ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章2話『マイバトルルーム』

 萌煌ガンプラ専門学園は3年制研究科制度有りのシステムで、今年春から3年生のリュウは学園生徒全体の召集と自身が選択した科目以外は参加しなくとも良い。本人さえ希望すれば月1回の学園集会以外を全て自分の自由な時間にすることも可能だ。普段通り授業を受けるも良し、プロの試験へ挑戦するも良しと、3年生からは個人の『ガンプラビルダー』及び『ガンプラファイター』として生活することが出来、学園側も生徒1人1人に最大限のバックアップを行うという珍しい校風だ。

 

「で、お前はオレの予想通り選択科目は全て希望しなかったと」

「あったりめーだろ!アウターが今夜から開放されんだから授業なんかやってられるか!」

 

 さも当然かのように言い放ち自慢げに腕を組むリュウ、それをエイジは嘆息をつきながらもどこか嬉しげに作業を続ける。

 体育館で事務的な説明と、理事長の有難い話に睡眠不足だったリュウは集会の半分以上を聞いていない。アウターの説明が始まった際に起こしてくれたエイジには感謝を覚えつつ1ヶ月使われていなかったガンプラバトルスペースを磨く雑巾にかかる力が強まる。

 

 萌煌学園3号棟1階の突き当たりにある部屋、12畳正方形のこの空間は学園側が生徒に開放している予約制貸し切りのガンプラバトル及びガンプラ製作の道具が貸し出されている部屋だ。リュウ、エイジが入学し、当時使われていることが少なかったこの部屋に目を付け、予約を二人で交互に行い続けた結果周囲の人間は完全に2人の縄張りのようなものだと理解したらしく近付く者は居ない。そのため完全に彼らかその身内でしか使われず今では予約をして使うことの方が少ない。

 念のため学園のアプリで予約状況を調べたが、生徒の大多数は学園周りの施設のオープンセールや学園都市の見学に行ったようで見事に予約の席は空席だった。

 

「っし、こんなもんだろ!」

 

 天井の照明が綺麗に反射するまで磨き上げリュウは満足げに額の汗を拭い筐体へ寄りかかり、プラフスキー粒子の状態をチェックしているエイジを眺める。その周辺、いや目を凝らせばガンプラバトルスペース全域か、筐体表面に付いている無数の傷が視線に入り感慨深く指先でなぞる。

 

「入学したときは新品同様でピッカピカだったのに随分傷つけたな俺達」

 

「そうだな、これからも沢山付くとは思うがこいつも本望だろ……よし、こっちも異常なし」

 

 労るように筐体を叩き、お互いにキャリーケースとリュックから箱を取り出す。

 出て来た物はリュウはリボーンズガンダム、エイジはガンダムグシオンのガンプラ、お互い違うのはカラーリングや武装が元々のキットと異なる。

 

 リボーンズガンダム、TVアニメ機動戦士ガンダム00セカンドシーズンのラストボスにおける機体で、作中ではその時点で主人公である刹那が搭乗する機体、ダブルオーガンダムにしか登載されていないツインドライヴシステムを採用している。膨大な粒子生成量を誇るツインドライヴシステムはガンプラバトルでもその効果を十二分に発揮し長時間に渡る稼働時間及び強力なビーム兵器を振るうことが可能だ。

 リュウはこの機体色を薄い蒼色に変更、そしてオリジナルには登載されていない武装、腰に下げられた2振りの大型のソードはダイバーエースユニットに封入されているGNダイバーソードだ。元々上半身に武装が集中しているリボーンズガンダムに大型の実体剣が装備されたことにより機体のシルエットはより刺々しく威圧感を増している。

 

 対するエイジのガンプラはガンダムグシオン。

 カラーリングはグレー、リボーンズガンダムのボリュームにも負けない外見の大きさと曲面装甲は防御の高さが伺え、なにより目を引くのは手に持っている巨大な改造されたハンマー。丸々1つのエイハブリアクターが登載され前面部にはプラスチックの輝きではない正真正銘の金属パーツが攻撃力を主張している。

 

 リュウはグシオンの背丈を大きく越える獲物を見、対MS戦では過剰な破壊力であることを一目で理解した。グシオンハンマーの威力は原作のアニメ上で、宇宙に漂う巨大なデブリに対して一撃でクレーターにも等しい大穴を穿つ程だ、エイジの改造であればその威力を越えてくることは容易く想像出来る。

 

「また、その。ワケわからん武器作ったなエイジ」

 

「お、ナノラミネートヴァイブレイションブルスの事か?」

 

「………は?」

 

「リュウが聞いたのはこのナノラミネートヴァイブレイションブルスの事かな?」

 

 自信満々げに語るエイジに頭を抱え、そう言えばと自分自身に向かってリュウは嘆く。

 エイジは学園でも有名な設定魔兼独自のネーミングセンスの武装を操るガンプラファイターだ、春休みを模型屋と家で殆ど過ごしていたリュウはその事をあろうことか失念していた。

 

「このナノラミネートヴァイブレイションブルスは本編終了後、戦力の縮小を余儀なくされた海賊が武器を多く売り払い、少ないモビルスーツの数で戦力を向上させるために作られたエイハブリアクター使用の試作兵器という設定でな、目玉はなんと……───

 

「分かった分かった!聞いた俺が悪かった!さ!バトルやろうぜ!」

 

 眼鏡を輝かせ捲し立てるエイジを落ち着かせお互い筐体を挟んで向かい合う。

 ガンプラファイターのバトル映像や設定を記録する3角形のデバイスを筐体にセットし、両手を空中に掲げ宙を掴むように待機させる。瞬く間に筐体を中心に部屋全体へプラフスキー粒子が散布され、何とも幻想的な小さい煌めく星のように粒子が部屋を彩る。

 やがてリュウ、エイジの周りにプラフスキー粒子が映し出すホログラムがコックピットを形取り、両者左右正面にモニター、レーダー、機体情報が表示され、宙を掴んでいた両手には、初めからそれを掴んでいたかのように光の球体が現れた。

 

「リュウ・タチバナ!リボーンズガンダム/S!出る!」

 

「エイジ・シヲリ!ガンダムグシオン・轟・パニッシャー!発進する!」

 

 発進シーケンスが終わりリュウ、エイジのガンプラが空へと射出される。

 コックピット内には飛翔するガンプラから生る風切り音が響きわたり、非現実という言葉が毎度のことのようにリュウの頭に浮かぶ。現実からバトル空間に切り替わるこの瞬間、現実から乖離されるこの瞬間が自分がガンプラファイターなのだと実感し笑みが浮かぶのを抑えられない。

 

 降下して数秒、目に入ったのは青々と育てられている野菜畑。それでいて周囲には岩肌、そしてマップ中央に大きな施設が設置されている。

 

 ────機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ、農業プラント。

 

 ランダムのステージから自身のガンプラが活躍する原作のフィールドが現れたのを見て歓喜しているエイジの様子が鮮明に目に浮かぶ、というかコックピット外からの「うおー!」だの「ツイてる!」だの肉声が実際に聞こえる。バトルに没頭するためコックピット内の音量を高め、より重圧な音を肌で感じられるまで上げ、状況を確認。

 

 画面右上、円形状マップには自身のマーカーしか見当たらず、メインモニターにもグシオンは見えない。

 まずは物陰に隠れ作戦を立てることが最優先だと判断し、農業プラント端、峡谷へと向かうためブーストを噴かす。操縦棍を前へ押し倒したその時だった。

 

 リボーンズガンダム後方から勢いよく巻き上がる土煙に心臓が跳ね上がる、ここのフィールドの地面は多少の風で大袈裟に土煙が巻き起こるため、移動をしようとすると敵に位置がバレてしまうことを忘れていた。慌ててブーストを抑え、高度を最低限維持出来る程度に飛行するが明らかに不自然に砂が舞う。

 

「しくった……!」

 

 既にケア出来る規模ではなく遠目からでも気付けるほどの不自然さにまで発展し、このまま高速で峡谷へ移動して誤魔化すか開き直ってグシオンをしらみ潰しにフィールドを駆け回るかの選択肢が浮かび上がった。

 ───その思考を突如発生した強風が吹き飛ばす。

 何事かと機体が風に煽られないよう操縦棍を握る力を強め状況を把握するためモニターに目をやると、ステージギミックの突風が運良くリボーンズガンダム周辺で発生したようで、地表の砂を大きく巻き上げ小さな砂嵐となりフィールドを駆ける。

 好機とばかりにスラスターを噴かしその場を去り、幸運に感謝しつつリボーンズガンダムは峡谷へと徐行で向かった。


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