ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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3章6話『ガデッサ・バルニフィカス』

 まず心掛けた事は、バルニフィカスを振り切らないよう速度を抑えて誘い込む事だった。

 逃走を図りながらのマップの把握、追撃の回避。リュウの想定を上回っていたバルニフィカスの挙動に途中から速度を抑えるなど生易しい考えを捨て去りポイントへと誘導した。

 

 水中へ突入する際にディフェンスモードへと切り換え、GNスマートランチャーを水面に最大出力で発射。着水の衝撃を和らげると同時にコトハへ意図を探られないためのパフォーマンスだ。

 海中に沈んだ街並みと我が物顔で泳ぐ魚達、それを横目に直ぐさま発射角度の調整に入り、モニターを複数開く。

 

「おしドンピシャ。5番スロット、アルヴァアロンキャノン展開」

 

 想定通りの構造に喉を鳴らしつつ、バインダーがアタックモードへ。2基を中心にゴポリと水泡が立ちながら紅い稲妻が走り、迸る深紅の球体が解放の時を待つ。

 狙いを画面際のビルの根本へ定め、祈りながらトリガーを引いた。

 

 出力を抑えた紅線が巨大なビームサーベルの形状でビルの根本へ突き刺さり、そのまま焼き切りながらバインダーを真横へと凪ぎ払う。

 視界に映るビル達が根本から切断され、支えを失った建築物が計算通りの角度で次々と倒れた。その先にはバルニフィカスが恐らく飛行しており、リュウが撃墜したか水面から攻撃がくるかと身構えている事だろう。

 

 ───半円状に建ち並んだビルの倒壊による攻撃。

 

 防御を限界まで下げたバルニフィカスがあわよくば撃墜されている事を願いながらHi-ガンダムは再び地上へと浮上した。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「こ、りゃあ凄ぇな。流石に逝っただろコレは」

 

 海面がうねりながら波を立て、ビル街の密集地帯だった場所には大穴が空いたように建造物が見当たらない。

 レーダーが示すにバルニフィカスは思惑通り倒壊に巻き込まれたようで、ビルの真下にアイコンが点滅している。撃墜されてないのは意外だったが、下敷きとなっては防御力が低いバルニフィカスではどうしようもないだろう、装甲の割れ目から浸水してそのままゲームセットだ。

 

 張った緊張を長い溜め息と一緒に吐き、点滅するマーカーを見詰める。

 4ヶ月振りにコトハとバトルをしたがやはり戦闘のセンスは他の人間と段違いだと、終始一貫して追われる身だったチェイスを思い返す。反撃を受け流しながら距離を詰めてくるバルニフィカス、その挙動はここ最近感じることが無かった『狩る側の動き』だ。先程までの舞台が仮に今の光景のような開けた戦場であったならば勝敗は確実に逆だっただろうと未だ震える腕を抑える。

 

「知ってるフィールドだったのがアドバンテージだったな……、ん?」

 

 始めは腕の震えが全身にまで及んだのかと錯覚した景色だった。

 落ち着いたはずの波がビルを中心に一定の感覚で発生しており、波の大きさは徐々に増しているようにも見える。無惨に原型を無くしたビルの下、次第に聞こえてくるGN粒子搭載機特有の高音を機体が捉え、血の気が引いたと同時にバスターライフルを照射出来たのは我ながらに褒められた行動だった。

 

 ───だが間違った選択だ。

 

 バスターライフルではなくアルヴァアロンキャノンだったなら、結果は覆っていたかもしれない。

 放たれた紅の光線はビルを溶かし海面を蒸発させながらも穴を穿つ、直撃している粒子が飛沫にも似た模様で海面を焦がすなか、鋭い金属音が短く響き。

 

「なッ……!」

 

「酷くない!? リュウくん! 私じゃなかったら今のでぜっ~たい終わってたよ!」

 

 斬撃、粒子を切り裂いて。

 破損どころか傷一つさえ見当たらないガデッサ・バルニフィカスが実体剣を構え、勇然とビルの残骸に立っていた。

 疑問が、声となり思考となり身体が強張る。バルニフィカスの武装でどうやってあの状態を脱したのか、モニターを見たまま憶測に更けるリュウにアラートが危機を知らせた。

 

「じゃあ次は、こ~っちの番なんだからね!」

 

 左右長腕それぞれに長刀を構えたバルニフィカスがHi-ガンダムへと殺到。

 咄嗟にバスターライフルを投げ捨て腰のビームサーベルで受け止めようと構える。2機の間に電光が衝撃波となって、一瞬太陽光よりも輝かしい閃光が周囲を走った。

 

「ぐうぅぅうううッッ……!」

 

 確か名前は試作型粒子斬断長刀だったか、深紅の波紋が入った純白の長刀が粒子の刃に食い込みHi-ガンダムごと断ち切らんと勢いを増す。負けじとビームサーベルの出力を限界まで上げて対抗するが、モニターに大きく映ったバルニフィカスの上半身、自由になっている両短腕に構えた連結大型ライフルが音を立ててこちらへと向いた。

 

 轟く音はまるでスピーカーの大音量から成る重低音に聞こえ、超高レートの弾幕がHi-ガンダムを捉えようとマズルが幾つも火を吹く。スローモーションの景色の中、培われた戦いの記憶から半ば無意識に指が動き入力を終えていた。

 

「────トランザムッ!」

 

 幾多の弾幕が風切り音をあげながら彼方へと飛んで行き、つい先程まで目の前に居たはずのHi-ガンダムは姿が見えない。モニターで辺りを確認するが、見えるのは太陽光で煌めく海面だけ。

 

「違う、機体が速すぎて見えないんだ。うんっ……うんっ! 凄いよリュウくん」

 

 モニターでは確認出来ずとも機体が拾う異様な音。

 粒子を高速で消費、放出した際に発せられる迫り来るような高音に身震いが爪先から旋毛まで駆け上がった。

 

 唇を舌で舐め機体を仁王立ちの状態に構える、計測不能となったレーダーから目を離し、頼るのは自分の勘のみ。

 音源が左右上下と立体的に動き最も遠ざかった瞬間、コトハの指が居合いを抜くように動いた。

 

 直後、徹甲弾同士が正面衝突した音。耳をつんざく短い金属音が空間に響き、衝撃に押されるままバルニフィカスが後方500メートルまで吹き飛ぶ。荒ぶ景色に目が慣れモニターへと目をやると、バインダーをアルミューレリュミエール・ランサーのように機体前方へ展開させたHi-ガンダムが映し出され、バルニフィカスは長刀を交差しバインダー先端を阻んでいた。

 

「───やぁッ!」

 

 巧みに長刀を操りバインダーの向きをずらし、バルニフィカスへと向いていた運動エネルギーが空中へと逸れる。火花を散らしながら驚異的な速度でバルニフィカスから遠ざかっていくHi-ガンダム、それを逃さまいとガデッサ頭部に搭載されたラインセンサーを起動させ、超高倍率で景色がモニターに映された。

 

「見付けたよ、リュウくん……!」

 

 バルニフィカスが屈み、力を貯めるような姿勢で静止。バックパックのツインドライヴが緑光の粒子を回転させ、噴出口を保護していた装甲が破棄される。粒子の渦潮が2つバルニフィカスの背部にうねりをあげながら光を増し、音さえ置き去りにして機体がHi-ガンダムへ向けて打ち出されるように加速した。

 

 いわゆるオーバーブーストモードと呼ばれる元々はエクシアに搭載されたリミッター解除状態、2基の出力から発せられる推力はバルニフィカスの機動性能と合わさり、点として表示されていたHi-ガンダムを一瞬で最適の間合いに捉えた。

 4つの連続する重低音が1つの音に聞こえるほどの射撃音が空に響き渡り、赤星と青星がフィールドを駆け回る。時に遠退き時には肉薄するほどの距離まで接近、銃撃と剣撃が交錯するなか、はたと深紅の輝きが消えて弾幕に晒された。

 

「ぐぅッ! くっそ!」

 

「まずは1機だね、リュウくん!」

 

 ディフェンスモードで対抗するがトランザムのクールタイムによりGNフィールドの壁が薄い。豪雨に穿たれる土のように粒子の壁が徐々に規模を縮小させ、バインダーに直撃。

 そこからは脆いもので、防御を失ったHi-ガンダムは全身に銃弾を受けながらやがてその身を宙に散らした。


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