ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝
外伝『Gun Through the Dust Anima』1話


 〈スペクター1より各機。プルーマの数が想定より多い、入り乱れた戦闘に移行(いこう)した場合奇襲(きしゅう)に注意しろ。加えて奴等(やつら)のドリルクローは通常のプルーマより強化されてある、被弾するなよ〉

 

 〈了解ッッ!!〉

 

 (おごそ)かな雰囲気を含んだ強い音声がスピーカーより聞こえ、自分を含めた小隊全員が快活(かいかつ)に返事を返す。

 バトルフィールド『峡谷』は機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズに登場したステージの1つで、全高150mを越える岩肌が入り組んだ海溝(かいこう)のようにうねり、時折(ときおり)吹き荒れる砂嵐は空中を移動する機体にとって中々に厄介(やっかい)なステージギミックだ。既に散開(さんかい)した小隊各機は砂嵐に軽口を叩きつつも余裕を含んだやりとりで作戦エリアへと向かい、自分の機体────ケルディムガンダムも間も無くあてがわれたエリアへと到着する。

 青く開けた空に砂塵(さじん)(かげ)る中、部隊内通信のコールマークが正面メインモニタに点滅し思わず身を正した。

 

 〈────こちらスペクター5。谷の底にプルーマの集団を発見しました。奴等はこちらに気付いていませんが攻撃しますか?〉

 

 〈こちらスペクター1。良くやった、最大火力で一気に数を削れ。その地点を押さえれば今後の作戦が楽になる、だが無理はするなよ?〉

 

 〈スペクター5了解っ!石破天驚拳を使用しますッ! ────はあぁぁぁあ……! 石・破ッ! 天ッ! 驚ッ! けぇぇぇええええんッッ!!〉

 

 (いく)らなんでも指示を受けてから実行するまでの間隔(かんかく)が短すぎないだろうか、と部隊内で唯一同性の先輩に苦笑(くしょう)を交えてスピーカーへと耳を(かたむ)ける。間も無く(おとず)れるであろう衝撃波に備える為、笑いに揺れる操縦桿を一層(いっそう)強く握り、案の定見えない大気の壁に激突したかのような衝撃が機体を大きく揺らした。

 スペクター5が搭乗するマスターガンダムの最大火力武装、石破天驚拳が気合いの入った声と共に炸裂(さくれつ)する。本来技名を叫ぶ必要は無いのだがそれは彼女の信条(しんじょう)に反するらしく、搭乗している機体も相まってリアルガンダムファイターと他隊員から茶化され怒るまでが一連の流れだ。

 

 遠く峡谷、一際(ひときわ)高い岩肌が轟音と共に崩れ去る。やがて大きく“驚”の文字が岩肌に刻まれ、プルーマの撃墜(げきつい)()げる爆音が次々と強化されたセンサユニットによって拾われた。小さく聞こえる隊員達の笑い声は最早ご愛敬(あいきょう)だろう。

 

 〈────こちらスペクター5。プルーマの6割を撃墜(げきつい)、これより白兵戦に移行(いこう)します〉

 

 〈良し。充分に注意して蹴散(けち)らせ〉

 

 〈スペクター5了解! この地点のプルーマを掃討(そうとう)した後スペクター2、スペクター3を撃破(げきは)しに向かいます、貴方達また笑いましたね!?〉

 

 自分と隊長を除いた隊員達の悲鳴(ひめい)が混じった(うめ)き声にいよいよ笑みが自分の口からも漏れた。

 次の瞬間、引いた血の気のまま正面モニタを見れば表示されているのは部隊内回線のモードを表すアイコン。つまるところ今の自分が発した笑い声も全員に聞こえてしまった訳だ。涙目を浮かべているであろうスペクター5の叱責(しっせき)がスピーカーを大きく鳴らす。

 

 〈すっ、スペクター4! 貴女までも笑うのですかっ! そんなに私のバトルスタイルが可笑(おか)しいのですか!〉

 

 〈あああ、ごめんなさい! 違うんです!あの、何かちょっと可愛(かわ)いかなと思ってしまって〉

 

 〈可愛(かわ)いっっ!? 私より年下ですよね貴女!? ……コホン。分かりました、いい機会です。この試験が終了したら少しお話がありますスペクター4。普段から私をからかうような素振(そぶ)り、これを機に矯正(きょうせい)してあげます〉

 

 逃げろスペクター4、奴は拳で語る口だ! という通信がスペクター3から聞こえ再びスペクター5が噛み付く。彼の忠告が迫真であった事から過去に何があったのかは察するまでも無いが、口には決して出さない。怖い。

 

 〈────各員お喋りはそれくらいにしろ。スペクター5がプルーマを発見したということは、逆もあり得るという事だ。〉

 

 《────了解》

 

 短く切った、力強い返事。続いて隊長の(かす)かな笑みの気配にこちらも釣られて口角が上がる。

 自分が所属するこのフォースは結成されて3年ばかりの至って平凡なフォースだ。隊長とスペクター5が恋人関係でスペクター2と3は隊長達の後輩。自分は全国を野良でガンプラバトルして回っていたら勧誘(かんゆう)されたクチで雰囲気の良いこのフォースが気に入り腰を落ち着かせている。

 フォース結成1年目、都市のそれなりに大きなフォース戦で結果を残してからプロになることを全員が意識し始め、ガンプラバトル運営が定める試験を直ぐに受けた。試験に合格すれば晴れて資格を持ったフォースになれるのだが、過去に3回その試験に落ちており、今回で4度目となるこの試験を最後に隊長とスペクター5は不合格ならガンプラバトルを引退するという決断を下す。将来の家庭を見越しての判断に誰も反対せず、いつも通り笑って付いていくことを決めた訳だが、それを告げたときの隊長の顔といったら珍しく鼻頭を抑えて涙を流していた。

 

「この調子ならっ」

 

 試験は初めて最終審査まで通過した。

 全4過程ある試験の3つを信じられないくらい快調にクリアし、最後に課されたのがこの“ハシュマル討伐試験”。提示された情報を元に作戦を練り上げ、今日まで全員が訓練してきた努力をぶつける時が今この瞬間だ。

 右上スクリーンに表示されたマップデータが間も無くポイントに到着することを伝える。機体ステータスに不備が無い事を確認してから咳払いを1つ、少し大きめな声で隊長に繋いだ。

 

 〈こ、こちらスペクター4! もうすぐ作戦エリアに到着します!〉

 

 〈了解。俺も間も無くエリアに入る。スペクター1からスペクター3が到着した(のち)、俺の合図で攻撃をそれぞれが仕掛ける。プルーマが多いエリアのバックアップ頼んだぞ〉

 

 〈スペクター4、了解っ!〉

 

 ハシュマルとの戦闘シュミレータは全員が履修(りしゅう)済み。ミッション成功率は9割を越えており、懸念の1割を占める“連続稼動によるガンプラの間接の磨耗”という事態も当日全員がそれぞれのガンプラを確認しあった為心配は要らないだろう。

 自分の駆るケルディムガンダムが務める役割は“プルーマ掃討の補助”。ナノラミネートアーマーを(まと)わないプルーマの装甲はビーム兵器に弱く、他の隊員が持つ火力をハシュマルにぶつけるための御膳立(おぜんだ)てという訳だ。

 一際(ひときわ)強く、風が吹く。

 煽られた砂塵が峡谷を等しく風と共に覆い、視界が一瞬黄砂(こうさ)色に染まる。続いてガッと短いノイズが走った後コールマークが正面モニタに点滅、距離が離れているせいか通信音声は先程までに比べるとやや不明瞭(ふめいりょう)だ。

 

 〈うぃーっすこちら02(ゼロツー)、作戦エリアに到着しました〉

 

 〈03(ゼロサン)も同じく到着ぅ~、隊長がまさかの一番遅れですか? 俺たちだけで終わらせちゃいますよ?〉

 

 〈馬鹿言え。お前らを作戦エリア手前でずっと待ってたんだ悪餓鬼共。────さて、こちらも始めるとするか。早く片付けないとスペクター5がお前らを撃破しにやって来るぞ〉

 

 2人の笑い声がコクピットに反響する。良い雰囲気だ、皆がリラックスしていて心にはちゃんと張り詰めた緊張感を持ち合わせている。

 

「なら私は、1匹でも多く撃破して皆の負担を軽くする」

 

 武装トリガ、GNライフルⅡと連動した操縦桿を決意と共に握り、砂塵が吹き荒れる峡谷その谷底が見渡せる狙撃ポイントへとケルディムガンダムが着地。

 アイセンサユニットが数度の望遠調整を行った後、砂色に(まぎ)れたざわつく黒を(とら)えた。プルーマの集団だ。

 

 〈スペクター4。狙撃位置に到着しました、いつでもどうぞ〉

 

 〈だそうだ。各員準備は良いな?プルーマを掃討した後ハシュマルを捜索してこれを撃破……これで終わりにしよう〉

 

 《了解ッッ!!》

 

 〈砂が晴れたら攻撃だ、集中しろ〉

 

 自らにも言い聞かせるような、語尾の強い声だった。

 集中しろとの命令に変わり映えの無いモニタ情報を確認し、全ての項目(こうもく)が平常であることの確認を終え目を閉じる。

 久し振りに吐く長い溜め息と共に目を閉じようとした、景色が黒に移り行くその時だった。

 

 〈────? な、アイツら何処を向いて……〉

 

 〈スペクター4どうした、プルーマに気付かれたか?〉

 

 〈いえ、此方には気付いてはいません。いませんが、全ての個体が1つの方向を向いていて────〉

 

 短いノイズ音がスピーカーを強く鳴らし通信が不意に途絶(とだ)える。

 モニタコールマークはオフライン。異常事態と脳が判断する前に訓練の成果からかそれともファイターとしての勘か、視線は意思に反して正面モニタの機体情報を確認し事態の把握(はあく)に務める。

 計器が観測している異様な力場の乱れ、これは……ッ!

 

 瞬間。空気がスパークした際に発する低い破裂音の連続と、鳴雷(めいらい)を思わせるような高く轟いた空気の振動に思わず目を(つむ)った。

 

「な、何が……」

 

 過去に何度も見た光景の筈だった。あるときは砲撃機が持つ強力なビーム兵器、あるときは戦艦から放たれる高圧粒子砲。

 記憶の情景(じょうけい)に重ねられた殲滅(せんめつ)の光が、粒子の奔流(ほんりゅう)とも例えるべき閃光の螺旋(らせん)が、巨大な槍となって峡谷を穿(うが)つ。厚い岩壁に阻まれた様子もないその光槍は幸い自分達ではない峡谷の岩壁を貫き、バトルフィールドのエリア外まで威力が衰える様子なく続いていった。時間にして数秒か、破壊されていく峡谷をどこか他人気に眺めながらようやく気付くべき異常に意識が反応した。

 

「え……。す、スペクター5、反応…………ロストっ!? そんなっ!」

 

 〈(あわ)てるなッ! スペクター5の付近にハシュマルが潜伏していた可能性もある、まずは作戦の建て直しを────〉

 

 再び輝きが正面モニタを覆い、通信が断絶される。目をしかめる中レーダーを恐る恐る見やれば印された各隊員達のマーカーそれらが全て消滅(しょうめつ)を意味した灰色のマーカー色となったのが確認出来た。

 彼方から()ぎ払われた2度目の光槍、その一振りが峡谷の谷底を通過しメインカメラを慌てて谷底へ向ければ、施されたビームコーティングが意味を為さず溶断された各隊員達の機体が爆発もしないまま腰から上を無くしていた。

 

「ひッッ…………!」

 

 部隊の残機1。私だけだ。

 

 把握も何も出来ていないこの事態にただ口が渇く。

 どうやって。

 何故。

 どこから。

 試験は。

 私は。

 

 疑問が脳内を埋め尽くした頃合いか、真白の閃光が遠くから私に()し込んで────。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 照明が消された個室。高々と積み上げられたコンピュータの駆動音が低く(こも)り、明々と映る複数のモニタが部屋を散発的に照らす。部屋の中央、パソコンに囲まれた女性は犬歯を覗かせた笑みを浮かべ、(かな)でられる高速のタイピング音だけが個室に流れる音楽だ。

 モニタに映し出されているのは“学園都市”に在住する膨大(ぼうだい)な量の個人情報。

 

 ──“学園都市”とは新しいガンプラバトルシステム研究の実験場兼、今後世界に配信される“電脳世界(アウター)”のβ(ベータ)テストを行っている都市だが、生活している人間の(ほとん)どは外部からの移住者から来ている。世界中から選考抽選で選ばれた移住者達は“学園都市”に移る際、個人情報を“学園都市”へと登録するわけだが、女性が閲覧(えつらん)している数々のページは全てが厳正(げんせい)に管理されている筈のそういったデータだ。

 長く伸びた翡翠(ひすい)の髪を掻き上げて、瞬きの1つもしないまま視線を高速に上下する。

 

「まぁ私?やれば出来る女ですから?今日の仕事を明日に持ち込むなんて真似は(いた)しません、ファイター選びなんて趣味趣向を走らせてちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」

 

 候補の人物をピックアップ。

 ()から命令されたのはあくまで人選の選定とミッションデータの結果のみ。ミッション自体成功の是非は問わないというオーダーの元、女性はファイターの勝率を除けば極めて個人的趣向の入った人選に(いそ)しんでいた。

 これまで選んだのは会社員に子供、そして軍人。

 軍人の肩書きはともかく全員顔が良い。仕事を行う以上、折角(せっかく)ならば美形と同じ空間に居たいという信条(しんじょう)の元、とりあえず集まった3人は勝率も高く顔が良い(イケメン)。残る1人に迷う中、スクロールした画面の片隅に目が止まる。

 

「あら、この人……? “フォース”リーダーじゃないですか。ファイター兼ビルダーそしてイケメンに加えて勝率も高い! 超・優・良・物・件ッ! この人にしちゃいましょう、はいっぽち~」

 

 クリックと共に人物へチェックが付けられ、これで4人のファイターが決定された。後は彼らに招待メールを送信すれば仕事が終わる事にとりあえずは一息付けるとチェアに寄り掛かる。手元の紙カップに入ったコーヒーを流し、長時間の経過によって冷えた苦味に思わず顔をしかめた。名産(ブランド)のコーヒーでも冷えたらこんなに不味くなるのかと黒濁の液体をじっと(にら)む。

 

 ────対して。

 

「今丁度お熱い時期らしいですね、この人が所属しているフォース。……ええと名前は────フォース“ファクトリア”」

 

 黄土色(ヘーゼルカラー)の瞳が笑みに細まり、(れい)(べに)を引いた唇を(あで)やかに舌が()った。

 彼なら、彼らならこのミッションをクリアしてくれるかも知れないという期待が4人を眺めると沸いてくる。

 調整ミス、耐久値ミス、AIミス、全て上限値突破(オーバー)。本来12人以上で行うMA(モビルアーマー)戦にも関わらず設定されたファイター数の上限は4人。更に機体レギュレーション600以下という、これらの要素を見ればクリアさせる気のないミッション。ガンプラバトル運営が生んだバグデータの1つ。

 モニタ手前のファイルを手に取り、“社外極秘”と判子の押された茶封筒を開封。留められた厚用紙をめくり、本ミッションの破壊目標が大きく書き出されていた。

 

「────主亡き後の亡霊、悠遠(ゆうえん)の地に取り残された主天使の長。………MAハシュマル」

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