ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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2章11話『掌の上で』

「どおおぉぉぉおなってんだよこれ! 何だ!? 忍者か!? 分身の術か!?」

 

 アイズガンダムのバインダーをディフェンスモードへと変形させ地上からの射撃をやり過ごす。

 嫌な話だ、電波妨害が走ったと思ったら川の中からグレイズランサーが現れ相手をしていたら2機目、3機目と続いて水中から姿を現した。

 しかもそれぞれの俊敏性が尋常ではなくGNバスターライフルの射撃は今のところ全て外してる。

 

「リュウさん、右後ろ方向。跳躍したグレイズランサーが!」

 

「おうよ! 見えてるぜ!」

 

 大型ランスを前方へと突き出しアイズガンダムの死角を捉える。

 だが予め撒いておいた餌だ、意図的に死角を作り出し敵の突進が来ないものかと誘ったが早速効果があった。

 タイミングを合わせ操縦棍を前へと押し倒し、

 

「突進ってのは威力が高い分小回りが効かねぇからな!」

 

 アイズガンダムが僅かに体を逸らす。1度進路を決めたグレイズランサーの突進は宙を穿ち、今度は自分が死角を晒す。だが絶好の機会を前にしてアイズガンダムはナノラミネートアーマーに対し即応して致命打を与える手段を持たない、ならばと。

 

「この暴れ馬ッもう少し行儀良く走れ!」

 

 スラスターを全開、後ろから抱き付く形でグレイズランサーへと取り付く。激しく空中で身じろぎを行いアイズガンダムを振り払おうとするが見事に乗馬をする形でしがみつき、上半身を羽交い締めした。

 

 ───スロットを展開、7番スロットアルヴァアロンキャノンを選択。

 

 バインダーがフレキシブルに真下を向き、破壊の閃光が2基の間で迸り解放の時を待つ。

 狙いは後ろ足、ここを破壊してしまえば大型ランスのサイズ上取り回しが出来なくなり戦力は激減するはずだ。

 

「これをあと2機か、骨が折れるぜッ」

 

 これから予想される仕事の多さに辟易しながらトリガーを引く。

 深紅の照射が真下の川を斬り裂き膨大な熱量で熱せられた水分が水柱としてエネルギーを解き放った。

 

 ───だがその軌道上にグレイズランサーの姿は無い。

 

 何事かと空中に放り出されたアイズガンダム、しかしその手はしっかりとグレイズランサーを羽交い締めしている。突然の異常事態に行動を迷い思考を巡らせる……ならば胴体はどこへ消えたのか。

 

「リュウさん! 後ろです!」

 

「ッ!」

 

 叫びにも似たナナの声に従うままグレイズランサーごと後ろを向くその瞬間、モニターが大きく揺れた。

 

「な、はぁ!? 分離ぃ!?」

 

 グレイズランサーが抜き手で貫かれる。それを行った敵、それは先程までアイズガンダムが座っていた胴体。

 ───後ろ足へと変形していたレギンレイズだった。

 

 じきに爆発するグレイズランサーを前へと蹴り飛ばし即座に距離を離すためバーニアを後ろへと噴かす、空中飛行能力を持たないレギンレイズは身を膨らませたグレイズランサーを抱えたまま地面へと落ち水中へ。大きく水柱が上がった。

 

「元から2機で1機を装ってたのか、すると地上でこっちを睨んでるあいつらも……」

 

 恐る恐る目をやる。

 リュウの懸念に応えるかのように地上のグレイズランサーが次々と変形、大型槍を携える1機と鋭いマニュピレーターを開きアイズガンダムを睨むレギンレイズが1機。合計4機が空中のアイズガンダムを取り囲むよう地上で待機していた。

 

 1対4。元々はこちらが数の有利を誇るはずの戦況が引っくり返っており、顔から温度が失われていくのを感じる。

 

「これ下に降りたらブルデュエルも真っ青な惨状が待ってるよな」

 

「……ブルデュエル?」

 

「沢山のわんちゃん達にかじられた機体、家帰ったら見るか」

 

 絶望的な状況を紛らわすように軽口を隣に溢す。

 冗談でもなく、仮に地上で戦うことを想定したら間違いなく脳内イメージ通りの光景がアイズガンダムを襲うだろう。グレイズの頭部センサーがトラウマになること必至だ。

 

 初めのグレイズランサーを倒してからこちらを睨むグレイズ達に動きが見られず、振り切るため移動すると一定の距離を保って付いてくる。それらの奇妙な挙動も一切乱れず決められた動作の1つの様だった。

 

「このバトル、何かおかしいぞ」

 

 違和感が思考をなぞる。

 ガンプラを破壊したにも関わらず終わらないバトル、相手は1人のはずなのに圧倒的な敵の数。

 そして一切乱れないグレイズ達の挙動。

 

「──あ」

 

「どうしました?リュウさん」

 

「ちげぇ、これちげぇぞ。」

 

 繋がった。

 思い返せば空中での攻防で横槍が入らなかったのもこの仮説が正しければ頷ける。

 

「距離だ、受信範囲。でも電波妨害の中?……そうか、機体間を通じて」

 

「リュウさん?」

 

「分かった……! あのグレイズ達、ファンネルと同じだ。───親玉がどっかに潜んでやがる!」

 

 思考が、弾けた。

 仮説としてはこうだ。機体を破壊したにも関わらず終わらないバトル、これはガンダムXに登場するGビットと呼ばれる機体のように本体からの脳波受信で動くファンネルと同じのモビルスーツだ。

 恐らくこのグレイズ達はパターン化された挙動の他に親機が手動で操作出来る様に改造されているのだろう、そして今は全機体共通の挙動を取っている。

 そして電波妨害の中動いているグレイズ達の謎、考えるにグレイズ達を子機として電波接続をし繋げているはずだ、距離を詰めようとしなかった2機のグレイズランサー達にも納得がいく。

 

「だとしたら、今は全機待機状態みたいなもんか。本体はどっかしらで俺を狙っている。」

 

 グレイズ達へ電波を届けさせるために親玉は付近に潜伏しているはずだ。

 地上は陸地と川しかない見渡しの良い地形、モビルスーツが居れば一目で分かるはずだが姿は見えない、光学迷彩か……それとも。

 

 射撃音が思考を切り裂く。

 

 地上のグレイズ達が一斉に大型ランスを空中へ向けアイズガンダムを狙う。動きあり、と敵の狙いを探るよう注意しながら空中を旋回。予想通り偏差射撃をしてくるグレイズが居ないことから自動標準射撃の可能性が高い、これらの射撃だけなら単独飛行能力を持つアイズガンダムなら避け続けるのは容易だ。

 

 その中の1機がランスを構え、槍先をこちらへと向ける。グレイズランサーにパイロットが乗っていない事を考えると迎撃するかどうか迷ったが、今は4脚では無く2脚、いわゆる通常のモビルスーツ形態。先程のように分離からの奇襲も無く好機だ。

 繰り出される突進を避け交錯時に間接を狙おうと、GNシールドからビームサーベルを引き抜く。

 

 グレイズランサーが跳躍。想像通り突進の挙動は単純だ、機体を2分にしたことにより突進速度は弱まり対処は容易。ビームサーベルの出力を最大に震わし槍先を回転する事で回避、後ろから遠心力に任せるまま鉄血のオルフェンズ機体に多く見られる細い腰接続部を凪ぎ払った。

 

「っし!」

 

 グレイズは身を文字通り2つに分けられアイズガンダムの後方で爆発、衝撃が機体を心地よく揺らす。

 故に気付けなかった。敵の戦略を、意図を。

 

「な──アラームッ!? どっから!」

 

 けたましく鳴り響く警告音。普段なら攻撃が迫る方向をモニターが表示してくれるのだが今は電波妨害もありアラームしか鳴らない。

 すぐさま地上のグレイズ達へと目をやるが攻撃をしている気配はなく、それどころかグレイズ達はどこか項垂れるように力なく直立をしている。まるで機能を停止しているかのようだ。

 

「本当に──良いファイターだ君達は」

 

「上ッ!?」

 

 オープン回線から聞こえた声はあの男性の声だ。

 それは空中のアイズガンダムより上から聞こえ、今まで地上に釘付けだったせいもあり反応が遅れた。

 

 体勢を構える暇も無いまま高高度からの奇襲にアイズガンダムは身をジャブローへと墜とした。


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