ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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3章エピローグ1

 “学園都市”は山岳部に開拓された人工都市であり、“第一学区”のメインゲートを(のぞ)けば他の学区から外は急勾配(きゅうこうばい)の、少なくとも人間が出入り出来るような環境ではない。

 ほぼ直角へと人工的に調整された斜面(しゃめん)には針葉樹(しんようじゅ)鬱蒼(うっそう)と生え、整備がされていないせいか腰元まで伸びた植物が移動を絶望的に困難にしている。“学園都市”には壁が1周するよう囲まれており、その外へ出ること自体は違法だが難しい訳でもない。幾多(いくた)に張り巡らされた、迷路のような排水処理用の水路を道順に辿ればこうして壁の外へ出ることも出来る。

 

「こちら“デニム”、足元が相当に悪い。“荷物”には気を使えよ」

 

『こちら“スレンダー”、了解。』

 

『“ジーン”了解。へへっ、こんだけのアウターギアを売りゃあ一生遊んで暮らせるぜ』

 

 安い無線機特有の(あら)いノイズが混じった音声が五月蝿(うるさ)くインカムに響く。

 深夜の山岳部には勿論(もちろん)のこと頼りになる(あか)りなんてものは無い、その為月明かりが一層(いっそう)映える満月の夜を作戦実行の日に設定した訳だが目論(もくろ)み通り視界の確保が出来るくらいには外は明るい。

 (しばら)くして後続の“スレンダー”と“ジーン”が人の背余りの巨大なコンテナを2人掛かりで運びながら水路から出てくる。

 作業用である緑色のパワードアーマーに身を包んだ2人の顔には玉の汗がじっとりと浮かび、久し振りの外気(がいき)に一息つく様子が月明かりに良く見えた。

 

「油断はするな。仲間と落ち合うまでは見付かってはいけない」

 

「分かっていますよ。それよりもこの数の”アウターギア“、良く集めましたね」

 

 “スレンダー”がシニカルな口調で眼鏡を光らせる。

 

「”学園都市“で金に困ったら“アウターギア”を売るってのは裏じゃ常識だ。負け続けでガンプラバトルを引退した奴や病気でガンプラバトルが出来なくなった連中、そういう奴等から買ったり交渉して手に入れたのさ」

 

「へ、へへ。報酬は3人で山分けだよな、うへへへ」

 

「“ジーン”、そういう顔は全て終わってからにしろ。……まぁ“学園都市”から脱出出来た現状、気が(ゆる)むのは分からんでもないがな」

 

 監視カメラに細工を(ほどこ)し水路へ侵入、それに加えて“アウターギア”の初期化。準備と人員がそれなりに掛かった計画(プラン)だったが、この調子なら上手くいきそうだ。

 長時間の水路移動に火照(ほて)った身体も随分(ずいぶん)冷め、(ひたい)に備えた暗視ゴーグルを下げる。暗視装置が短い電子音を(ともな)い作動し、可視光線(かしこうせん)から()若竹(わかたけ)色が暗闇に浮かび上がった。

 

「ポイントβに仲間がワイヤーを急勾配(きゅうこうばい)へセットしておいた。そこへ移動しコンテナを上げてそのまま街まで行くぞ」

 

 およそ500m先の地点。

 “学園都市”外縁(がいえん)部を南西に沿()った地点には既に“学園都市”を抜け出した仲間が足を用意して待機しており、後はコンテナを運ぶだけだ。

 100を越える“アウターギア”、これら全て(さば)ければ途方(とほう)もない金額が自分達に支払われる事を考えると“ジーン”ではないが笑みが(こぼ)れるのも自然なこと。

 暗視ゴーグルに圧迫(あっぱく)された顔を張った笑みが浮かぶ。

 

「あ、見っけた」

 

 突然の声にしかし身体が即応(そくおう)する。

 非殺傷設定電圧の中でも最高電圧を誇る7万Vのスタンガンを腰元(こしもと)から引き抜き、一息(ひといき)に逆手で構えた。

 だが、今の声は。

 

「子供…………?」

 

 急勾配(きゅうこうばい)を見上げれば樹を支えにこちらを(うかが)う子供、それも少女の姿が暗視に緑と映える。驚異度(きょういど)は低いと判断し、威圧性(いあつせい)が高いスタンガンと暗視ゴーグルを一旦下げた。

 

「こんな時間に、しかもこんな場所に何の用事かなお嬢さん」

 

「あたしは用事無いんだけど、アデルがあるみたいなの。おにいさん達が持ってるそれ────“アウターギア”? が入ってるんでしょ。……お願いっ! あたし達に分けてくれない?」

 

 両手を合わせて頭を下げる少女の、なんと端麗(たんれい)な姿だろう。

 空に浮かぶ満月と見紛(みまご)(あわ)黄金(こがね)の長髪は、(あで)やかな光沢(こうたく)(もっ)て腰まで伸び、上目遣いで視線を送る瞳の佳麗(かれい)さと(だいだい)色の瞳は懇願(こんがん)(あや)しく揺れる。露出(ろしゅつ)若干(じゃっかん)多い身なりは山岳部では絶対に見ることのない都市で流行りのファッションか。

 愛らしい外見に、だからこそ感じずにはいられない不気味さ。何故こんな少女が自分達の計画を知っている……?

 

「お嬢さん、悪いがこの中身を渡す事は出来ない。何も見なかったという(てい)にしてもらえないかな?」

 

「えぇ~……? 渡さないとぜったい後悔するよおにいさん達。あたしの分の1個で良いから~」

 

「こっちも遊びじゃあないんだ、お嬢さん。家に帰ってゲームで我慢してくれ」

 

 抜いたスタンガンに電光(でんこう)が筋となって(ほとばし)る。

 低く弾けるような音が静まり返った森林に(はじ)けて鳴り渡り、少女に見せ付けるよう突き付けた。

 対して少女は(おく)する事ない様子で嘆息(たんそく)を長く吐き、どこか上機嫌(じょうきげん)とも思えるように月に向かって(さえず)る。

 

「──────だってさ、アデル」

 

 夜風(よかぜ)に樹が揺れる。

 さざめく葉の()れ合う音が風流(ふうりゅう)と耳に流れたと思えば、背後から聞こえる一瞬(いっしゅん)(うめ)き声。何事かと(あわ)てて振り返れば今まさに倒れる最中(さなか)の2人が目に映る。(かたわ)らに(たたず)む人影。月明かりが影を作り表情が隠れる長身の男。やがてゆっくりと歩き出し鋭利(えいり)な刃物を連想(れんそう)させる薄氷(はくひょう)双眸(そうぼう)が“デニム”を射抜(いぬ)いた。

 その眼光(がんこう)悲鳴(ひめい)意図(いと)せずとも口から()れ出る。

 

「────お前、ガンプラバトルは好きか」

 

「はっ…………。な、にっ?」

 

 気が付けば男が片手に“アウターギア”を取り出している。新品の輝きを放つそれは合流地点で仲間が所持している未使用品だ、(みちび)き出された答えに顔が青ざめていくのをさめざめと感じながら。

 

「て、めぇ! 何処(どこ)で計画を知りやがったッッ!?」

 

 怒号(どごう)と共に男へ向けたスタンガンは、指先の(しび)れを(ともな)って手から消える。小さく空を切る音が真上に上り、直下(ちょっか)へと落下、男の足元に転がってそれを足で()(つぶ)した。

 軌跡(きせき)すら見えない直上(ちょくじょう)への前蹴りを狂い無く()り出したと遅れて気付き後ずさる。こいつは危険だと本能が(さっ)し膝が震える。

 

「ガンプラバトルでお前が勝ったなら俺達は消える。だが、俺達が勝ったなら“アウターギア”を渡せ」

 

 何を言われたか(しばら)く思考が働かなかった。

 やがて理解し、(つげ)げられた条件に状況の興奮からか口が()り上がり、馬鹿め、と心中で男を(わら)う。

 よりにもよって俺にガンプラバトルを挑むとは、と自身が“アウターギア”に登録したガンプラの情報を男の視線と対峙(たいじ)しながら思い返した。

 ────レギュレーション400、ザクタイタス。

 字体から受ける印象とは裏腹に表面装甲から内部間接に至るまで海外の違法キットを使用した、レギュレーション詐欺もいいところのモンスターマシン。性能全てがレギュレーション800と遜色(そんしょく)無いこのガンプラは公式バトルでは使用できないものの、ただの野試合なら問題なくプラフスキー粒子は作用する。

 しかも“学園都市”建造物は(はし)に至るまでバトルシステムが搭載(とうさい)されており、それはここ外縁(がいえん)部も例外ではない。

 

「良いぜ、その言葉乗った。」

 

 暗視ゴーグルを外し“アウターギア”を装着。両手を構えれば想像通り土に埋もれた外縁(がいえん)部から“プラフスキー粒子”が(ほたる)のように浮かび上がり両者を囲む。対する男も“アウターギア”を装着し、“プラフスキー粒子”の光を浴びて本紫(ほんむらさき)の髪が夜闇(よやみ)に揺れた。

 

『────バウトシステム、スタンバイッ!』

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