ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章4話『浪漫の魔鎚』

「リュウのやつ、いきなりか!」

 

 機体前方、レーダーでギリギリ捉えられるかの距離で発動したトランザムに驚愕を隠せない。セオリー通りのバトルならトランザム及び特殊なシステムは試合中盤か終盤、試合が傾く際にだめ押しか逆転の為に使われるのが定石だ。

 トランザムはガンプラバトルの鉄則として20秒間のみと絶対のタイムリミットが敷かれており、それを過ぎるとオーバーロードを起こし各種性能がダウンしてしまう。短期決戦でなら即座にトランザムはあり得るが、リュウの試合前での様子でそれは有り得ないと直感が走った。

 

 思惑知れぬ行動に嫌な汗が額から流れ落ちるが、それはこちらも同じ条件であるはずだとナノラミネートヴァイブレイションブルスを構え直す。

 

 ───あと3秒足らずで激突する。

 

 前へ進む速度を更に上げ、両腕で構える姿勢からフルスイングが出来るように姿勢を変えた。リボーンズガンダムがトランザムをしていなかったらこの一撃で試合は終わっていただろう。一撃必殺、初見必撃。それに重点を置いて造られた魔鎚がトランザム状態の相手に命中するかは検証外、その初見殺しを偶然にも回避しようとしているリュウに内心畏怖を覚えつつもエイジはシステムを起動させる為、大きく息を吸い込んだ。

 

「極限開放!エイハブリアクターグラムブルスッッ!!」

 

 朝に考えた最強にカッコいい口上を言い放ち、グシオンはナノラミネートヴァイブレイションブルスを力任せに振るった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 左腰に下がった大型実体剣GNダイバーソードに右手を添え、居合い斬りの姿勢でグシオンへと殺到する。トランザムの機動力に加え粒子が機体全身へと供給された状態での斬撃は、通常のガンプラが相手であれば当たり所が悪ければ間違いなく試合が終わる一撃だ。だが初めからコックピットなどと大穴は狙わない、狙うは左足 。

 大質量の武器を持つ機体は両手両足どれかを潰せば万全な状態で獲物を振るうことが出来ない、グシオンのハンマーはその影響が顕著に現れると踏んだ。

 両機があわや衝突する刹那、導かれるようにトランザムがきらびやかな軌跡となって左足へ斬撃が襲う。グシオンのハンマーは当たる直前で回避は容易!

 

「極限開放!エイハブリアクターグラムブルスッッ!!」

「ッ!?」

 

 数瞬後に左足を斬り飛ばすハズのGNダイバーソードは時間が引き延ばされたかのように届かない。それどころか同時にグシオンの剛撃を回避しようと回転したリボーンズガンダムがグシオンの方へと引き戻された。

 自分の感覚が狂ったのか、まさか徹夜のガンプラ作業がここに来て影響したのかと脳裏をよぎるが、現実としてリボーンズガンダムがハンマーの方へと引き寄せられていることを計器が証明する。

 

「このッ!」

 

 攻撃の為前方方向へ吹かしていたブーストを回避全てに充てる。

 

 ───グシオンがハンマーをフルスイングするのと、リボーンズガンダムが上へ飛び上がるのはほぼ同時だった。

 

 一瞬モニターが乱れ機体状態に目をやる。左足が外れポリキャップが露出している状態、どうやら回避し損ねたらしい。グシオンの後方へと大きく距離を取って着地、機体の重量バランスは変わったが戦闘に大きな支障はないだろう。

 

「良く避けたな、リュウ」

 

 超重量のハンマーを荒々しく振り回し先端をこちらへと向ける、良く見ればあの奇妙なハンマーの姿に変化が見られた。

 エイハブリアクターは暴走寸前を思わせるような挙動で基部を震わし周囲へ稼働音を響かせる。そしてハンマーの先端である金属パーツはこうして注視しなければ分からないほど超振動を起こしていた。

 

「解除!良くやったな、エイハブリアクターグラムブルス!」

 

 エイジの声と共にハンマーの稼働は収まり、周囲は再び峡谷の風音で包まれた。どうやら何かしらの仕掛けがあるらしいが、今は時間が惜しい。トランザムが切れるまで少しでもダメージを与えておかなければ後半に不利になることは必死だ。

 再びあのハンマーの前へ身を投げ出すことに躊躇はあるが、自分のガンプラを傷付けた貸しを返すためとリュウは恐怖を飲み込み笑みへと変える。

 

「フィンファング!」

 

 3番スロットを選択し入力、腰後部、シールドに収納された小型GNフィンファングに該当する無線誘導兵装が合わせて8つ。更に背中の大型GNフィンファング4つを含めた全12基が射出される。

 予め動きをインプットされたフィンファングがそれぞれ異なる挙動で突撃し、グシオンを取り囲むようにあらゆる方向と角度へ配置される。グシオンはそれらを振り切るようにスラスターを吹かすがトランザムの恩恵を受け速度が向上しているフィンファングは逃すことなく一定の距離を保つ。

 グシオンの左後方、死角へ配置された小型のファングが先端にビームスパイクを展開、それに呼応するよう次々と取り囲む小型のファングがビームスパイクを発振させ一斉に突撃した。小型のファングはグシオンの装甲表面で完全に阻まれ進行が止まり、続いて大型のフィンファングが四方からビームの照射を始める。それでも装甲にダメージは入らず、表面で拡散したビームが周囲の地面を無造作に焼き焦がした。

 見ればグシオンはビームのシャワーを浴びているように全身がファングからの粒子で覆われており、それでも貫けない装甲の厚さはなるほど流石グシオンと思わざるを得ない。

 だがビームにも指定方向への力があり今のグシオンはあらゆる方向から圧力がかかっている、即ち身動きが取れない状態だ。

 

「だったら!」

 

 GNバスターライフルを構え、グシオンの右腕の間接へと標準を合わせる。

 フィンファングによって動きを制限されている間接を狙うのは容易だ、まずはハンマーを振るう腕からとトリガーを引こうとした刹那、グシオンの眼光がこちらへ向く。

 

「極限開放!エイハブリアクターグラムブルスッッ!!」

「ッッ!?」

 

 またもや聞こえた言葉と共に再びハンマーがその身を震わせ、グシオンを取り囲み攻撃を続けていたフィンファング全てがハンマーへ吸着される。向きも角度もバラバラで無造作にくっついている様はまるで磁石だ。

 その奇妙な光景に意識を削がれてトリガーを引くのが一瞬遅れ、狙いがずれたまま粒子が放たれる。ビームはリュウの思わぬ方向へ放たれ、あろうことかハンマーへと直撃するコースだ。

 

「なッ!?」

 

 エイジの困惑の声が響き何事かとリボーンズガンダムを身構えさせる。グシオンはハンマーで粒子を受け止めず身を翻し肩の装甲で受け止めた。度重なるフィンファングの攻撃で保持が緩んだ装甲を吹き飛ばし、重厚な装甲からは想像も出来ない華奢なフレームが不格好に覗けた。

 何故ハンマーを庇ったのか、勝利に繋がる何かが隠されているような気がして思考するが答えは出てこない。

 

「貰ったぁ!リュウ!」

「ッ!?」

 

 ───数秒の思考、戦闘においては敵を1機葬るのには充分な時間だ。

 慌ててブーストを後ろへと噴かしかわす動作を取る、トランザムの機動ならば致命傷は避けられる速度だ。スローモーションの景色の中、グシオンが迫りハンマーを凪ぎ払う。それを避けGNダイバーソードで反撃しようと操縦棍にかかる指に力が籠った瞬間だった。

 

「トランザムが?!」

「時間切れだ!トランザムの管理が未だになってないぞ!」

 

 モニターに表示されていたトランザム時特有のアイコンが消え失せ、機体色が深紅から元の蒼白色へと戻る。全身の排気口からは放熱の為プラフスキー粒子が放出され、粒子量を始めとしたあらゆる機体性能が見る見る内に減少していった。

 何か手は。機体状況に目をやろうと視線をモニターへと移す。視界は黒く染まりそれが巨大な鉄塊だと気付いたのは直撃した後だった。


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