ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

72 / 188
外伝『Gun Through the Dust Anima』6話

「まず、状況を整理しよう。アキラ君。マップの更新状況は?」

 

「ちょうど終わる。────周囲に敵性反応は無し、と。うわ、地形はあまり良くないな、今皆にも送るよ」

 

 機体のメインカメラから出力された荒野の光景。景色を薄く(かげ)らせる砂の斜幕(しゃまく)と見渡す遥かまで続く透き通る青空。

 バトルフィールド峡谷、その東端。

 枯れた大地と時折砂塵(さじん)が舞う荒野がどうやらこのフィールドにとってのスタートポイントであり、遠く(そび)えるように隆起(りゅうき)した峡谷以外何も無い。背後に続く景色の果てもプラフスキー粒子が作り出した立体映像であり、事実上4人は峡谷に進む以外道は無い状態だ。

 解析を進めるアキラの引いた声にこの場の誰もが良い印象を持つわけが無く、程無くして送信された地形データにレンも同じく声にならない声をあげる。

 

「予想通りステージの大半は岩山の迷宮と……。ガキんちょ、峡谷の詳細な構造データはねぇのか?」

 

「観測しようにも粒子の乱れが酷い、多分ハシュマルのエイハブリアクターの影響だよ」

 

 エイハブリアクター。

 機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズに登場する機体の動力源であり、大きな特徴は電力を半永久的に生産し続けること。エイハブリアクターにはそれぞれ特有の周波数がありそれを周囲に発しているが、今回のハシュマルの場合どれ程強大なエイハブリアクターを積んでるのか推し量れない程に発している電磁波が膨大(ぼうだい)だ。発生した電磁波は峡谷内で乱反射し、マップ解析の為に飛ばした通信も拒む。

 4機の中で最も探査系統が高いガンダムラファールでも解析を行えないとなると、いよいよ自分達の目で確かめながらハシュマルを探しだす他無い。

 溜め息を1つ挟んでトヨザワが苦々しく(しわ)を寄せ口を開いた。

 

「うん、そうなるとネックなのは敵の数だね。こっちは4人、あっちはその10倍以上、まともにやったら()り潰されるよ……というか、そろそろ説明して貰えないかなヴィルフリート。君の後ろに居るグレイズ達は…………なに?」

 

「グレイズランサー達か?主な役割は斥候(せっこう)と無線の中継だな、複雑な操作は出来ない……Gビットのようなものと思ってくれ」

 

 言われ、ヴィルフリートを除いた3人がメインカメラをニヴルヘイム後方へと向ける。

 グレイズ・ニヴルヘイムの背後。長槍を地面に突き立て整列をしているグレイズその数3機。シルエットは獣を思わせる4脚と、首にあたる箇所から伸びたグレイズの上半身で、見てくれは半人半馬のケンタウロスに良く似ている。1目で膂力(りょりょく)の強さを感じ取れる精強な機影は、砂原に(たたず)駿馬(しゅんば)の如し。荒野に彫像とも思える影を伸ばしニヴルヘイムの命令を静かに待ちわびていた。

 

「話を戻そうか。……先程フミヤが言った通りこちらの戦力数は遥かに相手と劣る。(いく)ら個人戦力で突出していても戦術レベルでは話にならないのは今更言うまでもないが、────さてアキラ君。こういった作戦の場合どのような戦法が最も適している?」

 

「ん。数の不利に加えて相手は籠城(ろうじょう)してるんだから奇襲しか無いんじゃないかな。プルーマも居るだろうけど全員相手になんかしていられないし、……っていうか今ボクを試したでしょ?」

 

 じろりと見やる半眼にヴィルフリートは微笑で返す。

 

「とすると作戦は決まったが、他に代案がある者はいるだろうか?」

 

 モニタ左上に表示された各々の表情。

 口を開く者は居なかった。

 

 ※※※※※※※※※※

 

 籠城(ろうじょう)戦の攻略というのは、人間同士の戦争もMSを用いた戦闘もセオリーは大きく変わらない。

 敵の侵攻経路に迎撃兵器を構え、複雑に設計された道中には無数の罠が侵入者を(ほうむ)るため備えてある。籠城(ろうじょう)する側は兵士の兵糧(ひょうろう)も基地から送ることが出来るが、攻略側にはそれが難しい。

 正攻法で攻めるとするなら籠城側の3倍以上の戦力を用いて進撃する人海戦術が兵法だが、今回のように攻略側の数が極端に少ない場合は使う手が限られる。

 

「ちょっとヴィルフリート、この編成に悪意は無いよね?なんでボクがおっさんと一緒に行動なのさ」

 

「今回の作戦で早急に求められるのはハシュマルの位置と峡谷の地形データだ。工房長(ファクトリアワン)のアストラルホーク、そして君のラファールは単独で飛行が出来る性能上峡谷の起伏をある程度無視して行動が出来る。よって偵察の為のラファールと随伴(ずいはん)のアストラルホーク。この編成が一番ベストだ」

 

「だってよガキんちょ、宜しく頼むわ」

 

 ぐぬぬと言わんばかりのアキラが見せる表情にトヨザワは微笑(ほほえ)み、レンはからかうような声でアキラに声を掛ける。

 峡谷の手前、城壁にも等しい高さの岩壁の前に小隊は2つに分かれていた。

 

「グレイズランサーを無線の中継としてこちらとそちらの中間地点に配備する。緊急時は戦闘に参加するがあてにはしないでくれると助かるよ」

 

 声に応じるようニヴルヘイム後方に控えたグレイズランサーがアストラルホーク後方へと硬質な接地音を響かせて再び(たたず)む。

 その、手にした長槍の威容(いよう)。HG鉄血のオルフェンズオプションセットに封入されているシュヴァルベグレイズ用のランスが元の武器だが、施されたディテールと先端部が倍以上伸びた槍の全長にレンは自然と唾を飲み込んだ。見るだけで察するグレイズランサーの走破力、そしてこの長槍。この2つが掛け合わさったら一体どれ程の破壊力を発揮するか、横目で流しながらどうしてもその思考が脳裏にちらつく。

 

「フミヤは私と行動、地上から峡谷へと入る。……頼りにさせてもらうよ」

 

「プレッシャーだなぁ」

 

 苦笑を浮かべるフミヤの駆る機体。マラサイ。

 宇宙を連想させる深い青色とメタルパーツに彩られた機体各部。金属パーツによって補強された放熱機構と推進部、そして(つや)のある機体表面は式典用と見紛う絢爛(けんらん)さだ。備える武装は大型ビームバズとビームライフル。金属めいた質感を放つ携行火器の冷徹(れいてつ)さえ感じる輝きは長年研磨された彼の模型技術の賜物(たまもの)に他ならない。

 群青(ぐんじょう)の巨人の1つ目がニヴルヘイムへと向けられた。

 

「フッ、────では、作戦開始と行こうか」

 

『────了解』


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。