「凄いね凄いね! リュウくんの新しいガンプラ! ひっさしぶりにリュウくんに負けたかも!」
「あ!? 最後棒立ちの舐めプしてたの見逃してねぇからな、コトハお前。こんなん勝ちに入らねぇよコノヤローバカヤロー」
「口元にやけながら言う台詞じゃあないな」
エイジの茶化しに頬の紅潮を隠しきれていないリュウが2人に背を向け、笑い声が背中をこそばゆしく突いた。
半年振りか、それ以上か。2年生の時点でプロへとデビューしたコトハはめっきり学校に来ることが少なくなり、数少ないリュウとのバトルも全てがコトハの勝利で終わっている。
今の試合、バルニフィカスから先に粒子砲を受けた結果、タッチの差でバルニフィカスが先に撃墜判定を受け勝者はリュウだ。それらの事実が、もたらされた勝利の喜びを何倍にも増幅させ胸に到来した喜びの感情は留まることを知らず、何より久しく作った新作のガンプラで勝てたことが嬉しかった。
「で、今のが『バウトシステム』だよね? すっごいねあれ! プラフスキー粒子が登録されたガンプラを作っちゃうんでしょ、これならガンプラが壊れなくていいね!」
「しかもバトルをすればGPも貰えるしな、学園都市には本当に感謝だ」
「じゃ、次はエイジくんの番かな!何だかんだでちょっぴり悔しいから、出来る限り抵抗して良い勝負を演出した上で無惨に負けてほしいなっ!」
「断固として断るッ!」
後ろで繰り広げられる茶番にも懐かしさを覚えながら、アウターギアを取り外し片手で握る。
アルヴァアロンキャノン・レグナントブレイカー。
発射前に5回まで屈折角度と地点を設定できるあの技だが、最後に決めた自機諸共巻き込んだ手段は実際にガンプラへダメージが入る従来のガンプラバトルでは気軽に行えなかった作戦だ。実際にガンプラを使用しない『バウトシステム』は確かに画期的な『電脳世界アウター』と並ぶ学園都市の目玉システムだが、普段の実機バトルにおいて被弾に最大の注意を行っているガンプラファイターとなればあの自爆同然の攻撃に多少は怯むと踏んでリュウは放った訳だったが、
「ふふふ~」
果たして目の前で微笑むプロには通じていたのだろうか。普段は間抜けそうな顔の癖に、ふと顔を見るとこちらの全てを見透かしているかのような笑み。
それは何だかとても嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、
「……うっぜぇ、こっち見んな」
「あ~! 私今何もしてないのに暴言吐いた! 謝罪しろ謝罪~このこのぉ~!」
「うっせ! 離れろテメッ、おいエイジ! 見てないでコイツの癇癪静めるの手伝えよ!」
「おほん、コトハ様。ここはリュウともう1戦してボコボコにするのは如何でしょうか?」
「爺やの言うとおりだね! じゃあ次の試合形式は私がストック1でリュウくんはストック100ね。リュウくんが乗る機体はボールかオッゴ」
「勝てるわけ無くねッ!? お前ただ憂さ晴らししたいだけだろ!」
反響する叫び声。
劇中、ボールを駆って歴戦の強者達相手に無双していたレイジならともかく、リュウにはレギュレーション200のボールでバルニフィカスに勝てる未来が見えなかった。
後ろで暴れるコトハをどうにか引き剥がし机へどうにか落ち着かせる。
一息つき、顔を見合わせる形になった3人。唯一教室を見渡せる位置のリュウが教室の入口に偶々視線が映った。
「───あっ」
視線が合う両者。
声が漏れ出たリュウを蛇のように細めた眼差しで舐め回し、口の端がつり上がる。
「コーチ! おはようございます!」
「トウドウ先生おはようございます、朝早いですね」
「はぁい、おはよう2人共。元気な声が聞こえたから教員室から出てきちゃったわ……それと」
コトハの快活な声の後、瞬時に切り替わった人の良い笑顔で応対しコトハとエイジが体を出入り口へ向けた。
理知的な顔立ち、背高い身長、着崩しの無いスーツ姿、
「おはよう。タチバナ君、学園は久し振りね」
眼鏡の奥で妖しく光る視線。
背中を冷たい舌で舐めとられた感覚に全身が栗立ち、強張った頬を無理矢理ねじ曲げて何とか声を出す。
「おは、ようございます」
3年生学年主任トウドウ・サキ。
元日本代表であり萌煌学園現教員。笑顔を絶やさない明るい人柄で生徒からの人望も厚く、本人の教え方やガンプラの技術も相応に高い名教師だ。また優れた指導技術で萌煌学園国際選手のコーチも勤めている。───そして。
「アナタ達、もしかして今ガンプラバトルをしていたの?私に詳しく内容を教えてくれないかしら」
───リュウ・タチバナが最も学園で会いたくない最悪の人物だ。