学園都市第一学区の裏路地は太陽が
日に当たる事の少ない裏路地の更に奥、学園都市では数少ない夜の店が見え始め店前であくびをする金髪の従業員が
アウターギアが示したのは地下の小劇場だった。客が20人が座れるか座れないかの座席を有する小さな劇場の看板には貸し切りの札が張られており、隅に小さく学園都市運営を示す判子が押されているのを確認し中学生には少し急な階段を下った。冷えたコンクリートと
「────日本ガンプラバトルジュニアリーグ優勝、シオウ・アキラ君。会えて嬉しいよ」
「ヴィルフリート・アナーシュタイン。ふ~ん、世界的ファイターのアンタが学園都市にいるって噂ホントだったんだ」
「私だけだがね。私を除いた世界の彼らは学園都市の抽選には選ばれなかったらしい。今日はよろしく頼むアキラ君、良い1日にしよう」
「アンタにそんなこと言われると普通のファイターはプレッシャーで押し潰されるよ?まぁ、こちらこそよろしく」
大きな手だった。
物心付いた頃からテレビで見ていた有名ファイターに、普段
どうやらここは入り口受け付けに相当する場所で奥に見える開けた空間が舞台なのだろう。客席は
「パーツ配置位置を見た人間に、こういったパーツだろうなと思わせるミキシングがミソだろ、なぁトヨザワ」
「僕もその意見には同意だね。だけどサイコ・ザクみたいな一見ごちゃつきながらも機体とパイロットの背景を考えると納得出来るデザインも好きだなぁ。そこについてはどう思う?」
「作品あっての機体か、機体単体での世界かの違いだな。サイコ・ザクは機体背景を考えれば2度楽しめる至高の機体だが、機体背景が練られず反映されてねぇ物は雑な印象ってだけで止まっちまう。それは勿体無ぇと思うな」
「確かに勿体無いね! 僕自身設定を考えてる時の方が面白いと思う時があるから尚更分かるなぁ。いやいやガンプラバトルを離れてたからこういった話題に
「こっちも久し振りにアンタのガンプラを間近で見れて嬉しいぜ。どうなってんだよあの塗装にメタルパーツの配置。単体なら目立っちまう2つの要素が合わさって違和感が消えるって意味分かんねぇ、最高だよ」
おっさん同士がオタク話、もとい熱い模型議論を交わしていた。
トヨザワと呼ばれていた男性はビジネススーツに身を包み、メガネの奥の目に笑みを走らせる。前日の調べによれば6年程前にプロで活躍していたファイターだったが結婚を転機に引退と記されていた。気さくな表情が隣の男性からアキラへと向けられる。
「やぁ、君がアキラ君か。初めまして、トヨザワ・フミヤだ。……あの、初対面でこんなこと頼むのも失礼だとは思うんだけど……娘が君のファンなんだ、良ければサインをくれないかな?」
「シオウ・アキラよろしく。サインを余り書いたことが無いから多分凄い下手だよ?それで良ければ」
「ありがとう! 色紙とペンは帰りに渡すよ。いやぁ、その若さでジュニアリーグ優勝とは本当に凄いね。歴代でも相当に若いでしょうアキラ君」
「若く優勝し過ぎたせいで各方面からの批判もあるけどね。けど、アンタの記録も
「やめてくれよその異名! 僕自身名乗ったこと無いし凄い恥ずかしいんだから!」
人の良さそうな第一印象そのままに、トヨザワが恥ずかしそうに後ろ頭を掻く。
そんな彼の異名“ジャイアントキリング”。その
「ハッハッハ、“ジャイアントキリング”か!んな
トヨザワの隣。絵に描いたような悪人面が口を大きく開ける。
ロングコートに
「初めましてだなガキんちょ。俺はカガミ・レン、まぁ短い間だが宜しく頼むわ」
と、言うか。
「初めまして……? 初めましてって言ったか今?」
「あ? どっかで会ったか?いや、こんな生意気そうなガキと関わるほど俺暇じゃねぇしな……」
首を
自分とは10歳以上も離れている男が見せる子供のような仕草に、記憶の
「…………ジュニアリーグを優勝したすぐ後、ボクはガンプラバトルでボコボコにされたんだ。それは酷い有り様さ、おおよそボクを応援してくれた人には見せられないような惨敗だった。」
「そりゃ
「全くだよね。で、ソイツが言ったんだよ。『お前みてぇなやつに勝っても完成したことにはならねぇや』ってさ。意味は分からなかったけど馬鹿にされたってことだけは昔のボクでも理解できた……それからずっとガンプラバトルを磨いてさ、見返す機会を待ってたんだ」
「おぉ~なんだオメェ、中々に
からからと笑うこの男はどうやら本当に気付いていないらしい。
明らかな敵意を
「アンタだよ」
「あ?」
「眠そうな顔でボクをボコボコにした男。フォース
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
開けた空間の対角線上。アキラを視線で気にかけるレンと、その視線に真っ向から無視を決め込むアキラの構図は見ていて中々肝が冷える。流石にレンは大人なのだから今日のミッションに
隣には
自分だけだとレンとアキラの
「ガキんちょ機嫌直せって~。俺あの時多分朝帰りで酔ってたと思うんだわ、記憶が無ぇんだもん」
ぴく、と。アキラの眉が明らかに寄り鼻を
次々とアキラの地雷を踏んでいくレンには一種の
学園都市が造られる以前に両者が住んでいた地域が近かったのは
「ふむ」
先程から
「皆にも届いていると思うが、学園都市から来たメール。ミッションの詳細が
そう言って
レンもアキラも同じ様子で首を振り、1人納得したようにヴィルフリートが浅く頷く。その
「なんだよ1人で分かったような顔して。ヴィルフリート、アンタは何か心当たりはあるのか」
「……まず、この場の誰もが人員を見て参加を決めたと思う。ジュニアリーグ優勝シオウ・アキラ。“ジャイアントキリング”のトヨザワ・フミヤ。フォースファクトリアのリーダー、カガミ・レン」
「俺ぁ真っ先にアンタの名前を見て驚いたがな。世界ランク8位ドイツ代表、軍神ヴィルフリート」
「ありがとう、私の紹介をしてくれて感謝する。自分の肩書きを語る事ほど薄ら寒い事は無いからね。……それで、メールを見たとき当然の事ながらこう考えた。『このメンバーが
「そりゃまぁ……。だとしてもボクらにミッション内容を伝えない意味が分からないよね、書き忘れたなんて無いだろうし」
横目で返すアキラの同調に皆も同意の反応を示す。
「と、なると。ボクらでバトルロイヤルでもするのかな?……そうなるのは願ったり叶ったりなんだけどねぇ」
「ガキんちょこっち見んな」
「はぁ? 見てないし、自意識
案外2人の相性は良いかもしれない、とトヨザワ、ヴィルフリート共に悟られないようやり取りを見て笑う。
そしてふと目に入った柱の時計。時刻は間も無く表記されていた時間を指す頃合いであり、意味もなくポケットに仕舞われたアウターギアを指で弄ぶ。
「あら? あらあらあら? 皆さんお早い到着でして」
声に色気を
皆が同じタイミングで出入り口を見やれば、薄い
「アンタがメールを
「イ、イ……」
「…………?」
「イケメンじゃないですかぁー!! 揃いも揃ってイケメンばかり! あぁっ! やっぱり私の人選にミスは無かったわ! ナイス私!」
暖房が効いている筈の空間に寒気が走った、2度目の出来事だった。