ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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3章18話《鉄の味がして》

 次々とデブリに穴が穿たれ、その軌跡上。2度3度とビームを回避したドライセンだったがその背にビーム刃を発振したダガーが突き刺さり沈黙する。宇宙空間の色に溶け込んだ投擲(とうごう)武装、つや消し塗装による視認性皆無のダガーを漂うドライセンから抜き取りペルセダハックが戦場を一望(いちぼう)する。

 

『坊ッ!その機体、肩の接続部はポリキャップかい!?』

 

 オープン回線からの声。

 活気ある女性といった印象に知り合いを探るが心当たりが無く、救援に来た人間が誰なのか顎に手を添えた。数秒の間か、ペルセダハックがビームライフルの銃口をこちらに向けたと思った瞬間、何の前兆もなく閃光が(またた)きHi-ガンダムを(かす)める。

 

「あぶねぇ!? 急に何だよアンタ!」

 

『なんだい聞こえてるじゃないか。坊、そのガンプラの肩は凸型のポリキャップで胴体と繋がっているね?』

 

「あぁ繋がってる……、それが何だよ───後ろッ!」

 

 ペルセダハックの左後方。デブリに紛れてデナン・ゾンがガスマスクにも似た頭部を覗かせてショットランサーで狙いを付けているのが見え警告を飛ばす。だがリュウが全て言い終わる前にペルセダハックが背部アームド・アームを展開、振り向くことなく砲口が炸裂しデナン・ゾンが機体を周辺に漂う小デブリの如く散らせ爆散した。

 

 唖然(あぜん)とモニターで繰り広げられた光景に目を見開く。相当な手練れだ、ペルセダハックとデナン・ゾンの距離は500mほど開いており、更に機体は保護色のように黒に塗られモニターを凝視しなければ標準もままならない筈だ。少なくともリュウはそう自負するが、目の前のペルセダハックはレーダーに映されたマーカーのみを頼りに射撃し全弾が命中している。何か細工があるのか、眉をしかめているとスピーカーに一瞬ノイズが走り女性の声が続けられた。

 

『ペルセの左腕をそっちに投げる。上手く使いなッ!』

 

「は、はぁ!? ちょちょ、ホントに投げてるし!」

 

 最早豪胆(ごうたん)にも見える動きでおもむろに右手で左肩を掴んだかと思うと、一息に抜いてペルセダハックが自身の左肩をリュウへと投げた。Hi-ガンダムとペルセダハックの中間に位置するV2ガンダムが、ゆっくりと回転しながら投げられた腕を撃ち落とそうとビームライフルを構えるが、アームド・アーム4門とビームライフルで狙いを付けられている事を悟ったのか、腕が横を通りすぎるのを何も行動を起こさずに見守る。

 その間にHi-ガンダムが左肩をパージし、空いた胴体のポリキャップに受け取った左肩を装着した。モニターに複数の警告とエラーが表示されるが全て消去し、新たに加えられた武装の把握に目を走らせる。

 

『坊はその男と決着(ケリ)を付けな、あたしゃ周りの奴等と遊んでるよ』

 

「あ、あぁ。ありがとう、……ございます」

 

 リュウの声を聞き届けると全身のスラスターを噴かし、ペルセダハックが彼方へと翔んでいった。

 再び静まり返る宙域、Hi-ガンダムとV2ガンダムが武器を構えるでもなく互いに機体を向け時間が流れる。Hi-ガンダムはその手にあったバスターライフルを失い、右脚は機能を停止、粒子残量も先程よりは回復しているが雀の涙程度でしかなく良いとこ攻撃を数度回避出来るかどうかだ。勿論ビームサーベルのエネルギーは本体供給式であるため使用不可能、絶体絶命の状況にスピーカーが音声を拾い、あの男の声がコクピットに響く。

 

『今の奴には少しばかりビビったが、へっ。こっちに来なけりゃどうとでもなる。おいガキ、覚悟は出来てんだろうな』

 

 機体に備わっていた武装、それら余すことなく全てが使用不可能であり迎撃行動も取れない。

 だからこそ、リュウは下っ腹に力を込めて男の言葉を真正面から返す。

 

「そっちこそ覚悟は出来てるんだろうな?───負けるぜ、アンタ」

 

『抜かしやがれッ!!』

 

 V2ガンダムがビームライフルを構え無造作に放つ。Hi-ガンダム胴体へ放たれた粒子を右へ回避、続けて放たれた数度の連射も左右へ機体を振ることでやり過ごした。この時点で粒子残量は残りカス程度、スラスターを噴かすこともままならず画面に表示されたエネルギー切れを知らせる警告が激しく点滅する。Hi-ガンダムの歪な回避に状態を察したのかV2ガンダムが両手でビームライフルを構え、最大出力の射撃を行うために姿勢を制御し男が吠えた。

 

『口だけのガキがよぉッ! 死んで詫びろッ!』

 

 先のビームなど話にならない大きさの粒子が放たれる。ビームの熱で周辺のデブリが焼け()け、螺旋(らせん)の軌道を描きながら巨大な粒子の奔流がHi-ガンダムを飲み込まんと眼前に迫った。迎撃など出来るはず無く、許されたのは身じろぎに等しい行為だけ。男にはそれが些細な抵抗に見えただろう、目に入る光を手で(さえぎ)るような、そんな行為に。

 

『───────────な、』

 

 光が灯った。

 警告音は鳴り止み、モニターを点滅する赤色(レッドシグナル)もどこへ消えたのかコクピットは静穏(せいおん)そのもの。右脚の機能停止以外は不調の無いHi-ガンダムが左手を構え、V2ガンダムを雄々(おお)しい眼光で見据えていた。

 

『な、なな、なんだとぉッッ!? あの状態からどうやって……、てめぇ何のインチキを使いやがったぁ!!』

 

「やっぱり知らなかったか、まぁアニメでも良く分からない描写だったからな。気持ちは分かるぜ」

 

 今のHi-ガンダムが見せた現象を認めないとでも言うように喚きながら男がビームを連射、計3発放たれた粒子を先程の光景をなぞるように左手を構え閃撃と相対する。

 直後。掌にビームが触れ数度閃光が走り、損傷どころか傷1つさえ見当たらない腕部が健在として構えられていた。

 

「“プランダー“俺も初めて使って見たけどとんでもねぇなコイツは……、いわゆるビームを吸収出来る武装だ」

 

『ふ、ふざけんな、なんだその武装! チートじゃねぇか!』

 

「チートじゃない。ガンプラバトルは武装の1つ程度で左右されるほど単純じゃないし、必ず両者どちらにも勝てるように設定されてある────なぁアンタ、ガンプラは好きか? ガンプラバトルは好きか?」

 

『……あ? なんだ急に』

 

「教えてくれ。もしガンプラが好きだったら…………これからで良い。他人のガンプラを笑わないで欲しい、ガンプラバトルが好きだったなら一生懸命頑張っている人達を笑わないで欲しい。どうだ?」

 

 問い掛けにHi-ガンダムが左手を下ろす。

 スピーカーからの返答は無く、リュウは心で願いながら操縦桿に手を掛けていた。他人のガンプラバトルを(ののし)ったりする人間でも、やっぱりガンプラが、ガンプラバトルが好きだったが何かがきっかけで歪んでしまったのだと。そんな人間にガンプラへの思いを改めて自覚させることが出来たら良いと返答を固唾(かたず)を飲み込んで待った。スピーカーが振動する。

 

『ガンプラもガンプラバトルも好きだぜ』

 

「────そうか! じゃあ」

 

『必死に努力している人間を負かすほど気持ち良い事はねぇからなぁッッ!! ──このガンプラも俺の物じゃねぇ、弟から奪ったもんだしなぁ!!』

 

 ビームライフル下部に備え付けられた対モビルスーツ用グレネード(マルチプルランチャー)(あざ)けと共に放たれる。(ひらめ)く発射炎を見、不思議と自身でもそこまで驚きを感じなかった。リュウは心のどこかで予見していた光景に冷ややかな溜め息を短く吐き、裏腹に腹から漏れ出た声はどこまでも低く怒りを灯した呻き。男に対しての激情と日本のガンプラファイターへの怒り、そして彼らにさえ1人では勝てないリュウ自身への(いきどお)りを含んだそれを武装名に乗せて指を走らせた。

 

「───トランザムッッ!!」

 

 2度目のGN粒子全面解放(トランザム)を機体は身震いするように応じ、変質した粒子に対応していないペルセダハックの左肩が警告と同時にパージされる。V2から激発された弾頭にペルセダハックの腕が直撃し爆炎と閃光がデブリ帯を駆け抜けた。立ち止まるV2ガンダムは今の爆炎を撃墜と勘違いしたのか行動を移さず、続いて聞こえてきた笑い声を哀れむようにリュウはV2ガンダムの背後を位置取り目を細める。入力された操作に背部バインダーが深紅の残影を追わせ機体前面へと展開。さながらマガノイクタチを構えたようにHi-ガンダムがバインダーに粒子を固定させ、乱雑に右から左へと振り切った。

 

『ギャハハハハハハハハハハ………………は?』

 

「だったらアンタ。────ガンプラバトルをする資格なんて無ぇよ」

 

 ずるり、とV2ガンダムがその身を上下に別つ。驚きとどこか呑気(のんき)にさえ聞こえた男の声が爆音に掻き消える様にリュウは哀しくなった。男が何か違うガンプラとの出会い方をしていたなら他人を嗤うような事にはならなかったのだろうか、と。煌々(こうこう)と燃ゆる機体に思いを巡らせ目を強く閉じながら。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「とっととずらかるかね、さぁ行くよ坊。あの娘は外に逃がしてある」

 

 スピーカーから聞こえていた女性の声が今度は後ろから、プラフスキー粒子によって形成された疑似コクピットの背後から聞こえて思わず(すく)んだ。振り返るとそこには長身の女性、長く伸びた栗色の髪を1本に束ね片方の瞳は前髪で伺えない。目から感じる意思は強く、剛胆に笑みを浮かべる顔立ちはリュウの想像よりずっと若かった。

 

「坊。なんか失礼なこと考えちゃいないかい」

 

「あ、いや。あの、……助けてもらってありがとうございました」

 

「礼なんざいいからとっとと逃げるよ。ペルセダハックを自動戦闘(オートバトルモード)に切り替えているからやられるまでは時間稼ぎ出来る。ほら」

 

 手を引かれ、一息に駆ける女性に困惑しながらも未だ意識は先程の男性に向いていた。彼らの心無い言動も何かがあったから歪んでしまったのではないかと性善説を信じたい傍ら、日本のガンプラファイターの多くはどうしようもないほどモラルを欠如させている危機感にヴィルフリートの言葉が、泣きそうなコトハの顔が鮮明に浮かぶ。

 やがて店を抜けて大通りに出た。飲食店が立ち並ぶ通りの端、膨れ顔のコトハが近付いて視線で威圧をしてくる。

 

「リュウくん! 馬鹿っ、もう無茶しないでよ」

 

「俺も無茶するつもりは無かったよ、あいつら集団でかかってきやがって。──V2使ってた奴が光の翼を駆使するタイプだったらいよいよヤバかったな」

 

 ビームライフルとビームサーベルしか使ってこなかったあの男、V2ガンダムにおける最大の兵装“光の翼“を使ってこなかったのは手加減していたか、はたまた使い方を知らなかったか。俺のガンプラじゃないと、今も耳に残った声に苛立ちが(つの)る。そしてHi-ガンダム単体で勝利できなかった自分にも。噛んだ唇から鉄の味がした。

 

「立ち話はそれくらいにして、あたしの店で飲み直さないかい? すぐそこに店を構えてあるんだ」

 

「お店を経営されてるんですかっ? あ、でも気持ちは嬉しいんですが、わたしたち未成年なんで……」

 

「だったら料理を振る舞うよ、いや振る舞わせてくれないかい。久し振りに見掛けた元気な坊達をこのまま返すのは惜しいし、なにより店の看板娘にも会わせたいしねぇ」

 

「あ、ありがとうございます。だそうだけど、リュウくんはどうする?」

 

 気遣いの心が見える問いにリュウは短息で返す。助けてもらったのに誘いを無下にするのはどうにも気が引け、胸の内を整理したいのも山々だが顔だけは少し出そうと返事を返した。

 

「俺も行くよ。さっきは助けてくれてありがとうございました、リュウ・タチバナです」

 

「わたしもっありがとうございました! コトハ・スズネですっ」

 

「そういえばこっちも名乗ってなかったね、坊にスズ。あたしの名前はカレン・キリル。宇宙海賊【星辰(せいしん)の探求団】の船長で、酒場【ガルフレッド】の店長さ!」

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