ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』10話

 放物線を描いて飛び掛かるプルーマの集団。

 ニヴルヘイムが両手に構えたグレイズライフル、宙を捉えた銃口から交互に閃光が(またた)いて不気味な赤色に灯るアイセンサが次々と割れていく。打ち落とせなかったプルーマがドリルクローを振り上げ、自重を加える形でニヴルヘイムへと叩き付けた。

 それをグレイズフレーム特有の恵まれた可動による体捌(たいさば)きで避け、脚でドリルクロー基部を踏み、晒した背面へ撃発(トリガ)。背面装甲を貫通し地面さえ穿(うが)つ射撃を念入りに3発撃ち込み、背後から聞こえた削岩音(さくがんおん)を耳で感じたまま機体を反転させ、グレイズライフルでドリルクローを弾いて退ける。

 元々射撃精度の長けるグレイズライフルだが、ニヴルヘイムのグレイズライフルは銃身に追加装甲による改造が施され、貫徹力と射撃精度が更に増しており加えて強化されたフレームは近接時の防御としても運用が可能だ。

 

「────ふっ!」

 

 逆袈裟(ぎゃくけさ)に振り上げられたグレイズライフル、追加装甲で増強された銃身を機体下部に喰らい身を浮かせたプルーマへ、もう一方の片手に構えられたグレイズライフルが咆哮(ほうこう)。地面に伏せたプルーマは数度の痙攣(けいれん)を起こしてそのまま動かなくなる。

 レーダーフリップを見、自機の周囲にプルーマが居ないことを確認したところで正面モニタにコールマークが点滅。フミヤだ。

 

『それにしても大変だね、特殊な挙動を取ったプルーマを真っ先に排除しろなんて』

 

「確かに慣れない戦闘ではあるが、なに。やってやれない我々ではないだろう?」

 

 ライフルの弾倉を入れ換えつつ、先程交わした情報を思い返す。

 確かにそう言われてみれば粒子の砲撃による狙撃も納得が出来るものだな、と。未だ赤色の敵性マーカーに染まるレーダーを見ながらアキラの推察(すいさつ)に内心舌を巻いた。

 

 ※※※※※※

 

『まず、プルーマが取る妙な動き……、力を溜めると言うか、飛び掛かる前に取る前傾(ぜんけい)姿勢と言うか。似たような動きを取る個体が居たらそいつを真っ先に倒して欲しい。あれは恐らく、()()()()()()()だ』

 

()()()()()()()()()

 

『プルーマの本質はハシュマルの随伴ユニット。つまり厳密(げんみつ)に言えばプルーマもハシュマルの一部って考えられる。ここからは僕の推察だけど、プルーマが取る力を溜める動作は狙撃の標準合わせみたいなもので、一定時間ロックオンされたら本体から狙撃が飛んでくる』

 

『そうか、それで……。こちらからも情報がある、のだが今となっては遅いな。プルーマの索敵範囲は私達が知っているプルーマとは比べ物にならず、加えて思考するAIも非常に高度だ。私達が分断されたのもあちらが計算したものだろう』

 

『なんだって……?』

 

『奴等は初めから私達が峡谷のどこにいるか分かっていた。その上分断出来るタイミングを見計らってグレイズランサーを潰し、私達の各個撃破を狙っていたようだ。奴等が持つ規格外の通信でこちらの作戦が逆探知された可能性が大きい……よって』

 

「──────ハシュマルは僕らが飛び込んでくる事を察知してるって事だよね」

 

 先程行われた通信を思い返し、トヨザワは自身が吐いた言葉が思ったより焦っていることに驚きながら操縦桿を握る。(ともな)って深く染まる藍色(あいいろ)が揺らめいて大地を疾駆(しっく)し、()れ違い様に左手のビームライフルでプルーマの横っ腹に風穴を開けた。そのまま前方の開けた谷底を移動し、マラサイを追うプルーマ達が紫のペンキもかくやと大量に追い掛けてくる。

 それでも、プルーマ達の足がマラサイに追い付くことは無い。トヨザワがマラサイに(ほどこ)した改造は主に駆動系及びスラスター部への金属パーツの追加だ。金属パーツはプラスチックパーツよりも強度が高く、スラスター部を金属パーツに改良すれば重量が増す分推力が格段に跳ね上がる。増大した推力は大きな武器になるが繊細(せんさい)な操作を強いられるのは言わずもがな、ホバー移動を取る改造を(ほどこ)されたマラサイに限っては、ホバーの推力を少しでも間違えれば重量バランスの崩壊へ繋がる非常にピーキーな代物になっている。

 谷底に見られる多少の隆起も推力調整を手動によって行っているトヨザワのマラサイにとっては厄介極まりない地形ではあるが、それを肌感覚と経験で無意識下に抑え込んでいる事が何よりの驚愕(きょうがく)だろう。

 

「大分集まってきたな。アキラ君の言い方だとそろそろ────、居た」

 

 マラサイを追跡するプルーマの集団、その両翼(りょうよく)

 急激に減速し飛び掛かるような体勢を取るプルーマと視線が交錯(こうさく)する。

 左手で推力の制御を、右手は精密機械を思わせる素早い手つきで動き、武装スロットの4────ビームバズーカを選択。

 マラサイがモノアイを1度大きく輝かせ機体を反転。メインカメラと連動したビームバズーカのロックオンサイトが正面モニタに出力され、プルーマの集団その少し手前の地面に標準を合わせる。

 反射する黒と鈍色(にびいろ)、加えて金属の目映(まばゆ)い光沢を放つビームバズーカはトヨザワがマラサイに合わせて製作した特注品だ。高出力のジェネレーターと銃身を支える金属パーツから放たれる一撃は、幾多の高レギュレーションの機体を(ほうむ)ってきたトヨザワの切り札そのもの。

 

「頼んだよ、……マラサイ」

 

 呟くように、愛する人の耳元に囁くような声のまま撃発(トリガ)

 黄緑色の弾頭が砲口より放たれ、反動によって大きくマラサイの体勢が揺らぐ。

 風を切り裂く粒子を撃ち込まれた地面は一度沈黙(ちんもく)し、やがて大きく膨れ上がって、赤熱。地面の内で臨界したエネルギーが噴火の如く炸裂し、プルーマの集団全てを呑み込む最高のタイミングで粒子爆発が発生する。粒子を含む爆風はプルーマの機体を崩壊させ、余波は峡谷を揺らし、崖上の大岩が耐えきれず左右から落ちてくるが、それらさえも置き去りにマラサイは峡谷を駆け抜けた。


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