ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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外伝『Gun Through the Dust Anima』19話

「肉を焼けぇー!! カルビを焼けぇー! あっ、姉ちゃん生ビール追加で!」

 

「声がでかいよおっさん、隣で叫ぶなっ! あ、ボクはオレンジジュース追加で」

 

 学園都市第一学区、ショッピングエリアに建てられたビルの最上階。

 あらゆる飲食店が建てられている学園都市の中でも有数の高級焼肉店入り口に建てられた“貸し切り”の看板。その向こうから聞こえるレンとアキラの声に肉を切り分ける厨房のシェフもたじろいでいる。

 

「それにしても、サクラさん本当にこんな高そうなお店で打ち上げやっても良いんですか?」

 

「心配する顔も素敵ねトヨザワ・フミヤ。大丈夫安心して、経費は全部学園都市で落とすから。気にせずに食べて頂戴(ちょうだい)

 

 学園都市どころか周囲の山岳地帯も一望(いちぼう)できる窓からの風景はいっそ開放的で、戦闘の激動(げきどう)一時(ひととき)忘れさせてくれる安らぎを胸に覚える。

 外の風景を見やるトヨザワの横顔に、珍しく微笑(びしょう)なんか浮かべたヴィルフリートが氷が浮かぶウィスキーの入ったグラスを揺らしながら投げ掛ける。

 

「失礼な事を言うが、フミヤはこういう場は苦手なのか?」

 

「たはは、そりゃ苦手だよ。こんな場所滅多(めった)に来ない挙げ句、来るとしたら大体仕事の席だからね、嫌な物事を沢山思い出すよ。……そういうヴィルも意外だ、結構来るのかい?こういったお店」

 

「私の場合は娘と一緒に入る事が多いからな。別段苦手という事もない。……この喧騒(けんそう)もむしろ心地良いよ」

 

 目を()せて(あご)が対面に座るレンとアキラを指す。

 成る程確かに嫌ではないなと、トヨザワも烏龍茶を煽りながら目の前の大人と子供を眺めた。

 

「てかガキんちょ! てめぇ墜ちて無いんならさっさと出てこいよ! なんだよ最後の狙撃! 普通に当たるかと思ってハラハラしたわ!」

 

「はぁ~? 崩落するあの広間でプルーマ全滅させた人間に向かって言うことかな?ボクが居なかったら最後プルーマがうじゃうじゃ下から這い出て来てたんだから、感謝しろ」

 

(つい)に上から目線だな? お?やるか? 白黒つけるか? あぁ~~~…………でもやめとくか、俺がまた勝っちまうからなぁ」

 

「カッチーン!! 表出ろ、上等だよッ! おっさん倒すためにずっと腕磨いてたんだからな! ボクが勝ったら死ぬまで敬語だぞ!」

 

『お待たせしました。こちら生ビールとオレンジジュースでございます』

 

「「ありがとうございますッッ!!」」

 

 苦笑する店員にレンとアキラを除いた3人が頭を下げる。

 飲み物に口を付けた2人が黙ったせいで沈黙(ちんもく)意図(いと)せず下り、その機会を待っていたかのようサクラが1つ咳払(せきばら)い。

 視線がサクラに注目し、頭を軽く下げて僅かに激賞(げきしょう)()めた声音のまま口を開いた。

 

「まずは、学園都市ガンプラバトル運営を代表して礼を言わせて頂戴(ちょうだい)、学園都市の精鋭(せいえい)達。貴方達が今日行ったミッションデータは確実に今後のガンプラバトルにおける進化の助けになるわ。」

 

 冗談を言う素振りを見せないサクラの言葉に、全員が素直に感心する。

 1人1人見渡す黄土色(ヘーゼルカラー)の瞳が笑みに細まり、言葉は続く。

 

「それと、今回のミッションは口外無用でお願いしたいの。……一応あのハシュマルは学園都市における最新AIの素体だから、会社で言うところの機密事項(きみつじこう)になってしまうのよ」

 

「ここにいる全員口外とかそういうの考えちゃいねぇよ。自分のガンプラにおける()()を高める為に集まった。そんだけだろ」

 

 (ほお)紅潮(こうちょう)しているレンの普段より饒舌(じょうぜつ)な物言いに異議を唱える者は居ない。

 満足気に頷いたレンはジョッキに注がれた生ビールを煽って、酔った勢いのまま隣のアキラを抱き寄せた。

 

「まぁでも? このガキんちょが男らしい活躍したくらいはポロっと誰かに言っちまうかも知れねぇな」

 

 その、言葉に。

 サクラとアキラの表情だけがピシリと固まるのをレンを除く男性陣は見逃さなかった。

 抱き寄せられたままのアキラの肩が小さく震え、腕から感じた異変にようやくレンが顔を間近に寄せる。

 

「んだよ、誉めたんだよガキんちょ」

 

「ぼ、ボクが男らしい…………?」

 

 頭をわしゃわしゃと撫でられたアキラはレンに負けじと(ほお)紅潮(こうちょう)させ、間近に迫った顔から小さく視線を外して、()えた。

 

「ボクは女だよッッ!! ────ま、まま、まさか、…………ずっと男だと思われていたのかッッ!?」

 

 一大フォース工房(ファクトリア)(リーダー)、工房長が珍しく目を丸くして、腕の中にすっぽりと収まる少女を下から上へと見やった。

 時間にして数秒か。レンがふと口を開く。

 

「………いやぁ、出るとこ出て無ぇからてっきり男だと……──────ぶふぉおッッ!?

 

 無遠慮(ぶえんりょ)な台詞は少女の肘鉄(ひじてつ)によって(さえぎ)られた。

 

 ※※※※※※

 

「娘さんの名前は? 色紙に書きたいから教えてよ」

 

「ヒトミって言うんだ。……覚えてくれてたんだねサインの事。ありがとね、アキラ君……ちゃん」

 

「アキラ君で良いよ、急によそよそしくなるのは少し変な気分だから」

 

 打ち上げは2時間程で終わりを告げ、それぞれ明日からの生活のため帰路(きろ)に付こうしている最中(さなか)

 居酒屋やファミレスに行き交う人達から少し離れた、ビルの入り口で行われている最後の挨拶(あいさつ)だ。

 ちなみにあの後レンはやけ酒に走って、悪酔いしたサクラが実はバイセクシャルということもカミングアウトした混沌(こんとん)とした場になってしまったが、一応は平和に幕を閉じることが出来た。

 

「私はレンを工房(ファクトリア)の事務所に届けてから帰るとしよう。ほらレン、アキラ君が帰るぞ」

 

「お? あきら……? あきらが、かえるのか? おぉ、あきら! かっこよかったぞおまえ! こんろうちのじむしょにこい! いっしょにガンプラつくろーな! がっはっは!!」

 

「うわぁ……、あの工房長(おっさん)が満面の笑みでこっち向いてるよ、気味悪っ。……まぁ、でも。うん。行くよ、絶対」

 

「ははぁ~ん成る程。いやアリ、全然アリね。むしろ王道ね。あ、やばい、鼻血出そう」

 

「空気の読めないサクラさんはまぁ置いとくとして……、気を付けて帰ってねヴィルもアキラ君も。家に帰るまでがガンプラバトルだからね?」

 

 トヨザワの何気なく言い放ったそれが()めの一言となってしまったようで、各々(おのおの)が別々の道を向いて歩みを進める。

 突然胸へ到来(とうらい)した(さび)しさに、皆の背中へと声を掛けようと手を伸ばしたが、(こら)えて掌をぎゅっと握る。

 もう、男の考えは固まった。

 だったら、これを最後の出会いにしてはいけない。彼らはガンプラファイター、ならばこそ。

 

「僕も、もう一度始めてみるよ、ガンプラバトル。今日あった皆で、もう1度戦いたいから」

 

 胸に仕舞(しま)いこむ、そんな呟くような声音で。

 ポーチに入った小箱をビルの明かりに照らされながら開けて、包装材にくるまれた()()を空に(かか)げる。

 子供の頃遊んだように、その頃と同じ表情で、笑顔で。

 

「これからもよろしくな、マラサイ」


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