ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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3章15話『桜はすっかり散ったけど』

「雨かよ……」

 

 研究棟を出てからどこに行くというわけでもないが校内をぶらつき、いよいよ自分の精神状態の限界を自覚し学園を出ようとしたした矢先、鼻へと落ちた雨粒を強引に手で拭う。

 アリアドネを経由すれば寮まで一直線なのだが雨の日の森林地帯は地面がぬかるみ最悪だ。仕方無しに歩みを進め、小雨が強まらないことを祈りながら校門を目指す。

 3号棟が校門に一番近いことを感謝しつつ歩くなか傘を差す生徒の一団がリュウを追い越した。聞こえたのは自作のガンプラの調子が良い事や、プロのガンプラファイターの話題。誰でもしそうな良くある話題だ。

 

 そんな世間話耳に入り、ふと自分が世界から隔絶された感覚を覚え、その一団が校門を過ぎるのをぼんやりと見送る。

 

 謎の少女に危険な実験。自分のガンプラバトルを否定された昼の1戦に、萌煌学園副理事長兼国家研究部主任との邂逅。そしてリュウの偽善が起こした最たる過ちであるカナタの事。

 こんな出来事に挟まれた自分は悲劇の主人公かと呪いたくなりながら、強まった雨足を遮るためパーカーを頭まで被った。

 

「何が、何が悲劇の主人公だよ……全部テメェの責任じゃねぇか、くそっ……!」

 

 勿論全てリュウの責任ということは頭では理解している。だが胸に覚えたこの黒い感情を今この瞬間だけは誰かのせいにしなければ自分がどうにかなってしまいそうだった。

 次第に強まっていく雨足、気付けば靴下まで濡れて足を踏み出す度に不愉快な感覚を足裏に覚える。天気までもリュウを嘲けているような気がして、思わず叫びたくなった。理不尽を、自分が犯した罪を。

 

「や、やぁリュウくん! その~、たまたまだねっ!」

 

 一瞬、声を掛けられた事に気付かず校門を通りすぎようとパーカーを深く被り直したが、小走りにリュウへ近付いてくる足音を聞いてようやく自分が呼ばれている事に気付き振り返った。

 

「……なんでお前がここに居るんだよ、コトハ」

 

「何さ~その言い方! 私が校門に居たのは偶然だもん、ちょうど帰るところだったの! なんか文句あるっ?」

 

 大小のハロがデザインされた傘を差し、幼馴染みが立っていた。

 柄を握る手が震え、冷えた春の外気に晒されて赤くなっているのをあえて触れずにコトハから視線を外し、足を進めた。

 

「ちょちょちょちょっと! リュウくん、待ってよ!」

 

「どうせあれだろ、俺がトウドウ先生に負けたのをからかいに来たんだろ。悪いけど今付き合ってられねぇわ」

 

 言葉に止まるコトハ。リュウ自身突き放した物言いに罪悪感が芽生えるが、今の精神状態でコトハと関わると余計に酷いことを口走ってしまいそうで、それが恐くて苦しくて。そんな自分を気に掛けてくれたことに感謝しながら歩く速度を早めた。

 

「どーうどうどう。ステイ、リュウくん。一緒に帰ろっ」

 

「……」

 

 リュウの速度に小走りで合わせるコトハ。

 嬉しさと申し訳なさが込み上げ、押し寄せる感情をリュウは処理する術を知らない。結局構わず無視を続け、しばらくすると付きまとう足音が止んだ。ようやく離れたかと桜も散った坂道を下ろうと───。

 

「とおぉぉっ!」

 

「ドラッツェ!?」

 

 突如激しい痛みが背中に走り、身体を仰け反った。涙目で振り向けば傘を閉じてこちらへと向けるコトハ、雨に濡れるその表情は優しくて。

 

「ちょっと付き合ってよ、リュウくん! 行きたい学園都市のお店あるんだっ!」

 

 幼少の時から変わらない間の抜けた笑顔でずけずけと近付いて傘を開く。リュウへ落ちる雨粒が傘によって遮られるも、左肩だけは未だ雨に叩かれていた。対するコトハは右肩を雨で濡らしながらも傘によって頭が濡れることを防いでいる。俗に言う相合い傘に思わず周囲を見渡し、コトハが行った軽率な行動に声が出た。

 

「おまっ、仮にもプロだろ。変な噂立ったらどうすんだよ、自覚しろ馬鹿」

 

「仮にもって何さ失礼な! ほら、もすこし寄ってよ、この傘小さいんだから」

 

「が、ガキじゃねぇんだから良いんだよ!」

 

「リュウくんそうやっていっつも風邪引くじゃん! そっちこそ自覚しろばかっ!」

 

 強引に肩で押し退けられ、丁度2人の肩が同じくらい傘の外へと出る。

 つぶさに周囲を見渡すリュウを不思議そうに眺めるコトハ、幸い彼らを見ている人間は居らずその光景を覗いてるのはすっかり散った桜だけ。長い溜め息の後リュウが歩き出した。

 息がかかるほどの距離感。極力隣を見ないよう、強まる雨を退ける傘の音に意識を向けるリュウだが途端に今の自分の姿が恥ずかしく思え、胸が熱を帯び喉が小さく震えた。

 

「……、まー何だ。ありがとな」

 

「ふーんっ。今日その代わり奢りね」

 

 他愛ないやりとりは続いた。

 学園都市へ続く長い下り坂を歩みながら、長さなど気にせず世間話に華を咲かせながら。

 幼馴染み2人の声が絶えることなく桜の樹を揺らし、降りしきる雨にも気を留めることなく笑いながら、他愛ないやりとりはいつまでも続いた。

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