ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』15話

 ワールワインド改が濃桃(のうとう)色の光を放ち眼前のプルーマ達が(まとめて)めて消し飛んで、ビームバズによって押し寄せるプルーマの先頭が崩れて前進速度を大きく下げる。抜け出たプルーマには軍神の刀が突き立てられ、3機が形成する穴への脱出路はまもなく形成されようとしていた。

 地上で3機が結集する中、大広間に浮かぶ1機の機影。ガンダムラファールがミサイルコンテナを展開し着弾箇所の計算を行っている。

 

「ガキんちょ早くしろ! ここぁもう持たねぇぞ!」

 

「泣き言うっさいなおっさん! 集中できないから黙ってて!」

 

 ハシュマルの粒子砲によって亀裂の走った箇所や、構造上(もろ)い部分。次々とロックオンカーソルが必中を示す赤色が灯る最中(さなか)、眼下で見えたそれに血の気が引いていくのを鋭敏(えいびん)に感じた。

 3機からは見えない、プルーマの集団に(さえぎ)られたハシュマルの口に灯る殲滅(せんめつ)の光。その予兆。

 撃つ気だ。

 

「────くぅッッ! 間に合えッッ!!」

 

 撃発(トリガ)

 最後のロックオンはハシュマルの頭部に定めて放った21連装ミサイル。ラファール腰後部から一斉に放たれたミサイルは入り組んだ弾道を描きながらアキラが設定した箇所へ次々と着弾し大きく爆ぜる。

 ずん、と。腹の底に響くような衝撃と共に天蓋(てんがい)へ亀裂が大きく走り、予想通りの崩落を確信するその刹那(せつな)

 ハシュマルの口から放たれるのと、最後のミサイルが着弾するのはまさに同時。

 峡谷のフィールドに入ってから何度も見舞われた規格外の粒子砲による通信遮断(しゃだん)によって事態を把握出来ないまま、大広間に目映(まばゆ)い閃光が駆け抜ける。

 

 ────みんな、無事でいて。

 

 不思議と到来(とうらい)したのは、毛嫌っていたレンを含めての心配の感情に、アキラは自覚しながら閃光に目を(つむ)った。

 

 ※※※※※※

 

「な、にが起きた……?」

 

 レンの意識が数秒遠退いて、そして瞬時に回復する。

 アストラルホークのメインカメラを見渡せば、目の前にはだかる巨大な岩盤。恐らく崩れ落ちて来た物が眼前に突き刺さったのだろう。

 レーダーの異常も元に戻り、レーダーフリップにはアストラルホークの脇に見知った2機が居ることを知らせる。

 だが、もう1機の姿は見えず、レーダーにも反応はない。

 

『なに立ち止まってるんだよアンタら! 早く行けって!もう崩落は始まってる!』

 

 突如響いた怒声(どせい)は目の前の岩盤の向こうからだ。

 落ちてくる岩石の影響か、激しく揺れる視界の中レンも負けじと声を張る。

 

「ガキんちょ、テメェはどうすんだよ!()でこっち来れねぇじゃねぇか!────トヨザワァ!目の前の邪魔な岩盤吹き飛ばせねぇか!?あれじゃガキんちょがっ!」

 

()()()()()()()!!申し訳無いけど、僕のマラサイじゃ崩せないよ……!」

 

「クソったれッッ!!」

 

 コクピット内に吐き捨てた悪態が静まりに落ちて数秒。崩落の音の中、エラーによって真っ黒に表示されたアキラのスワイプが音声によって点滅する。

 

『何だよ、心配してんの? 顔と態度と性格と悪人面に似合わない事しないでよ、笑っちゃうよ』

 

「…………顔、2回言ってんぞ」

 

『実際丁度良かった。観測兵が状況を最後まで見届けなきゃいけないし、ラファールの武装にはハシュマルに通用するものは何も無い。ボクが最適だった』

 

「て、メェ…………!」

 

 返答に(きゅう)する。

 レンは別にミッション中味方が墜ちようが、自己犠牲しようが別段気にする性格ではない。ただ気に入らないのは、あれだけ自分を嫌っていたガキが必死に踏ん張って、力量で負けているこの小隊の中で食らい付いてきたその最後の結末がこんなつまらない事なのが。

 なのに、そんな結末も悟ったような素振りで受け入れてるのが、どうしても()()()()()()()()

 最後まで噛み付いてきたんなら、最後までそれを続けろ。どうして、こんな、下らない事で。

 

「アキラ君。我々はもう行く。君の功績、忘れはしまいよ」

 

『世界ランカーにそんな事言われるの、少しだけ恥ずかしいな。まぁ、その。ありがと』

 

 一際大きい岩石が目の前に突き刺さる。

 間も無く崩落の限界なのだろう、先程から続く揺れも激しさを増して、アストラルホークにも小石が降り落ちた。

 

「ガキんちょ……、テメェこのミッション楽しかったか?」

 

『急にどうしたんだよ。……まぁ楽しかった。色々勉強になったし。…………まぁでも不愉快なのはあれだね、アンタから────

 

()()()

 

『────っ』

 

「覚えたぜ、テメェの名前。そのムカつく性格と生意気なファイターとしての技術。2度と忘れねぇぞ」

 

『…………ハッ』

 

 レン達が立っている脱出路にも亀裂(きれつ)が走り始める。

 最早予断は許さず、直ぐにでも機体を走らせなければ崩落に巻き込まれるだろう。

 

『行けよ工房長。アンタのその機体、かっこ悪くは無かったよ』

 

 びしり。大きな亀裂(きれつ)と共に脱出路が崩壊する。

 岩石が雪崩落ちる速度と同じく3機は(きびす)を返して通路を全速力で駆け抜けた。

 

 ※※※※※※

 

「行ったか」

 

 崩壊による電波障害の中、僅かに捉えていた3機の反応が脱出路の奥に消えたのを見届けてからラファールを地上へと下げる。

 幸いにもハシュマルが最後に放った粒子砲はぎりぎりの所で狙いを()れて、3機の脇を横一文字に斬り払った。

 それも後押ししてか、目論み通り崩れた天蓋(てんがい)がゆりかごに深々と突き刺さっており、機能が停止したのかプルーマの排出も停止している。質量の暴力とでも言うようにだめ押しの岩石がハシュマルに次々と落ちては装甲がひしゃげ、苦悶(くもん)の声に似た甲高い機械音が大広間に鳴り渡った。

 崩落によって逃げ惑うプルーマの集団が、ハシュマルが開けた他の穴に殺到しようとしているのを横目で捉えて機体を走らせる。

 丁度プルーマと穴の間に割って入るようラファールが立ち止まり、鋭利(えいり)(にら)むツインアイでプルーマ達をじろりと見渡した。

 

「行かせるわけ、無いだろ?折角啖呵(たんか)を切って見届けたんだ。お前ら屑鉄(くずてつ)共があいつらの所へ行ったらボクは笑い者だ」

 

 プルーマの数は100を優に越えており、1機のみ立ちはだかるラファールとの対比は比べるまでもない。

 GNライフルをミサイルコンテナが搭載されていた箇所に掛けて、両手が空いたラファールが悠然と足を止めているプルーマへと歩きだす。

 

「と、言うか。誰も気付かなかったな。……支援機がこんな場所にビームサーベルを搭載しているわけ無いのにね」

 

 腕を交差させて、両腰に付けた────支援機には似つかわしくない2本のビームサーベルを手にして発振。

 過去、工房長に負けた際は格闘戦の弱さが敗因だった。

 トランザムでは速さが足りない。機体を(まと)う粒子による防御面の強化も、工房長には通用しなかった。だから。

 

「行くよラファール。────CODE-“アッティモ”、起動」

 

 声と共に。

 ラファールに搭載されていたセンサーパーツ、レーダー補強のパーツが脱ぎ捨てた鎧のよう地面に落ちて、発振した粒子の刃が爛々(らんらん)と輝きを大きく増した。

 散る前の桜が大きく咲き誇るような、そんな危うげな輝きを機体に灯しながら。

 燃える揺らめきを(まと)ったラファールは、猛然(もうぜん)と地を蹴ってプルーマへと殺到(さっとう)した。

 


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