ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

77 / 188
外伝『Gun Through the Dust Anima』11話

『おっさん! 2時の方角、距離400! ヴィルフリートが相手してる集団の向こうに()()()()()()()!!』

 

「おう。ったく、数だけは多いな屑鉄(くずてつ)共ッ!」

 

 ヴィルフリートを挟撃(きょうげき)しようと移動するプルーマの小隊をワールウィンド改で(まと)めて吹き飛ばし機体を反転、指示された地点を見やれば狙撃体勢に構えているプルーマが(うごめ)深紫(しんし)の中に見て取れた。

 今、レンを含んだ機体達は(おびただ)しい数のプルーマの集団に囲まれ乱戦の模様(もよう)となっている。上空からアキラの搭乗するラファールが狙撃体勢のプルーマの位置を送信し、最も処理が出来る距離の人間が処理をしている形だ。

 

「ワールウィンドばかり使ってちゃ直ぐガス欠になっちまう」

 

 舌打ちを(こぼ)しながら操縦桿を叩き込み、機体は静止から即座にトップスピードへ切り替わる。

 目まぐるしく後ろへ吹き飛んでいく景色の下を見れば、ゾンビ物の映画とでも言うように鋏角(きょうかく)を振り上げてアストラルホークへ手を伸ばすプルーマの絨毯(じゅうたん)。ワールウィンド改を背中へ担いだアストラルホークは空いた右手にビームサーベルを構え最大出力で発振(はっしん)し、爛々(らんらん)と輝く薄桃(はくとう)色の刃がそのまま地表(うごめ)くプルーマに突き立てられた。そのまま。

 

「ハッ、こりゃ入れ食いだな」

 

 プルーマの集団を引き裂きながらアストラルホークは尚も速度を上げる。疾風(はやて)の如く過ぎ去る機影の跡には両断されたプルーマが道となり、さながらモーゼの行進の様相(ようそう)にも思えるその進撃。レン自身、自らが改造したアストラルホークの性能に驚愕(きょうがく)しながら遂に指定されたプルーマを眼前に捉える。緩めることの無い加速に、それでも付いてくるアストラルホーク。光剣がずぶり、と。何の抵抗も無く狙撃体勢のプルーマの正面を斬り込み、かくも鎌鼬(かまいたち)と言うように両に分けられたプルーマの胴体がふわりと宙に浮く。

 後方で爆散したプルーマからの風を機体に浴びながら集団を切り抜けたアストラルホーク、猛禽類を思わせるバイザー越しのツインアイが岩山からこちらを(うかが)うプルーマを発見しレンの笑みが壮絶(そうぜつ)に深まった。先のプルーマを切り抜けた速度のままに地表を滑空(かっくう)し、睨むプルーマの背面装甲へ着地。規格外の速度で突き進んできたアストラルホークの衝撃をその身に浴びたプルーマは、背にアストラルホークを乗せたまま後方に(そび)える岩山に激突し、それでもメインカメラの光は消えずに接敵した相手を始末しようと体勢を整えた、その眼前に。

 ばぎり。とアストラルホークが左手に携行するハンドガン“ホーネット”に備わる銃剣がメインカメラに突き刺さり、零距離で撃発(トリガ)。射撃の度にのたうつプルーマだが数度の攻撃によって沈黙し、アストラルホークは前足で押し退けるように蹴飛(けと)ばした。

 

「プルーマの増援が来ないって事ぁ、どうやらここが天王山(てんのうざん)か」

 

 背部スラスターから“ホーネット”の弾倉を取り出し、装填しながらレーダーフリップをメインモニタに拡大する。

 仲間達はプルーマに囲まれてこそいるが一定距離以上の接近を許してはいないようで、ヴィルフリートに至っては集団を喰い破る勢いで前進を続けており乾いた笑いが1つレンの口から漏れ出した。

 

 ※※※※※※※※

 

 狙撃体勢を取られたら手を出しづらい集団の外縁部を削いでいたレンとアキラだが、徐々にプルーマの包囲網は外側と内側を削られその役割を十全に果たせてはいない。

 ヴィルフリートの()るニヴルヘイムは異名に違わない軍神の如き猛攻でプルーマの壁を突き進み、トヨザワの搭乗するマラサイは戦場で最もプルーマが密集している箇所へビームバズーカの砲撃を続けている。レンのアストラルホークは圧倒的な空間機動をもって狙撃体勢のプルーマをピンポイントに狩り、アキラのラファールも各員が処理を続けているのを見届けてプルーマの集団の真っ只中へ機体を下ろす。

 

 今まで空中に()していた手の届かない標的が突如自分達と同じ地表に立ったのを見て、周囲のプルーマが一斉にアキラの方をやけに赤いメインカメラをぎらつかせながら振り返る。そのままに飛び掛かっては来ずジリジリと間合いを詰めながらドリルクローを回転させる様子はさながら獲物を集団で狩る肉食獣のそれであり、ラファールの斜め後方に位置するプルーマが突如としてその身を跳ねさせドリルクローを振りかぶる。それを合図に全機が飛び掛かりプルーマのドームという悪趣味極まりない造形物が一瞬にして作られ、プルーマの上をプルーマがよじ登りラファールを覆い潰そうと紫の小山はどんどん膨れ上がる。その、ひしめく塊の中心に薄桃(はくとう)色の光芒(こうぼう)が一際強く灯ったと思えば。

 

「あぁ~もう、邪魔だよ。ボクただでさえ虫が嫌いなんだからお前達見るとゾワってするんだよ」

 

 無数の閃光が弾け、蟻塚(ありづか)のように築かれた小山が瞬時に弾け飛ぶ。

 体勢を崩され腹を見せるプルーマの中心、両手を広げながらGNサブマシンガンを(たずさ)えたガンダムラファールが取り囲むプルーマに銃口を突き付けていた。

 射線上のプルーマが飛び掛かるのと、GNサブマシンガンの銃口が(ひらめ)いたのはほぼ同時。高速に(またた)くマズルフラッシュが真昼の峡谷をストロボに照らし、弾丸の雨を浴びたプルーマは不規則な硬直を繰り返して機体を爆散(ばくさん)させる。横一列に跳躍(ちょうやく)してくるプルーマを射撃を続けながら()ぎ払い、反対側から仕掛けてくるプルーマへメインカメラを向けずにレーダーを頼りにした予測射撃で蜂の巣にする。

 やがてラファールを中心にプルーマの残骸(ざんがい)が築かれ、レーダーフリップに残敵が少ないのを見てからGNサブマシンガンの弾数が少なくなっているのを確認。予備の弾倉を腰から抜いてリロードを試みるその刹那(せつな)に、ラファールの見せた隙を突いたプルーマが背後からドリルクローを突き立てる。

 残骸(ざんがい)の山に(まぎ)れたプルーマに反応が(わず)かに遅れるも片手に弾倉、もう片手にGNサブマシンガンを構えたまま撃発(トリガ)。一対のドリルクローを盾にしたプルーマへの射撃は1本の鋏角(きょうかく)を撃ち飛ばすだけに留まり、残った弾数ではプルーマを撃墜する事は不可能。

 しかし、アキラが見せた表情は(おのの)きではなく、不敵だった。

 GNサブマシンガンの弾倉を射撃を続けながら破棄(はき)し、モニタに表示された弾数が溶けるように消え行き0を刻む同時、片手に持った弾倉が銃身へと叩き込まれる。粒子を装填されたGNサブマシンガンは空撃ちを吐く事無く射撃を継続し、宙のプルーマに弾数の暴威(ぼうい)(もっ)て風穴が無数に開けられた。

 弾倉の破棄から装填まで、僅か1秒。アキラがジュニアリーグ覇者たる由縁(ゆえん)が遠中近距離全てで輝く、この射撃技術である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。