ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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2章8話『正体を隠して』

「さっすがオープンしたてのファミレス!美味しそうなものが沢山ありますねっ」

 

「……!」

 

 目を輝かせテーブルに置かれたメニュー表を食い入る様にユナが見つめ、その向かい席のナナも表記された色鮮やかな料理やデザートに瞬き1つせず見惚れている。こう見れば微笑ましい年相応の少女そのものだ。

 そんな様子をコップに汲まれた水で喉を潤しながら長閑に眺める。

 

 昨日オープンしたばかりの店内は全ての設備や備品が真新しく、輝かしい白を照明が更に際立たせており入店した際は本当にファミリーレストランか入口で戸惑ったほどだ。

 第3学区と他の学区を繋ぐ唯一の駅その正面ビル、──ファミリーレストラン【リミッデ】はビルの4階に店を開いており第3学区を一望出来る景色とガンダムを強く意識したメニューが売り。と、エイジが席に着くや否や店の評価が書かれたスマホの画面を机に置く。

 

「他の学区からもアクセスしやすいし場所も良い、ここなら確かに強いファイターが来てもおかしくないな」

 

「その通りですっ。ユナのチャンネルは猛者を求めてます! 猛者を!」

 

「オレやリュウが戦わないと本人が操作へなちょこで勝てないからな───いっだぁッッ!?」

 

 机の下、ユナのヒールがエイジの足甲を抉る。

 エイジにとどめを刺されたのがよほど悔しかったのか、同行してからのユナがエイジへと向ける態度がやたらと尖っていた。友人の身としては初対面とっつきにくいエイジに物怖じせず意見するユナは中々相性が良いように思えて何よりだ。ちなみにリュウの事は格下だと思っていることを先程面と向かって言われナイーブな心に冷や水が染みる。

 

「爛苗生徒相手なら無敗でしたよ!ユナのストライクフリーダム!」

 

「そりゃ爛苗学園はバトルメインの学校じゃないからだろうな、きっと性能に物言わせたゴリ押しで勝てていたんだろ。違うか?」

 

「てりゃっ」

 

「おぉふッッ!」

 

 学ばないエイジが再び悶える。鼻を鳴らしメニュー表へと視線を移す彼女、リュウの視線はどうしても服のワンポイントとして主張するロゴが気になって仕方がない。ガンダムSEEDシリーズに登場する勢力【ザフト】を示すロゴはユナが操作していたストライクフリーダムが所属していた組織だが、彼女の言動や振舞いからとある疑問がリュウの中で生まれ横顔にそれを投げ掛けた。

 

「少し失礼な事を聞くんだけど、もしかしてユナってストライクフリーダム以外ガンダムを知らなかったりする?」

 

「ん?そうですよ。あ、でもストライクフリーダムじゃなくて、このSDタイプのストライクフリーダム以外興味ないですかねぇ……かんわゆいですよっこの子!」

 

 惚気た表情でポーチからSDストライクフリーダムを取り出す。机に置かれた機体は戦闘での印象通りかなり手が加えられてあり、元々のキットには見られない装甲の分割や細かい部分の塗装、更には等身の拡張が行われておりレギュレーション800赤文字も頷ける作品だ。

 驚くべきは塗り分けの繊細さで、こうして間近で見ても各箇所に塗られた塗料には一切の滲みが見られずセンサーやメインカメラを際立たせる光沢はバトルで大いに効果を発揮することだろう。SDにこれだけの情報量を詰め込ませながらも破綻が無く、格好良さと可愛さが両立している機体に思わずうなり声が出てしまう。そしてそれは彼女の隣からも同様に漏れていた。

 

「これは……外見もそうだが性能も相当チューンされてるな。オレの記憶が正しければ爛苗学園はガンプラでのショーやパフォーマンスを主体とした学校のはずだが、何故ここまで実戦向けのチューンを?……本当にユナちゃんが作ったのか?」

 

「エイジさん最後の一言が毎回余計ですよ!……ユナが意識した訳じゃないですよ。SDストライクフリーダムの魅力を引き出そうとして弄ってたらこうなっちゃいましたね、先生からはもう少し可愛くしろって指摘されるんですけど断固拒否ですよもうっ、ね?ストライクフリーダムっ」

 

 指がSD特有の大きな頭に触れて僅かに顎が下がる。

 ──つまり彼女の話を要約すると、バトルを想定せずに改造を続けていった結果偶然にも超高性能に仕上がってしまったという事になる。

 だが悲しいかなユナが通う爛苗では実戦向けの改造は推奨されていない事に加え、ユナ自身が自分の作り上げたガンプラの性能に振り回されている。これはファイターとビルダーを主に置いているリュウからすると何とも歯痒い状況だ。

 

「そう言うエイジさんもアレですね、ザクで良くやりますよねー」

 

「薄々感付いたんだがユナちゃんもしかして……ザクの種類分からない感じか?」

 

「失礼なっ! 少しは分かりますよ!? 目が1つでガンダムじゃない奴がザクですよねっ?」

 

「該当する機体が多すぎるッ!」

 

 ユナの『言ってやった!』という顔にエイジが天井へと叫ぶ。設定魔のエイジからしたら彼女の発言に頭を抱えるのは充分理解出来るが、機体対策の為にガンプラを覚えなければいけない萌煌とは違い爛苗は個人の好きなガンプラを伸ばすという方向性なのだろう、そうであると信じたい。

 

 アイズガンダムを青いガンダム呼ばわりされた事に胸が一抹の寂しさを覚えるが堪えて咳払い。視線がリュウへと集中してまずは、と胸の内は晒した。

 

「……とりあえず何か頼まねぇか?」

 

 カウンターからこちらを伺うウェイトレス。その意図を察してテーブル中央の押しボタンを気恥ずかしく押したのだった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 どれくらい時間が経ったのか。

 ナナが初めての外食だった事に席が盛り上がったり、ユナの量産機体を蔑ろにした発言でエイジの地雷を踏んだりと。少なくともナナが食後のデザートとして注文した規格外の化け物パフェを食べ終わって、一同そろそろ席を立つかと話した頃合いに店の扉が開いて店内に静かな鈴の音が広がる。

 

 ───大きな男性だった。

 

 リュウから丁度見える店の入口、普段なら談笑と共に意識から消える客に目が止まった。

 ここからでは横顔しか確認出来ないが、その風貌は見る人間の視線を捉えて離さず学園都市でガンプラビルダーガンプラファイターを嗜んでいる人間ならば誰でも動揺が走るだろう。それだけ僅かに見える褐色の肌と艶めく銀の頭髪は特徴的だった。

 

 軍人が羽織るような黒と銀を基調にしたロングコートに物々しいブーツ。コートの上から見ても確かに分かる盛り上がりは発達した筋肉による物で、おおよそ日本人離れしたその身体付きは恐らく外国人だ。外国人と断定が出来ないのは男性が顔の上半分が隠れたマスクを装着しており顔付きを詳細に伺えない。

 

 シャア・アズナブルのマスクを被った男性が店員に案内され席へと向かう。足取りはこちらの席に向かい、あろうことか奇怪なコスプレをした男性はリュウの真後ろの席へと座った。

 その圧倒的な存在感に向かいの2人も会話の声がフェードアウトし、固まった表情で男性が席へと座る工程に目が釘付けになる。

 

「──見せてもらおうか、学園都市のファミリーレストランの性能とやらを……!」

 

 やべぇ人だ、振り返るわけにもいかず耳で男性の子細を伺う。突き刺す様な冷たい声から放たれた劇中の名台詞、そのギャップが異様なシュールさを醸し出しており突っ込みを思わず入れてしまいそうになる欲求を自制した。

 やがて男性が小さな声で店員へ注文をし、示し合わせる訳でもなくこちらは日常を装って観察を続ける。耳を男性に傾ける中向かいのユナが顔を近付けてきて耳打ちし、リュウも最小の声で応じた。

 

「……リュウさんっ動画のネタにぴったりの人が来ましたよ」

 

「動画どころか存在がネタだよ! 店員も動揺を隠しきれてなかったぞ!」

 

「あの人を動画のサムネにしたらインパクト間違いなしです、じゃリュウさん。コンタクトお願いします」

 

「なんで俺なの!? 隣の野郎に頼めよ……っていつの間にか居ねぇしクソ! 逃げやがった!」

 

 トイレへと向かってるエイジが意味深な顔でリュウへと笑いかける。人を馬鹿にした顔に殺意が湧くが、ぐっと拳と共に抑えて背もたれへと掛ける。話を切り出そうにもタイミングが掴めずどうしたものかと腕を組みながら作戦を練っていると店員が男性の席へとカートを押して料理を運んできた、肉が焼けている良い匂いだ。

 

「お、お子様ランチです…………フフっ」

 

「──ありがとう」

 

 あくまで自然体を装う男性に女性店員が負け、笑いを抑えて顔が愉快なことになっている店員が足早に席を離れる。

 釣られて笑いが出そうになるのを堪えながらも男性へと話し掛けるタイミング引き続き探った。

 

「───食材は最大限に活かす、それが私の主義だ」

 

「ぶふぉうッ……!」

 

 鉄板にソースを掛けたのか香ばしい匂いと共に食欲のそそる音が後ろから鮮明に聞こえる。いちいちシャアの台詞を言いながら行動を行うのが腹筋に悪い。

 

「───勝利の栄光を! 私に!」

 

 堪えた。唇を接ぐんで、下唇を噛んで。震える腹筋を呼吸で正常に戻そうとゆっくりと息を吐く。笑ったらいけないと目を目一杯瞑る。

 これはいけない、と拳を更に握る。握りながらも次はどんな台詞が男性の口から出るのか気になって仕方がない。

 食器の音が聞こえ一口目が食べ終わった様だ、更なる笑いを堪えるため息を止め──そして。

 

「───美味しい」

 

「そこは『ええぃ! ファミリーレストランのお子様ランチは化け物か!』だろうッ!!」

 

 席を立ち、叫んだ。店内に声が響きカウンターの店員の視線がリュウへと刺さる。

 やってしまった事の大きさを徐々に冷や汗として実感し、ゆっくりと後ろを振り返った。

 

「───」

 

「あ、あの……」

 

 言いどもる。もはやこうなってしまっては仕方ないと観念し男性へ事情を伝えた。リュウの話を聞こうとする姿勢から想像以上にマトモだな、と思いながらも男性につられたのか胸の内に1つの台詞が浮かび上がった、後先考えずに突っ込みを入れてしまった自分に対する台詞が。

 

 ──認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを。

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