ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』16話

 地鳴りが空まで(とどろ)き峡谷の中心、最も高く(そび)えていた岩山が見る見るうちに崩れ落ちる。

 天変地異と表現できる程の崩落は周囲一体の峡谷を崩落させ、その規模が及ばない小高い崖上から3機は様子を見届けていた。

 空には変わらず鳥が弧月を描いて飛び、寝床だったのだろうか。崩落が起きた場所の上空にずっと留まっている。その()ったフィールドの演出を視界の端に捉えながらレンは未だ回復しないレーダーフリップを(にら)んでいた。

 

「計器がまるで作動していないね。多分崩落の影響だと思うけど」

 

 アキラには触れず普段の陽気さな通信でトヨザワが微笑(ほほえ)む。

 

「だから、ミッションクリアにもタイムラグがある。もう少しすればこのミッションも終わるね」

 

「……だな。結局ガキんちょが良いとこ全部持っていきやがったなあの野郎。終わったら絶対何か言い付けてくるぜ」

 

「アキラ君の事だから、レンだけに何か言うと思うんだけどなぁ……」

 

 見事に切り立っていた山が斜めのまま沈み、土埃(つちぼこり)が一層強い風と一緒に3機へと吹き付けた。

 終わったな、と。心のどこかでそう思える光景に3人が押し黙り、克明(こくめい)と胸に刻む。やがてエラー表記のレーダーフリップが回復し、周囲の地形が反映。

 見れば元の地形が分からないほどに崩された峡谷の情報が目に入り、戦闘の規模の大きさが伺えた。

 まともにやりあえばどうなっていたか分からない相手だった、幾多のハシュマルを倒してきた3人さえそう思ってしまう。

 プルーマとの連携によって放たれる壁抜きの粒子砲。無尽蔵に産み出されるプルーマの集団。より速さを増した“ワイヤーブレード”の脅威。そのどれもが致命的な強さであり、アキラの案がなければ勝てなかった。

 だからこそ。

 

「なんで、テメェがこの場に居ねぇんだよ……!」

 

 独りごちに吐いた台詞は吹き付けた砂塵(さじん)に乗って消える。

 レンの言葉に、ただただ2人は目を閉じて言葉を発しない。

 沈黙が数秒続いた、直後。

 

 ────────レーダーに、否。計器に異常。警告音(アラート)がコクピット内に響き鳴る。

 

 突如観測不能になったレーダーフリップは、この戦場で何度も目にしてきた現象だ。

 桁外れに高圧な粒子が収束(しゅうそく)し放たれる前兆、力場が(ゆが)む際に発生するこの現象は……!

 予感と同時、崩落しきった峡谷の折り重なった岩盤から、光の柱が天に向かって突き刺さる。

 それは薄桃(はくとう)色の光剣だ。空へ突き立てられた閃光はフィールドを構築する粒子の壁さえも突き破り、空いた(あな)からは現実空間である小劇場の暗い明かりが覗いて見えた。粒子砲は放たれたまま無造作に振り下ろされ、()ぎ払い、フィールドの果てにある映像投射の壁を破って尚も勢いは止まない。

 峡谷の青空に裂かれて見える現実空間はどこか世界の終末を連想させ、即応すべき事態に一瞬思考が付いていかなかった。

 そう。一瞬。

 

「あんの馬鹿、結局仕事を果たせてねぇじゃねぇか」

 

 口角がつり上がる事を抑えずに、レンはアストラルホークのメインカメラを光剣の元に向ける。

 どこか、安心している自分がいた。

 ハシュマルを倒すにあたって仕事はしたつもりだったが、最後の最後で出番を全て奪われたと子供じみた思考がこびりついて離れなかった。

 

「私と、ニヴルヘイムも。正直まだ暴れ足りなかったのは事実だ」

 

 “ワイヤーブレード”に煮え湯を飲まされたまま勝っては後味が悪い。

 ニヴルヘイムが(くも)り無い刀身に粒子の剣を反射させながら、ヴィルフリートも笑う。

 

「僕としては有効打が無いから遠慮願いたいんだけど……、娘にちゃんとパパが活躍したぞって伝えたいしね」

 

 金属質な輝きを(もっ)てマラサイがメインカメラを光らせる。

 誰も、思っている事は同じだった。

 光剣が止み、回復したレーダーにはプルーマの反応の一切が無い。ハシュマルただ1機のみを伝えるその情報はアキラが身を()して決行した崩落の戦果だ。

 あとは、自分達に任せておけ、と。

 残った3人は笑みと、そして決意を目に宿して、機体を最終決戦へと()けさせた。


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