ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』17話

 (いわ)く、天界を追放された天使は地獄に落ちて神への反逆(はんぎゃく)を企てていた。

 純白の翼も堕天(だてん)を表す黒に染め上げ、身にはボロを(まと)うその姿。人間を惑わし神への復讐を誓う壁画(へきが)の1枚に、目の前のハシュマルは良く似ていた。

 身を照らす白亜(はくあ)の装甲は傷付き浅黒く、所々欠損(けっそん)している箇所さえある。両肩のうち片方のバインダーは半分ひしゃげ、“ゆりかご”が備わっていた機体後部には無造作に尾を引くケーブルが堕天使のローブの(ごと)(たたず)まいで垂れ落ちる。

 それでも一目で敵意を感じれる頭部には過剰放電によるものか、紫電(しでん)の蛇が時折(ときおり)のたうっては乾いた破裂音を周囲に響かせ、満身創痍(まんしんそうい)のハシュマルとは別生物のよう、無傷の“超硬ワイヤーブレード”が獲物を探す巨竜の挙動でこちらへと長大の刃を刺し向ける。

 ハシュマルが脚を崩落した岩盤から引き抜き────爪の長さがバラバラなそれで岩盤を噛んだ。崩落によって足場が不安定な事など気に掛ける様子もなく。

 ハシュマルが地を蹴った。

 それはまるで、巨大な弾丸そのものだ。急速接近の後、振りかざしたもう1本の脚を大地へ叩き付け、しかし爪は岩盤を砕いただけで標的は見当たらない。

 

「こっちだウスノロっ!」

 

 ハシュマル首後方部。生物ならば死角となる箇所に向かって、ワールワインド改を向けたアストラルホークが空から狙いを定める。

 撃発(トリガ)と同時、風切り音と一緒に警告音(アラート)が響いてレンは咄嗟(とっさ)に機体を(かたむ)ける。

 射撃の反動で身動きが取れなくなる一瞬、その硬直を突いたワイヤーブレードによる絶殺の一撃だ。

 

「ビームは効かなくてもぉッ!!」

 

 ハシュマルの横っ腹に巨大な粒子の弾頭が直撃し、炸裂(さくれつ)。ナノラミネートアーマーにより滑るよう威力を()らされたビームバズの射撃だが、衝撃を全て削げるほど万能ではない。

 爆散した粒子がハシュマルを大きく揺らし、“ワイヤーブレード”がアストラルホークから(わず)かに()れる。

 しかし。

 横を抜けた筈の“ワイヤーブレード”は物理法則を無視した動作で、アストラルホークを逃した瞬間に刃を横倒した。その悪夢めいた“ワイヤーブレード”の挙動に、レンは完全に(きょ)を付かれ。

 

「なっ!? ────ぐぅ……ッッ!」

 

 ワールワインド改を貫かれ、地上へと叩き伏せられた。半ば激突(げきとつ)とも言えるダメージにアストラルホークのステータスを示す計器が次々とエラーを表示し、それを舌打ちと共に全て手動で消す。

 右脚間接部負荷過剰。大型ブースター出力異常。シールドスラスター数基半壊。

 一撃でこれか、と。苦笑を浮かべてハシュマルを(にら)む眼前。“ワイヤーブレード”がアストラルホークを突き立てる挙動で追い討ちとばかりに空を斬る。

 その、両者の間に。

 青銅色の機影が疾風(はやて)の速さで割って入り、交錯(こうさく)する剣撃が不可視の衝撃波となって周囲の岩盤を弾けさせた。

 

「レン、機体状況は?」

 

「糞悪ぃ! 馬鹿げた威力をしてやがるなその尻尾! ……少し任せてもいいか!?」

 

「勿論。仲間の為なら……」

 

 相対した刃が2度目の交わりに矯声(きょうせい)をあげて、ニヴルヘイムが徐々に機体を押し退けられる。ハシュマルに搭載された大型エイハブリアクターが“ワイヤーブレード”に電力を回し、刃を止める機体をそのまま押し潰そうと力を加える。

 

「幾らでも任されようッッ!!」

 

 刃を反転。

 威力を突如(とつじょ)横にずらされた“ワイヤーブレード”はニヴルヘイムの肩装甲を(えぐ)りながら地面へと突き刺さり、カウンターで繰り出した横一文字は流体金属部分を狙うが、抜かれた“ワイヤーブレード”の腹で受け止められた。

 僅かに欠けた巨尾の背びれは、(けず)り取ったニヴルヘイムの装甲の意趣(いしゅ)返しと言わんばかりに音を立てて地面に突き刺さる。

 後退したアストラルホークを横目で見届け、思案(しあん)を練る最中。暴風めいた膂力(りょりょく)が“ワイヤーブレード”から伝わり、下から上へと機体が弾き飛ばされた。体勢を整えながら“ワイヤーブレード”からハシュマルを見やれば脚部をこちらに向ける動作。脚部運動エネルギー弾を放つつもりだろう。

 極限(きょくげん)まで集中している影響か、引き伸ばされた時間のなか、ハシュマルの脚部に迫る黄緑色の閃光。

 ビームバズが脚部に炸裂し、熱で誘爆した運動エネルギー弾が(いびつ)な爆発音と共にハシュマルの脚部が小さく爆ぜた。

 

「ヴィル、レンごめん! 今のでビームバズの弾数切れちゃった!!」

 

「いや助かったよフミヤ。君の支援がなければ危なかった…………しかし」

 

 どう、斬り込もうか。

 いくら満身創痍(まんしんそうい)とはいえ対峙(たいじ)するハシュマルの性能は従来の彼らより非常に高い。先の運動エネルギー弾も、恐らくは空中ではなく着地の硬直に合わせて射撃するつもりだったのだろう。

 正直長引くのは得策ではないと、ヴィルフリートが(つちか)ってきたファイターとしての勘が告げて思考が冷えるその間に、脚部の誘爆から体勢を建て直したハシュマルが苛立(いらだ)ちの吐息(といき)を噴くよう口に薄桃(はくとう)色が灯った。

 爆ぜた閃光が右から左に。ハシュマルが首を振ってマラサイへと()ぎ払い、峡谷の岩さえも瞬時に蒸発させる粒子の刃を卓越(たくえつ)した操縦技術を()て滑るようにやり過ごす。

 マラサイが回避した先、アストラルホークとニヴルヘイムが岩盤を盾にして機会を(うかが)っておりそこに加わる形で通信のコールマークが点滅した。

 

「たはは、今のは危なかったぁ……。どうしよ、2人は何か解決策はある?」

 

「私は早期撃破、しか無いと思う。奴の装甲自体は(けず)れているが、肝心のワイヤーブレードがほぼ無傷なのが痛いな。時間を稼いでも先に磨耗(まもう)しきるのはこちらだ」

 

「俺も大方賛成だ。……が、肝心の倒す手段はどうすんだ。奴に致命傷与えられる手段は結構限られてくるぜ?ヴィルフリートが斬るか?」

 

「自分の力不足をここまで呪ったことは無いが、それは恐らく出来ない。ワイヤーブレードだけで足止めを食らっている状況にハシュマル本体からの攻撃も加われば、私も無事では済まないだろう。…………しかし、案がある」

 

 一拍を置いて左上にスワイプされた鉄面皮の銀髪が揺れて、冷然(れいぜん)と視線が見据(みす)えられる。

 

「ワイヤーブレードは私がどうにかする。ハシュマルの動きはフミヤに止めて貰う。そして────」

 

 言い放たれた言葉に、レンの口角が獰猛(どうもう)につり上がるのを本人は何ら気にする事無く犬歯を覗かせた。

 

「アストラルホークはまだ飛べるな? ハシュマルは君が。…………レンが倒して欲しい」

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