ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』5話

「私はユミ・サクラ、学園都市ガンプラバトル開発の研究者よ。先程はごめんなさい。私、顔の良い人間を見るとどのような状況でも異常に興奮(こうふん)してしまう性癖(せいへき)なの、気にしないで頂戴」

 

「いや気にすんなって方が無茶じゃね!? ガンプラバトルの運営にこんな変態(へんたい)所属(しょぞく)していた事実に驚くわ!」

 

「あぁっ! 怒っている顔も素敵ねカガミ・レン! やっぱりイケメンは罪だわ……、あ。鼻血でそう」

 

 カウンターを挟んでバーテンダーが立つ位置にユミ・サクラが、客が座る椅子には各々(おのおの)が着きミッションの説明を聞くため耳を(かたむ)けていた。

 その途端(とたん)に判明したユミの変態性にトヨザワが苦笑しながら、ヴィルフリートはその鉄面皮(てつめんび)のまま、アキラはバーにも見えるような小劇場の造りの(おもむき)に意識を逃がして、皆がなるべく自分に話題が来ないよう祈りながら会話が流れるのを待つ。

 鼻頭を抑えた以外は紛れもなく美人の口角が上がり、やがて咳払い。研究服からアウターギアを取り出したところでそれぞれの意識がユミへと集中する。

 

「気を取り直して、コホン。────まずは、集まってくれた事を感謝するわ、学園都市の精鋭(せいえい)達」

 

 手入れの行き届いた指先に踊る、インカム状のデバイス。短くささやかな起動音と共にどこかあざとげな指使いで耳に掛けられた。

 研究服と同じく白を貴重としたデザインにラインの燐光(りんこう)が走る。アウターギア全体に灯りユミの眼前、ホロスクリーンが目元に展開された。

 

「────アウターギアを」

 

 声に各々(おのおの)もアウターギアを取り出す。右耳に左耳に、デザインや色に差異(さい)こそあるが片耳に掛ける仕様は変わらない。

 4人のアウターギアにも光が灯り、ユミから送信されたデータがホロウィンドとして視界の(はし)に映された。それを視線で(とら)え正面中央へと移動。圧縮(あっしゅく)されたデータが開き、それと同時息を飲む気配が走る。

 

「これって……!? ボク達が今日やるミッションの相手……?」

 

「あ、待って(まぶ)しい。(とおと)すぎ、死ぬ。アキラくんの驚いた姿お姉さんの心臓に悪いわ。少し時間を頂戴。具体的に言うとガンダム作品に登場する兵器全てを言い終わるまで」

 

「この人いちいち面倒臭いなぁっ!?そして果てしなく長い時間が必要だよ!?」

 

「……横槍を刺すことを失礼するが話を続けさせて貰おうか。送信されたデータに写るこの機体がミッションの相手で構わないかな?サクラ女史(じょし)

 

 (わず)かに(うかが)える溜め息の色を含みながらヴィルフリートの視線がユミを()る。

 一瞬(くら)んだように頭へ手をやるが、(あつ)を掛けられた眼光に対して同じく(りん)とした眼を光らせた。

 

「そう。破壊目標は1体。峡谷に潜むコイツを仕留めればミッションは終了よ」

 

「成る程理解した。とりあえず鼻血を()いて頂けないだろうか」

 

 ヴィルフリートからハンカチを渡され、その場で垂れた鼻血を拭き取るユミ。

 拭き取る直前、ハンカチに顔を(うず)め荒い深呼吸を数度した事に対して誰も何も言わない。

 

「……それにしても、ここにいるメンバー全員戦った事はあるんじゃないかな。────ハシュマル」

 

 ぽつり、と投げられたトヨザワの言葉に一同が(うなず)く。

 MAハシュマル。

 機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ2期に登場するMA(モビルアーマー)の1体。形は主人公三日月・オーガスにして「鳥みたい」、作中の過去“厄祭戦”にて多くの人類の命を奪った無人の殺戮(さつりく)天使。

 現実のガンプラバトルにおいてはビームを弾くナノラミネートアーマーとMA(モビルアーマー)という共通認識から大きく外れた機動性運動性、そして従えた多数のプルーマと呼ばれる小型の随伴(ずいはん)ユニットで戦場を荒らす厄介な機体だ。

 だが。

 

「俺ぁ機体にも()るが1人でも倒せるぜ。ってか皆そうだろ?」

 

 さも当然と言わんばかりにレンが皆を見渡す。

 機体相性に左右される箇所(かしょ)もあるが、熟練(じゅくれん)のガンプラファイターにとってハシュマルはそれほど手強い相手ではない。それも、ガンプラファイターの中でも精鋭(せいえい)と評される彼らならば尚更(なおさら)

 

「それらも知った上で貴方達を呼びました、えぇ」

 

 ()り上がる口角の底知れぬ感情の色。突き放したような笑みの酷薄(こくはく)に立ち腰になっていたレン含めて全員が押し黙る。

 先程までのそれとは気色(けしょく)が違う雰囲気は次の瞬間に()りを潜め、「まず、」と言い()えてから皆の顔を視線で一瞥(いちべつ)

 

「送信したメールにミッションの内容を記載(きさい)しなかった事を謝罪するわ。このミッションは事前準備を行ってから挑んでもらうわけにはいかない事情があってね、ごめんなさい」

 

「ハシュマル相手に機体を選べないのは少しキツいと思うんだけどなぁ……登録してあるガンプラがビーム主体だからあんま活躍出来ないかも」

 

【挿絵表示】

 

 口を尖らせたアキラが年相応にふて(くさ)れた声を上げる。

 

「そういった急な事情もこのミッションの特徴なの。それと確認なのだけれど、皆さんが主体に使用するガンプラはレギュレーション600以下という認識で構わないかしら?」

 

 声が席の端から端へと()でられ、最右のヴィルフリートから最左のレン全員が頷く。

 内心、余り条件は良くないなと、トヨザワは口の中で苦言を吐いた。ユミの言葉で気が付いた事だが、この場の全員が()るガンプラは低から中レギュレーションのガンプラだ。レギュレーション800帯のガンプラならば広範囲殲滅(せんめつ)が可能な兵装でプルーマを掃討(そうとう)出来るのだがトヨザワ自身も含めて、メンバーの誰一人そういった武器を装備している情報は入っていない。各個撃破(かっこげきは)()いられる展開が予想されるが、勘の(たぐい)が心で警鐘(けいしょう)を鳴らす。

 

「失礼、サクラ女史(じょし)。ミッションを開始するにあたって確認したいことがあるのだが、バトルの手段は実機によるガンプラバトルだろうか?それとも電脳世界での戦闘か?」

 

「どちらでもないわ、と言うより分かってて聞いたわよね。今回のバトルはバウトシステム……学園都市で研究されている電脳空間とは別に、もう1つ進められている試作のバトルシステムで行うわ」

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 学園都市に立ち並ぶ無数の建造物。道路から施設の床に至る全てに埋め込まれた特殊マイクロチップにより実現した新時代のガンプラバトルシステム────通称バウトシステム。

 従来のガンプラバトルにおいて必要な物は両者のガンプラと、ガンプラを動かす為に必要なプラフスキー粒子を発生させる装置。ガンダムビルドファイターズシリーズに登場する筐体(きょうたい)をモチーフにした装置で戦闘を行うのがここ20年の主流だったが、人々に馴染(なじ)むと同時に様々な弊害(へいがい)(はら)んだシステムでもあった。

 基本的にオフラインでしか対戦出来ない事、実機のガンプラを使用するにあたっての被弾(ひだん)した際に掛かる修理コスト。マナーの悪化により弱者への(しいた)げの加速に加えて、プレイヤー人口が少ない地域でのマッチング問題。

 それらを打開すべく行われた国家間の新システム共同開発により造られた実験場がこの学園都市、そこに備わる電脳世界(アウター)とバウトシステムだ。

 バウトシステムとは“アウターギア”により発せられた信号を地面や床に埋め込まれたナノサイズマイクロチップが受信し、人数やバトル形式に対応した量のプラフスキー粒子をファイターの周りに形成、どのような場所でもガンプラバトルが出来るシステムの総称だ。ファイターの間に形成された粒子はフィールドとして実体化すると同時に、“アウターギア”に登録されたガンプラもプラフスキー粒子によって完全再現される。塗装は勿論(もちろん)拡大(かくだい)された可動域や追加された火器も粒子により実体化し、実機におけるガンプラバトルと全く同等の挙動で操作が可能なシステムだ。

 

「あの、ミッション直前にこんな事を聞くのは申し訳ないのだけれど。アキラ君とレンが余り仲がよろしくないように見えるのはどうしてかしら?」

 

 暗闇に揺らめく(はかな)い光は(ほたる)のような(あわ)い輝きで室内をぼう、と照らす。幾何学(きかがくじょう)状のラインが地下劇場の床を構成するコンクリートに走り、散りばめられた光の粒子がゆっくりと舞い上がり宙へと()けるその光景。

 戦いの前に見るにしては多少風情(ふぜい)が過ぎる、幻想的に揺蕩(たゆた)う光を見詰める目が不機嫌(ふきげん)に染まる。

 

「こいつはジュニアリーグを優勝したボクの鼻の柱を叩き折った挙げ句に覚えていないとか抜かすんだよ? 許せると思う?」

 

「いや、天狗になる前に鼻を折ってやったんだろ。良かったじゃねぇか、口だけの野郎にならなくて」

 

 中性的な端麗(たんれい)の顔にいよいよ(しわ)が寄った。

 明らかな敵意の視線をトヨザワを挟んだレンへと向けて、身を乗り出す。

 

「そこについては感謝してるさ! けど、ボクのプライドはあの日から潰れっ放しだ! ────だから宣言しよう。今日という日を(もっ)て、ボクはボク自身のプライドを取り戻す!」

 

「あ? 何だガキんちょ、やんのか?」

 

「本来であればガンプラバトルで決めたいけど、残念ながら今回のミッションにおいて仲間割れは結果の合否(ごうひ)に関わるからね、それはよそう。だからこのミッションで……、ボクのガンプラバトルでアンタを見返してやる! 少なくとも記憶の片隅(かたすみ)(とど)めさせて、ボクという存在をアンタから忘れさせない! それがボクの目標だッッ!!」

 

啖呵(たんか)を切った割には目標が等身大だな!? さてはテメェ、ただのいい奴だろ!?」

 

 両者のやり取りに、口に拳を添えたユミが軽く噴き出して目の端に涙が玉になる。

 

「ファイターを真剣にやってる子達って皆こうなのよね、子供みたいで、(まぶ)しくて……」

 

 どこか(ひと)りごちた台詞を(こぼ)し、アウターギアへ細い指が掛けられた。

 女性が見せた切なさを感じる笑顔の意味は誰にも()まれることなく、設定完了を知らせる深い緑に粒子が(いろど)られていく。

 

「じゃ、ミッションを始めるわ。制限時間は無し、フィールドは峡谷。レギュレーション制限に加えてハシュマルは強化個体。貴方達が持つ全ての知識と力を駆使してどうか成功させて頂戴(ちょうだい)。────実はね、上からミッションの合否は問わないなんて言われてるのだけれど、それはやっぱり(さび)しいもの」

 

 その言葉を最後にユミは大きく1歩後ずさる。

 地下劇場の舞台から舞台袖へ、照明の(およ)ばない物陰へと下がり残る4人に(うなず)いて微笑んだ。

 

「タイミングは貴方達に一任(いちにん)するわ、いつでも」

 

 誰からだったか。(しめ)し合わす事もなく4人の両手が宙へと(かざ)され、舞い上がる粒子が手のひらへと収束(しゅうそく)する。光は集まり球体へと姿を変え、彼らが握るそれはガンダムビルドファイターズの操縦桿そのものだ。

 噴き上がる粒子は1人1人を(へだ)て、劇中同様のコクピットを()した空間を造り上げる。黒に閉ざされた正面モニタその左上にそれぞれの顔が表示され、続いて粒子が彼等の手元に渦を巻いた。螺旋(らせん)を描きながら結集する燐光(りんこう)は人型という曖昧(あいまい)な形から徐々に姿を明確に変え、(またた)く間に彼らが長年共にした相棒へと変化する。

 再現された愛機が手元に浮かび、機体とリンクした視界情報が正面モニタへと投影(とうえい)された。薄暗く狭い空間は発進路か、足元をぼんやりと照らす明かりの先は赤く明滅(めいめつ)し、後はファイターの操作によって発進するだけ。

 (わず)かに(ただよ)う緊張の気配に、間の抜けた声が通信としてスピーカーを鳴らす。

 

「皆に言い忘れてたんだけど……、僕、ガンプラバトルの方はあんま最近してなくてさ。足引っ張らないように頑張るよ、ははは」

 

「そうやって保険掛けるなんて、ズルいなぁ~大人は。そんなこと言われたらこっちも頑張るしかないじゃん」

 

「ハッ! 違い()ぇ、なんせ現役3人に加えて1人は世界ランカーだからな、こっちも足を引っ張らないようにするしかねぇぜ」

 

「……今の瞬間ほど自分が世界ランカーであることを(のろ)った事は無いな。責任と不安で胸が押し潰されそうだよ」

 

「良く言うよヴィルフリート。アンタの顔、笑ってるよ?」

 

「そういう君もだ、シオウ・アキラ。────いや、笑っているのは全員か」

 

 見れば初めに(かお)った緊張は失せ、皆が同じく不適(ふてき)な笑みを浮かべている。これを狙ったのであればトヨザワも中々に(たぬき)だなとアキラの笑みが静かに増して研がれた。

 一大フォース、“工房(ファクトリア)”のフォース(リーダー)、カガミ・レン。

 ジュニアリーグ優勝、シオウ・アキラ。

 “ジャイアントキリング”、トヨザワ・フミヤ

 世界ランク8位ドイツ代表、軍神ヴィルフリート。

 ガンプラバトルを知る人間が見れば腰を抜かすようなメンバーその全員が等しく笑みに獰猛(どうもう)を忍ばせる。恐らくこの日を待ち()びたのは自分だけでは無い(はず)とアキラの目に(かがや)きの火が(とも)った。

 その熱と(たかぶ)る心のまま、少年は(かく)と意思を宿した声でスピーカーに(つむ)ぐ。

 

「じゃ、ボクから行くね。────シオウ・アキラ。ガンダムラファール」

 

「────カガミ・レン。アストラルホーク」

 

「────トヨザワ・フミヤ。マラサイ」

 

「────ヴィルフリート・アナーシュタイン。グレイズ・ニヴルヘイム」

 

『『──────バウトシステムッ! スタンバイッッ!!』』

 

 重なる声と同時、機体足元の照明が緑色に切り替わり、(ひび)く駆動音と共に視界が下へと(かたむ)いた。前傾(ぜんけい)に機体を固定する台座が火花を上げてレールを走り、打ち出される衝撃(しょうげき)の一瞬と飛び込む景色(けしき)の輝きに目をしかめる。

 

 空だった。

 雲を散らす晴天(せいてん)蒼穹(そうきゅう)と、一面に広がる荒れた大地。遠く(うかが)える岩壁は遠近感が狂うほどに高く(そび)え、不吉な凶鳥の鳴き声を思わせる悲しげな風切り音が岩を削り()って機体まで届く。

 空に、砂塵(さじん)(かげ)る。

 天を(おお)う砂の斜幕(しゃまく)が太陽を閉ざし、突風(とっぷう)が枯れた大地を駆け抜けて(はし)った。

 

 光学センサが示す風の出所は彼方(かなた)の峡谷。

 

 砂嵐が吹き(すさ)ぶ命無き火星の荒野に鳥の鳴き声がまた1つ、強く(かな)しく空へと消えた。

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