ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章3話『ジレンマ』

 リボーンズガンダムの形態の1つにキャノンモードがある。機体前面が変形し、ガンダムヘッドが半分格納される代わりに機体後部からジムタイプのヘッドが展開、その際両腕の武装も機体後方に向きを変え、あたかもそちらが正面であるかのような機体へと変貌するモードだ。この形態は大型GNフィンファングが機体正面に位置するため強力な砲撃が行え、それを最大限活かすためジムタイプのヘッドは遠距離までセンサーが働く。

 リュウは自身の機体をリボーンズキャノンへと変形させ、岩山の影からフィールド全体を見渡しているが未だエイジが駆るグシオンを発見するには至っていない。

 

「普段のエイジならもう仕掛けてきていいのにな」

 

 らしくないとぼやく。

 原作ではMAハシュマルとバルバトスルプスが死闘を繰り広げた峡谷も今は風が通り抜けるだけ。ごうごう、と一際強い風が吹き抜け、モニターが一瞬砂で見えなくなる。

 

「やべ、砂が間接に入ったかなこりゃ」

 

 機体表面を良く見ればサーフェイサーを軽く噴いた状態の様に砂を模したプラフスキー粒子が覆っていた。これが砂塵が舞うステージの特徴でもあり、砂を放っておくとガンプラ内部まで粒子が侵入し動作に齟齬が生じてしまう。機体構造が簡略化された物が多い量産機にとっては大きな問題ではないのだが、変形機構を持つガンプラ達にとっては決して無視できない要素だ。勿論リボーンズガンダムは最たる例でもあり、こまめなケアを行わないと戦闘中に予想だにしないハプニングが生じる危険性を孕む。

 いつの日だったかリボーンズガンダム形態からリボーンズキャノンへ砂を無視して変形しようとした際に、変形機構に障害が発生し結果パーツが折れて一人で勝手に自滅。その後エイジから散々煽られた最悪な思い出を冷や汗混じりに思い出し、装甲内に侵入した砂を取り払うため再び変形しようと───。

 

「ん? …………なッッ!?」

 

 モニターが赤く点滅、どこからか攻撃が迫っており嫌な高音が周囲に響いた。思考を戦闘へと切り替えて音の正体を記憶の糸から手繰る。

 それは超遠距離砲撃だった。レーダーではグシオンを確認できず、となるとこの距離での砲撃は着弾点をマップに直接座標を入力するタイプだろう。

 リボーンズキャノンをガンダム形態へと変形させ岩山から峡谷の底へとジャンプするように下り、次の瞬間リュウが潜んでいた岩山が大きく爆散した。大きさリボーンズガンダムほどの岩石が幾つも頭上から降り注ぎ、数にして3。その内2つは回避し、最後の1つは直撃コースを免れずリボーンズガンダムを押し潰さんと眼前へと迫る。

 

「仕方ないかッ!」

 

 光る球体型の操縦棍を右手で素早く手慣れた手つきで動かし1番スロット、GNバスターライフルを選択しトリガーを引いた。右肘擬似GNドライブから直接銃身へ擬似GN粒子を模したプラフスキー粒子が供給され、紅の線となって岩石を溶かし貫く。なおも威力が衰えない閃光は空を往き、雲を切り裂いた。

 

 重畳、とGNバスターライフルを下げる。

 

 トリガーを引き発射されるまで0.5秒、未改造のときは発射まで1秒を越えて咄嗟の射撃が行えず不便を感じていたがバスターライフルのコンデンサー部分と銃口部をカスタムした成果もあり半分以下の時間で発射シーケンスが短くなっていた。

 

「その分威力は多少下がるけど元々が大きい威力だから問題なしかな……さて」

 

 何故居場所がバレたのかは既に考えても意味がない、GNバスターライフルを空に放った時点で自分の居場所を正確に教えたようなものだ。

 グシオンが迫っていないか、追撃がないかセンサー及びモニターで警戒するが反応はない。

 

 ───出来ることなら近接戦は避けたい。

 

 HG鉄血のオルフェンズシリーズ特有のナノラミネートアーマーを再現した装甲は、威力の低いビームを装甲正面で拡散させる作用があり、物理的防御力も相当に高い。打破する為にはナノラミネートアーマーの効果が無くなるまでビーム攻撃を当てるか、物理的に大質量で破壊、もしくは斬撃で装甲ごと断ち切る等の対策が当てはまる。腕の良いファイターなら間接を攻撃するのがベターだがグシオンの曲面装甲が上手く間接を隠していること、そしてファイターがエイジであることから推奨される方法ではない。

 ビームと物理防御が高いナノラミネートアーマーはそれらの特性の故にガンプラバトルを行う上でトップクラスに対策が必要な装甲の1つだ、無論デメリットもあり装甲自体が他の装甲に比べ重量が重い為、機動性運動性がナノラミネートアーマーの配分に大きく左右される。ここの比重バランスがガンプラビルダーの個性と技量が試されるポイントだ。

 エイジのグシオンは恐らく装甲増し増しの重戦士タイプだろう、下手に接近してちょっかいをだそうものなら悉くを無視して襲い掛かってくる姿が簡単に思い浮かぶ。

 更にグシオンの獲物が弩級に意味不明なハンマーだ、アレに近付くのはリスクが多い。

 

「方法はあるにはある……」

 

 腰に追加で装備された2対のGNダイバーソード。GNコンデンサーとしての役割を持ちながら大型の実体剣として使えるこの剣ならば強固なナノラミネートアーマーを破ることも叶うだろう。だが仮に、この剣を失ったとすると昨日深夜に思い付いた『お遊び』が出来なくなってしまう。

 近付きたくないが打破するには近付くしかないジレンマに葛藤し、やむなく攻撃を仕掛けることを決め深呼吸。エイジの武器がこちらにとっての未知ならば、こちらの秘策もエイジにとっては未知。やりようはある。

 

 リボーンズガンダムが猛禽類を思わせる眼光でセンサーを巡らせると峡谷の端、ステージギミックのような突風からくる土煙を捉える。意思を持ってこちらに近付いてきているようにも見え、あれがグシオンならば相当に機動性を上げるためスラスターと増設タンクを積んでいることだろう、それほどまでに土煙の勢いが大きい。

 詳細を調べようとマップにエイジのアイコンが載ってないか確認するがレーダーの範囲外。ならばとセンサーのズームを最高倍率へと調整する。

 

 ───グシオンだ。

 

 何故先程ピンポイントで砲撃することが出来たのか不明だがこうしてこちらに向かってきているのは都合が良い。

 リボーンズガンダムを今までのような見付からないための徐行から戦闘時の、後方のバーニアを全て生かした攻撃的なマニューバで接近を試みる。

 GNドライヴ登載機独特の駆動音が高音と共にコックピット内を響かせ、スピード計がみるみる上がるが未だ限界は見えない。この時点で横切る景色から原型は消え失せ、ただ土色の線となって後方へ吹き飛んでいった。

 レーダーがグシオンを捉え両手をハンマーに構えるのを確認し、武装スロットの右端を選択。

 

「どうか上手くいきますように……トランザム!」

 

 左腕のGNドライヴから粒子が吹き荒び、瞬く間に機体が深紅へと彩られていく。

 スピード計が限界手前で点滅し、機体は夜空を駆ける彗星の如く峡谷を駆け抜けた。


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