ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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2章15話『紫怨の凶星』

 閃光が暗闇を彩りデブリ帯を断続的に照らす。

 翆の照射が数発空間を貫き、漂う隕石が膨大な熱によって風穴を開けた。次の瞬間、閃光の発生源付近を漂っていたデブリ達が次々と両断され、やがて大きな爆発が宙域に咲く。

 

 右腕を綺麗に削がれたF91が全速力でバックブーストを噴かし、デブリ帯から逃げるように移動を続けている、が。

 

「糞がッ!何だってんだよッ!何なんだありゃあ!」

 

 真っ赤に点滅をしているモニターへ怒号を飛ばし、隻眼の男がレーダーを確認する。

 迫る敵機は追撃をやめ、今は距離を離していた。その隙に機体状況を確認しようと───。

 

 レーダーが更新、敵がデブリの影からぬらりと出てくる。

 

「馬鹿がッ!余裕ぶってんじゃねぇぞオラ!」

 

 F91背面側フレームアームがフレキシブルに可動し、操縦棍を操作。高出力に調整されたV.S.B.Rが敵機へとロックオンされプラズマを迸らせながら戦域を斬り裂く。

 威力は最大出力のアルヴァアロンキャノンには劣るがヴェスバーの利点はその速射性にある。トリガーを連打し、連続して放たれた殲滅の雷撃はロックオンされた敵へと恐るべき速さで襲いかかった。

 

 ───だが、敵機の挙動に息を飲んだ。

 

 慣性を無視したそのマニューバは全身に備え付けられたスラスターによるものだろう。バレルロールからの左右へ回避。ビームライフルも加えた弾幕を先読みしているとでも言うような動きで悉くを避ける。

 

 ましてやここは。

 

「デブリ帯でそんな動いてよぉッ!自殺志願者か頭イカれてるド腐れ野郎だろ!」

 

 万一デブリに衝突でもしたらスクラップ確実であり、操縦している人物は真っ当な神経をしている人間には思えない。男は苛立ちに唇を噛みながら射撃の連射速度を上げた。

 ヴェスバー、ビームライフルの連射速度をそれぞれ調整し弾速が異なる弾幕を形成、だがそれを剃刀の如く角度を付けた連続の挙動で回避、回避、回避。

 

 決められた殺陣を立ち合うように敵には射撃が掠りもしない。目の前に漂うデブリを最高速度のまま乗っかり、次のデブリへ。跳躍したデブリが大きく爆ぜたことから敵の恐るべき膂力が伺えた。

 

 見る見る縮まる機体の距離。男は悲鳴混じりに操縦棍を展開、エクストラスロットを選択した。

 

「めっ……、MEPEッ!!」

 

 その叫びにF91の機体表面が金属剥離現象を引き起こし、質量を持った残像が機体の軌跡上に映し出される。これによりロックオンカーソルは敵モニターから消え失せ、レーダーには機影が複数表示されることだろう。

 

 丁度良く進む先には大きなデブリ群、そこで身を隠して奇襲してやろうと機体速度を更に上げた。デブリ群を縫い合うように進行し手頃なデブリの影で主機を落とす。

 ここで20秒もすれば敵の背後へ回れるだろうと計算し、体内時計で数え始める。

 

「ッたく、アウター解禁早々とんでもねぇ奴と出会っちまった糞がよ」

 

 アウターが解禁されて早4日。プレイヤーは様々な任務やバトルに没頭し、その中で少しずつ頭角表し始めた者が見られる頃。興味本位で赴いたアウター内で解禁されているフィールドの果て。

 転移が使えず移動はモビルスーツでしか行えないアウターの最果て、円状に囲う不可視の壁を見に行こうとしたらこの様だ。

 該当する機体は無し、データはマスクされておりプレイヤー名も表示されない。

 

 だがあの挙動からしてプロレベルなのは疑いようのない腕前、もしくは更に上か。アレを倒せば機体情報が手に入るため、嘘の情報を交えれば高額なGPで取引できるのは確実だろう、と口角が歪に釣り上がる。

 

「べ、は」

 

 笑みを浮かべた男の中心を分け断つように刃が突き刺さる。

 アバターダメージによる強制ログアウトする直前、F91が頭部を後ろへと向ける。デブリ毎ピンポイントで貫いた大型槍が抜かれ、その穴から双眸が光る。

 

 機体を紫に染めた深紅のツインアイだった。見るものを戦慄させる機体形状は全身が鋭利で、腰に備えた翼のようなスラスターからは左右3つずつ噴出口が覗き今もバーニアの光を灯している。さながら亡霊に後引く残影のようなそれは不意に火を吹き。

 

 ───目の前へ瞬間移動、構えた槍をF91へ縦に突き刺し止めを加えた。

 

「ぐっ……! 紫怨の凶星ッ────」

 

 機体が爆発する刹那、自然と男の口が言葉を紡いでいた。

 ──怨みを抱いたように紫の機影で執拗に狙う動きは、流星のように真っ直ぐ勢いを殺さずに対象を仕留める。

 

 上等なネーミングセンスだろう、と。

 男は歪な笑みのまま宙域へとその身を散らした。


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