ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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3章2話『私の故郷はシベリアです』

「コトハ機嫌直せって、俺の話を聞いてくれないか?」

 

「つ~んっ」

 

「何も言わずに悪かったって。連絡しなかったのはプロリーグで頑張ってるお前の気が散らないよう俺なりに考えたからなんだって、隠してたんじゃないって」

 

「ふ~んっ」

 

「あ、冷蔵庫にプリンあるんだった。食べるか?」

 

「食べる」

 

「そこは素直なんだ!?」

 

 腕を組みあぐらを掻いて、いかにもと言った具合のコトハが口をへの字に固めたままプリンの蓋を開ける。

 第3学区の有名スイーツ店【アクスィズ】自慢のプリン。『ハマーン様も唸る美味しさ』をキャッチコピーに売り出されたこのプリンは早速雑誌で取り上げられ、これを目当てに様々な学区から学生を初めとした多くの客が足を運んでいる。

 ナナと自分への土産として購入したプリンだったが、これ1つでコトハの機嫌が直るなら安いものだ。

 

「全く、はむっ。甘いもので、あむっ。わたしを釣ろうって、むむっ。魂胆が気に入らないよ、ふ~んだ。ぱくり。ごちそうさま」

 

「少なくともプリンを掻き込みながら言う台詞じゃないなそれ」

 

 黙っていれば美人美女とは誰が言ったか。ふんわりと桃色の綺麗な髪を揺らしながら、丼を食すが如くの食べっぷりで器をテーブルへ置く。物言いは棘が未だ残るが口元は緩んでおり、彼女の扱いやすさを再確認した。

 咳払いを1つ、リュウに見せ付けるよう置かれたトロフィーに目をやる。絢爛な造りだ。機動戦士ガンダムNTの特徴的なポーズを取ったガンダム、Zガンダム、ZZガンダムが輝かしい黄金色で造形されており、頂点に位置するガンダムが伸ばす掌には1stと刻まれたハロが可愛らしく存在を主張している。

 先程顔面に埋まったそれを眺めていると、テーブルの向かいからニヤニヤと笑みを浮かべてコトハがこちらを伺っていることに気付いた。

 

「へぇ~最近の大会は参加賞でもこんなに豪華な奴くれるんだな」

 

「参加賞じゃないもん! 優勝したの! ゆ・う・しょ・う!! ……バトルロイヤルの個人戦だけだけどね」

 

「しょぼくれる理由が分からねぇよ、充分凄いだろ」

 

 申し訳無さそうに俯く顔の表情は本物だ。

 すかさずフォローをいれると普段のにへらにへらとした顔に直ぐ戻り、落ち着かない様子で組んだ手の位置をせわしなく変えている。

 

 実際、コトハが持って帰って来たこのトロフィーが意味するものはかなり大きい。

 彼女が参加した大会は、世界中の学生のみが参加出来るといった制限が付いている大会で開催地はシンガポール。その中でも16歳以上が参加出来る制限の付いたコースは参加人数こそ少ないものの、通の人いわく『将来の世界大会』と言われている程だ。

 個人戦、団体戦、バトルロイヤルに分けられた試合形式が更にレギュレーション200、400、600、800と分割され、コトハが参加したのは最もプレイ人口が多いレギュレーション600。

 口振りから察するに個人戦、団体戦の結果が乏しかったことは想像できるが、それでもバトルロイヤルで優勝というのは日本的にも素晴らしい結果だ。

 

「実質的にバトルロイヤルなら学生間で世界一じゃねぇか」

 

「そんなことないよ! バトルロイヤルは乱戦混戦になりやすいから誰にでもチャンスがある試合形式だもん! たまたまわたしの運が良かっただけだよ!」

 

「謙遜すんなって、因みにそのバトルロイヤル何人参加したんだ?」

 

「えと、60人かな」

 

「お前は何人落としたんだ?」

 

「20人……くらい?」

 

「3分の1じゃねぇかっ!? お前が試合を左右してんじゃん!」

 

「違うもん! 本当凄く運が良かったの! 凄く色々あって、わーってなって……凄い頑張った!」

 

「くっ……! こんなアホ発言全開の奴に負けた世界のファイター達に同情を禁じ得ない!」

 

 念のためトロフィーが偽物ではないかぐるっと回すが残念ながら証拠は見当たらない。大きく溜め息を吐いて後ろのベッドへと寄り掛かり、何となくの無言が部屋に訪れた。

 久しい幼馴染みと会話するのがこそばゆい訳ではない。ないが、積極的に会話をしかけるのも不自然というものでリュウの視線がコトハとトロフィーを往復する。

 対するコトハも落ち着きが無い様子でリュウと後ろのベッドに視線が交互し、会話を切り出す代わりに組んだ指を組み替えている。

 

「着替えました」

 

 もどかしい空気を抑揚のない声が破る。ナナが風呂場前の更衣場から戻り服装をいつものドレスへと変え、視界に映るコトハに目もくれず少女が向かう先はいつもの定位置、リュウの真横。

 ナナが座った瞬間、コトハの指を組み替える動作がピタリと止むのを見逃さなかった。目は笑ったままリュウを真っ直ぐと捕らえ無言で威圧。黒い笑顔に瞬間背筋が凍る。しかし幸いか、隣のナナが袖を引き蒼い目で訴えた。

 

「プリン……」

 

「あ、あぁー! すまんナナ! 後で俺の食べていいから!」

 

「今食べたいです」

 

「それはダメだ。朝ごはんより先にデザート食べたらちゃんと育たないぞ。代わりに好きなごはん作ってやる、何食べたい?」

 

「リュウさんの作る料理は全て美味しいので何でも構いません」

 

「ヒュウ! 嬉しいこと言ってくれるねぇ!」

 

 この空気を変えるチャンスと言わんばかりにナナの声へオーバーリアクションで乗っかる。

 早速献立を考え、冷蔵庫の余り物から作れる物を思考。リュウ、ナナ、それにコトハも食べていないだろうだろうから結構な量が必要だ。

 

「で。リュウくん。そろそろ聞かせてもらえるかな?」

 

「ごめん、今献立を考えるのに忙しいんだ。ちょっと待って。具体的に言うと3日間くらい待って」

 

「隣の。女の子。誰?」

 

「…………ハハッ」

 

 思考に思考を重ね口から出たのは乾いた笑いだ。

 ガキの頃から一緒のコトハに下手なことを口走ろうものなら何をされるか分かったものではなく、最悪警察に通報されることも考えられる。ナナと実験のことが周囲にバレることは女博士から固く禁止されており、つまり。この場で最善の答えをコトハへ出さなければならない。

 

「リュウくん」

 

 傾げる小顔の後ろに般若の幻影が見える。最早時間の猶予は無く、頼みの綱である『困ったときのエイジくん』を呼び出す事も出来ない。

 薄ら笑いを浮かべる頬に冷や汗が伝うのを感じ、コトハから見えない膝元に置かれた手はぐっしょりだ。

 

「──あ、あのだな。この子は……こっ、この女の子はだな」

 

 先を考えてもいないのに声が出てしまい、冷や汗が滝のように流れる。

 だが、しまったという顔を見せればそこで終わりだ。あくまで自然を装い直感に任せるまま言葉を紡いだ。

 

「……この子っ! ナナは父方の遠い親戚で、最近まで海外に住んでた女の子なんだけど……! そう、無口かつ大人しい性格! 学園都市の抽選に選ばれたはいいが身内の不幸で一緒に住むはずの祖父が他界、仕方なく俺が引き取って同棲をしている」

 

「えっと、うん!?」

 

「仕方なく俺が引き取って同棲しているッッ! これでどうだ!」

 

 バン、と机に身を乗り出す。

 我ながら完璧な説明、咄嗟に今の言葉が出た自分を心のなかで褒め称え拳を握り締めた。

 

「えぇっ!? そうだったんだ!? ……えぇとナナちゃん? 初めまして、コトハって言います。本当に色々大変だったみたいだね。リュウくんすご~く変な人だけど我慢してね、嫌なことあったらお姉さんに何でも言ってね、凝らしめてあげるから」

 

 そして納得するコトハ!

 どうやら頭にまでプラフスキー粒子が回っているらしく、正常な思考は臨めないようだ。合掌。

 

 今のやり取りにどっと疲れが身を潰し、軽く断りを告げて台所へ。コップに水を注ぎ一息に口に含んだ。

 

「あれ? でもそれじゃあ、どうしてさっきナナちゃんは裸だったの?」

 

「ブゥーーーーーーーーーッッ!」

 

「わっ!きたない!」

 

 盛大に噴き溢した水を布巾で拭い、冷えた水分が火照った身体に澄み渡る。

 そのお陰もあってか、スラスラと口から出たのは思い付きの嘘八丁。信じ込みの激しいコトハはすんなりと信じ、リュウの話を感銘の溜め息と共に聞き入れていた。




投稿が不定期で申し訳無いです!
続きは9月末にドバァ^~っと出すのでそこまで待ってください!誠に!

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