「解除!よくやったな!エイハブリアクターグラムブルスッ!」
モニター画面が空転し、宙に左腕が見える。リボーンズガンダムは殴られた威力を殺すことなく地面に叩き付けられ、数度回転しながら峡谷の絶壁へと激突。
音と視界が正常に戻り、機体状態へ目をやる。……左腕は肩から先をハンマーで抉り取られ、腰の接続が緩み、全身にはくまなくダメージが入っている。間違いなく大きな回避や近接戦闘は行えないと悟り、自分のうかつさと不甲斐なさに唇を噛みしめる。
グシオンの位置を確認する。リボーンズガンダム前方、止めを刺そうとこちらへ近付いている最中だ。回避に移ろうにもトランザムが解けた直後だ、全身への負荷を考慮するとグシオンの速度を越えてこの場を離れることは出来ない。まさに絶体絶命というやつだ。
───項垂れるリボーンズガンダムの手前でグシオンが止まり、オープン回線でエイジの声が流れる。
「どうしたリュウ、何かを試すんじゃ無かったのか?」
「いやぁ、今それをやると機体がどうなっちまうか分からない状態なんだよ」
「そうか」
短くエイジが返事を返し、モニターに通信画面が表示される。降参を認めるかどうかのメッセージだ。
「今夜にはアウターも控えてるし、ここらで切り上げようぜ」
「……」
「リュウ?」
ごもっともだ、その通りだと心の底から同意する。我ながら馬鹿だと笑みを抑えることなくメッセージを選択し返信した。
「悪いなエイジ、まだ勝負は終わってない」
「ったく、意地張んなって、その状態で何が出来るって───
「極限開放!エイハブリアクターグラムブルスッッ!!」
エイジが先程から言っていた奇妙な口上をそっくりそのまま叫んだ。俺の読みが正しければそれは、試合の勝ち負けをここから覆す一手になり得る。
予想通りグシオンに握られていたハンマーが1人で振動を始め、エイハブリアクターの稼働音が周囲へと鳴り渡る。
「リュウ!お前……!?」
「気付いたのはさっきエイジが攻撃する度に口上を叫ばなかったことだ」
そう、リボーンズガンダムを峡谷の壁へと叩き付けた一撃、あの時ハンマーが展開状態であれば謎の吸引で回避不能状態を引き起こしそのままゲームエンドまで持っていけた、にも関わらずそうしなかったのは何か理由があるだろうと直感にも似た思考が走った。
「そのハンマーの展開状態は解除から展開の間にクールタイムがある、さっき俺を攻撃したとき展開状態にしなかったのはそれが理由のハズだ」
「……ハハハ!その通りだ!でナノラミネートヴァイブレイションブルスがエイハブリアクターグラムブルス状態になるためには音声認証が必要だってことも気付いたんだな!」
「ほぼ勘だったけどな、やたら必殺技を叫ぶからもしかしたらと思って叫んでみたらビンゴだった、音声認証とかどんな謎技術だよ」
「苦労したんだぜ?……でもなリュウ、この状態からどうやって勝つんだ?お前はトランザムのクールタイム中で動けず、俺は肩の装甲が外れただけで何の損傷もない」
グシオンが一歩一歩と近付いてくる。手に持つハンマーは甲高い駆動音をあげ、狙いをリボーンズガンダムへと定める。
「降参しろリュウ、そっちのギミックはまた今度披露してくれ」
「……わりぃ、ギミックなんだけど今見てくんねぇか?」
「何?」
武装スロットの右端、本来なら選択すら出来ないその武装は準備万端とばかりに青々と起動の時を待っていた。大きく息を吸い込み、意気揚々と叫ぶ。
「───トランザムッ!」
「は……えっ!?何ぃ!?」
右腕のGNドライヴから粒子が放たれ、機体は一瞬で深紅へと染まり全身へ粒子を展開する。両腰のGNダイバーソードが異様な高音と共に震え、クリアパーツで形成されたコンデンサー部分にひびが入る、もはや一刻の猶予も無かった。
項垂れた状態、耐久が限界の右腕をトランザムの粒子供給で無理矢理駆動しGNバスターライフルを構える。この距離なら間接が幾ら緩んでいようが外す自信は無いとトリガーを引いた。狙うはハンマー、エイハブリアクターそのものだ。
「……負けたよリュウ」
トリガーを引いてから0.5秒で発射されたビームはグシオンがハンマーを逸らす前にエイハブリアクターを貫き、大きく孔を空ける。エイハブリアクターはぐらぐらと今までの振動から崩壊を思わせる不安定な揺れへと徐々に変化し膨張しているように見えた。
「ったくそのハンマー無茶苦茶過ぎんだろ」
「いいかリュウ、こいつの名前はハンマー何かじゃない」
膨張は続き、破裂寸前の風船のように大きさを広げた。やがてグシオンと良い勝負のデカさまで膨らみ───そして。
「ナノラミネートヴァイブレイションブルスだぁぁぁああああああッッッ!!!!」
眩い閃光が走り、モニターを真っ白に塗り潰す。
エイジの断末魔と同時にお約束と言わんばかりの大爆発が峡谷を飲み込んだ。