ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』9話

()られる時ぁガキ臭ぇ悲鳴でもあげるかと思ったんだがよ』

 

 宙を切り裂くようなスラスターの駆動音に意識が徐々に戻る。男の声を切っ掛けに曖昧(あいまい)になっていた思考がやがて形取られ、そこでようやくアキラは自身のラファールが空に浮いていることを自覚した。

 

『可愛くねぇな、ガキんちょ』

 

 しかしラファールはアキラの操作で浮いておらず、現に操縦桿には手が添えられているだけで何も動かしてはいない。未だ覚醒してない揺らつく視線で正面モニタを見れば、空に馴染む青の色彩。

 

「かっ……!? 担いでるのか!? ボクのラファールをっ…………!?」

 

 それはアキラにとって驚愕すべき事実だ。

 ラファールの機体重量は他00機体と比べるとやや軽量だが、外付けの21連装ミサイルを加味すると重量は格段に増加する。そんな機体を大気圏内で抱えつつ単独で完全飛行を行えるアストラルホークの推力、少なくともレギュレーション600内で同じ事を行える機体は非常に稀でありそのどれもが規格外の機体サイズだ。

 目の前のこの機体……、本気を出したならどれ程の空間戦闘を繰り広げるのだろうか……?

 

『先に礼だろうが』

 

「う、うわあああぁぁぁーーー!! …………急に手放すなよ! 落ちたらどうするんだ!!」

 

 間一髪。抱き抱えられる形から真っ逆さまに墜落するラファールのスラスターに火を入れ、すんでのところで機体が跳ねるように空中で体勢を整える。

 下を見れば黒く()けた大地が(えぐ)れ、峡谷の広大なフィールドを寸断する粒子の跡が陽炎(かげろう)と共に地表を焦がしていた。

 

『今のビームでプルーマは体勢を崩してやがる。だがどいつにも誤射はされて無ぇ、直に動き出すぞ』

 

『誤射が無い? あの範囲で……?』

 

 撃墜を覚悟した先の砲撃。

 機体1つ程度なら余裕で飲み込む範囲の射撃を、味方機に誤射せずに撃ち抜くその精度。異常を通り越して異様と言わざるを得ない狙撃に思考の端で何かが引っ掛かる。

 

「そうだっ、グレイズランサーは」

 

『さっきのビームで墜ちた。加えてヴィルフリートとトヨザワにも通信は通じねぇ。俺らは滞空してれば、まぁプルーマはやり過ごせるがハシュマルを倒せますか? と言われれば話は別だ』

 

「おっさん」

 

 小さく鋭い、そして僅かに含んだ殺気のままラファールが眼下(がんか)(うごめ)くプルーマを数機纏めて撃ち抜く。爆散するプルーマを見やる視界の端、今しがた撃ち抜いたプルーマと同じように踏ん張る姿勢を取る数機にも続けて射撃。

 

「ボクらは滞空を続けていれば安全って考えは通用しない。今すぐコイツらを処理しないと、次に消し飛ぶのは僕らの方だ」

 

『あ?ガキんちょ、そりゃどういう……』

 

 続く筈のレンの声が轟音と共に途絶(とだ)える。

 続いて緑光(りょっこう)と輝く粒子が峡谷の大地を這ったと思えば、射線上でひっくり返っているプルーマに閃光が直撃。身を膨らまして機体が爆ぜた。

 ラファールとアストラルホークの2機が振り向けば、砲撃によって開けられた峡谷の大穴から覗ける深い藍色(あいいろ)

 宇宙を思わせるカラーリングの機影と、その背後で特徴的なアイセンサを光らせる姿見えぬ機体。それが見えただけで意図せず笑みが小さく咲いて、次の瞬間には慌てていつものむすっとした表情へ戻すアキラ。しかしタイミングが悪かったようで正面モニタ左上にスワイプされた3人の表情はにやつきながらアキラをじっと見詰めていた。

 

「なっ、なんか言えよっ!」

 

『そうだね。とりあえずアキラ君の今の顔が見れただけでぼくらが来た甲斐があったかな? ね、ヴィル』

 

『同感だ。良い笑顔だったよ、アキラ』

 

『ハッ、助けが来た途端顔が緩みやがって。ガキんちょ』

 

「この大人たちやっぱ嫌いだっ!!」

 

 “軍神ヴィルフリート”。“ジャイアントキリング”、トヨザワ・フミヤ。

 2人が駆る機体が太陽に照らされ、より克明(こくめい)に見える機体が今は何よりも頼もしく。

 

「ボクから全員に伝えたい事がある。敵の特性についてだ」

 

『了解した。こちらも伝えたい情報を持っている────、情報交換は奴等を処理しながらで構わないかな?』

 

 グレイズ・ランサーを失い、次の機会が消滅したこのミッション。

 そんなものお構い無しとでも言うように、その場の全員が不敵に笑って見せた。


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