「左右のGNドライヴ別々でトランザムを起動ねぇ……試みとしては面白いけど元々のシステムを弄くってるんなら機体に相当負荷が掛かってるんじゃないか?」
「……スクラップ寸前だよ、発想に改造の技術が追い付いてないからGNドライヴの損耗が激しい、こりゃ交換かなぁ」
慎重にGNドライヴを肘から取り外そうとゆっくり力を込めるが、薄いガラス板が徐々にひび割れるように亀裂が入る。なんとか取り外した時には原型を保っておらず内部の基部が露出し再利用は不可能と言わんばかりにぱっくりと真ん中が大きく開いていた。
機体状態が万全ではない状態での連続でのトランザムだったにしてもこの破損は予想外だ、GNダイバーソードで出力の調整を補う算段だったがそれ以前の問題だということは明らかだ。
───時刻は夕方5時、太陽は既に傾き春先のこの時間ならではの、ひんやりとした気温が室内に満ち、夕暮れに染まる放課後の校舎はどこかもの悲しい雰囲気を醸し出す、もっとも風景的な意味合いだけでなくリボーンズガンダムを無言で見つめる自分も物寂しい雰囲気を作り出す一因になっているのだが。
「くっ!ナノラミネートヴァイブレイションブルス、積め込めれるだけ機能を詰め込んでみたがやはり何かを削るべきか……!」
「いや音声認証はいらねぇだろ、エイジの声じゃなくて俺の声でも反応したし」
「音声認証は必要だ!パイロットの声に応えて武器が!ロボットが変形するって男の浪漫だろ!」
気遣いか自然か、普段の陽気なテンションでまるで幼い子供のように片っ端から否定し木っ端微塵に破損したハンマーの残骸を筐体の上からかき集めエイジはおいおいと泣いていた。先程聞いた話ではあのハンマー、音声認証はエイジでも俺でも作動するようで稼働状態はエイハブリアクターが臨界状態の為僅かに傷つくだけでも大爆発を起こす欠陥兵器だったようだ。
「……エイハブリアクターに備わる重力生成機能を特化させた改造か」
目の付け所が違うというか、エイジの発想力には正直驚きを隠せない。この先、模型技術と操作技術が上達して持ち前の柔軟な想像力も発達したらと思うとエイジ対して黒い感情──、若干嫉妬に近い感情が芽生える。
「俺は……」
気が付けば欠けたGNドライヴ、全身がボロボロのリボーンズガンダムを再び手の上で転がしていた。
発想が先行しトランザムの時間さえ管理出来ず、肝心のトランザムも思い返せば無改造の素組みの方が良かったと思えるような始末だ。連続でのトランザムを想定した結果トランザム自体の性能を下げて少しでも負担を減らそうと試みたが、そもそもトランザムを連続で行うという行為が夢物語だった。ガンプラバトルに敷かれた絶対的なルール、特殊システムは原則20秒、クールタイムは必ず必要。その理を覆すには自分の模型技術は果てしなく拙い。
悪人顔の鋭い印象を覚えた頭部もバトルの影響でアンテナが欠け、どこか間抜けとさえ思えてしまう顔立ちに申し訳無さと自身の不甲斐なさが許せない。
「リュウそろそろ帰ろうぜ、寮の周りも結構変わってるみたいだし探索がてら見て回らないか?」
「……」
「リュウ?」
思考に更け込みエイジの声に驚く。ここに居ても仕方ないと自分を奮起させ、傷だらけのリボーンズガンダムを見ないよう手早くキャリーケースへ仕舞った。
「わりぃわりぃ、行こうぜ」
ドアを開いてエイジが俺を待っており足早に向かい部屋のドアを施錠する。長い一本道の廊下は部屋の中よりも気温が低く、肌寒さを感じるほどだ。
「そういえばエイジ、バトルの始め、どうして俺の位置が分かったんだ?」
「あぁあれか」
得意気な顔でにやけ、視線をこちらに横目で向ける。
「音のボリュームを下げてそっちの音を聞いて場所を判断した!」
「あ!きったねテメェ!」