焼け落ちて崩れる建物に罅割れた大地。
バトルフィールド“サイド7”は見る影も無く蹂躙され破壊され、煌々と一面に火が燃え広がる。コロニーを穿つ大穴が数ヶ所程散見され、コロニー内の大気が突風を生じながら大穴へと吐き出されていく様を倒れた機体から“デニム”はどこか他人気に眺めていた。
ザクタイタスはその身を横倒しになったビルへと埋め、肘から先がない腕を軋ませながらその機体へと伸ばす。
風に乗って流れる火の粉と煤に腕を仄黒く染めながらも、対して視線の先に佇む機体には一切の汚れが見当たらない。まるで、この地獄を思わせる凄惨な光景の主だと言わんばかりに暴風はその機体を避け、火炎が喝采する隷下の如く機体周辺を渦巻いていた。
四肢には炎と見紛うカラーリングのユニットが備わり、機体の各部に燦然と走るラインは輝く星を思わせる光芒が明々と伴う。上四方に長く伸びたクラビカルアンテナが印象的な頭部から覗くラインセンサーは尚も鋭く、その堂々とした威風たるや覇王の風格を感じずにはいられない。
右手には長剣が構えられ、刀身には魔法文字を思わせる紋章が連なり内からの光を以て綴られてある。
真紅と白亜に彩られた機体へノイズが走るカメラを合わせると暫くして機体名が表示された。
「“シュトラール”……、聞いたことねぇガンダムだな」
男の呟きと同時、無慈悲と威圧する眼光がザクタイタスへと向けられ、左腕ユニットが展開。恒星の閃きを放つ光球が掌に生じ、機体にまとわりついていた暴風が火炎が、その全てがシュトラールから離れるよう半円状の力場が形成される。“パルマフィオキーナ”でも“ゴッドフィンガー”でも無く全く未知の武装。
翳された左腕ユニットがザクタイタスへと向けられ、膨張と収縮を繰り返す光球が一筋に煌めいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「あの人達逃がして良かったのぉ? 何か悪さしてるみたいだったけど」
淡い黄金の髪を月明かりに照らしながら、慌てて逃げ惑う3人を尻目に少女がこちらへ呟く。珍しく本気で疑問に思っているような口振りに構う事も無く、男から奪った“アウターギア”を少女へ投げ渡した。
手に弾かれて数度の空転を伴い少女の手へと収まり、じっとりと鋭い視線が浴びせられる。その橙色の瞳に今更思うところもなく────“アデル”は水路を見やり足を踏み出した。
「え、アデルもしかして休まないでこのまま行くの? ……あ、あたし疲れたな~休みたいな~」
「さっきの騒ぎを聞き付けて警備が直ぐにやって来る。見付かりたいんならそこで寝てろ」
「ひえぇぇえ、こんな年端もいかない女の子にキツくない? その当たりはさっ! ……もぉ~わーかーりーまーしーたー! 歩きますよ歩きますよ~だ」
「年端もいかない女の子……?────ハッ」
皮肉と鼻を鳴らし本紫の髪が揺れる。視線の先、項垂れた本人も自覚があるあたり性質が悪い。
出会ってもう10年以上変わっていない見た目のコイツのどこが年端もいかない女の子なのか、嘲を込めた視線を一瞥し、冷気が篭り停滞している水路を再び歩き始めた。
「────行くぞ、エル」
「────はいはい、アデルってばも~すこし愛想良くした方が喜ばれると思うけどなぁ~」
反響する少女の声がやたらと耳障りに水路へ響く。
しかし指摘するのも面倒だと、アデルはコートを深々と羽織り直す。ふと胸元の認識票が手に触れ、遥か遠くの記憶が遠方で迸る雷のように甦った。
そういえばエルオーネ────エルと出会ったのも満ちた月の日だったと、胸元で踊る認識票を握り瞳を閉じて一瞬更ける。忘れてはいない、その為に日本に来たのだから。
水路を往く足取りに迷いはなく、確かな目的を持った足付きでアデルは暗闇を歩み進んでいった。
「ってアデル~!? ちょっと早くないかな!? バテる以前にあたしが置いていかれるんだけどっ!」