなら爛苗学園の生徒と比べて桁違いに強いわけですよ」

 

 言葉尻が徐々に小さくなりユナが肩を大きく落とす、その様子をエイジと顔を見合せ苦笑いをお互い浮かべた。───確かに世間一般が抱く萌煌学園のイメージは今ユナが言ったような印象が大きいだろう。

 ガンプラの製作とバトルを第一に置いた校風と授業、それらに厳しい校訓が加わることで在籍している生徒全員の技量は他学園と比べても卓越していると言っても過言ではない。

 更に萌煌学園生徒の強さを後押ししている要因として年2回の学内試験が有名だ、成績が近い人間同士ランダムに選ばれた2人がガンプラバトルで潰し合い、負けが続くと退学を余儀無くされる総当たり戦。この残酷なふるいは『萌煌』というブランド名に釣られて入学した生徒や入学したことで慢心した生徒を落とすシステムで、それらを潜り抜けた人間が晴れて3年生へと進級することが出来る。

 リュウ自身も『萌煌』のブランドに目が眩んで入学した1人で、周囲の生徒が抱く志の違いで自己嫌悪に陥ったことが記憶にある。

 

「──プロと、アマチュアの違い……」

 

 漏れ出た言葉に口を手で抑える。顔を見合せているエイジは変わらず苦笑いを続けており今の言葉は聞こえていない様子だ。

 悟られないよう苦笑いを張り付けて「その評価は盛りすぎだよ」とユナへと告げる、そう言った自分の顔がひきつってないか、心中で何度も確認を行った。

 

 ──黒い記憶が、思い出したくない記憶がふつふつと甦り脳裏を掠める。

 

「萌煌学園の生徒が2人。これは良い動画が撮れる気がしますよーぅ!」

 

 高らかな声と共に歩みを再開し、エイジもそれに続く。

 取り残された形でその場に立ち尽くし、照り付ける日射しのせいか汗が頬を伝った。鼓動の音が脳内に響き、呼吸する息遣いですらやけに大きく聞こえる。

 

「リュウさん」

 

 思考の靄が声で掻き消える。ナナの瞳は変わらずリュウを捉えて呼び掛けた声はどこか案じてるようにも聞こえた。

 

「わり、ありがとナナ」

 

 頭を振り、空いた片手で思いきり頬を叩いた、今はそんなことを思い出している場合じゃない。

 乾いた音が真新しい歩道に響き、道行く通行人がこちらを何事かといった様子で視線を送る。それを礼で謝り倒し、握られた手を前へと引いた。

 

「行こうぜ」

 

「はい、リュウさん」

 

 見れば今の音でこちらを見据える影が前方に2つ。

 茶化されると覚悟しながらも少女の手が離れないようリードしながら前へと歩みを始めた。


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