ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章2話『在りし日々の』

 尽春(じんしゅん)の風を突き破ってリニアモーターカーがしなる大蛇のようレールを走り、さざめく木の葉と聞き違えるほどの静穏(せいおん)な駆動音は世界中のあらゆる最先端技術が惜しみ無く使われている学園都市以外では聞くことも出来ない摩訶不思議な代物だ。

 オープンしたての────丁度1ヶ月ほど前の時期であれば学園都市中から人々が集まっていたここ“第3学区”も今は平日の昼前という事もあり、リニアモーターカーから降りてきた人々の数も全盛期に比べれば多くない。

 山岳地帯に切り開かれた“学園都市”の涼しげな風が一際強く吹いて、額に玉汗を浮かべたサラリーマン達が表情を和らげながら次の契約先へと足早に歩いていく。

 

「見ろよリュウ! ドズル専用リック・ドムが置いてるぞ、プレミアなんだよなぁこれ! ……細部まで再現されたこの意匠! そして大型ヒート・ホーク! ジオニストの浪漫(ロマン)が詰まってる……!」

 

「ジャ~マ~で~す~! エイジさんあっち行ってて下さいっ。…………コトハさん、先程の問題の続きなのですが、こういったフィールドで指揮官機と思わしき機体が編成された小隊と遭遇した場合コトハさんならどうしますか? ……やはり撤退ですか?」

 

「ううん。この問題だと自分の搭乗機にはフェイズシフト装甲が施されてあるから敵の攻撃はある程度無視して構わないと思う。私なら…………指揮官機以外は破壊もしくは指揮官機を人質に取って情報を聞き出した後に全員撃墜するかなぁ」

 

 “第3学区”の玄関である中央ステーション。その近未来な構造が一望できるビルの1階の模型屋が“集会”の会場()()()

 店内の端に設けられた製作スペースの長机を囲んでそれぞれがガンプラに関する話題で盛り上がるなか、リュウだけは相槌とも愛想笑いとも取れない反応を返すしかなかった。

 

「リュウさん。Aの5をこちらのパーツに。そして先程のパーツと組み合わせます」

 

「…………」

 

 説明書を見ても以前と比べて格段に理解力が低下していることにリュウは焦りと同時、周囲に悟られぬよう笑顔を張り付けたまま隣からの────ナナからの指示に従う。

 震えておぼつかない挙動で不器用にゲートからパーツを切り離し、数度の角度の変更を経てようやくパーツが組み合わさった。

 今組んでいるのは()()()()()()()()()()()()()()で、エイジやコトハ曰くリュウと言ったらこのガンプラと薦められて購入したが、組んでみてもやはり何の感慨(かんがい)も湧いてこない。

 目の前のエイジのよう思い入れがあったり、ユナやコトハのよう成長意識があるわけでもなく、記憶の琴線(きんせん)に触れないプラスチックのパーツを見て触る事に対して、やはり何の感動も抱くことは無かった。

 

「それにしても……。リュウくん最近凄いよね! メキメキ勝率伸ばしてるじゃん!」

 

「ほんとですよ! 勝率悩み組といえば私とリュウさんだったのに、1人だけズルいです!」

 

 ドキリ、と。心臓が口から飛び出そうな感覚に息を飲み込む。

 そうだ。以前の俺は勝率が低かったんだと(もや)が掛かった記憶を掘り起こし、冷や汗が1つ頬を伝った。

 ()()いだ歪な笑顔の裏、ガンプラやガンプラバトルの記憶が直近の物すら思い出せない事態に心臓が早鐘(はやがね)を上げる。

 

「んだよ、俺だって努力してるんだぞ? ひがむのは筋違いじゃねぇか?」

 

「うっ……。そ、それを言われると弱いです」

 

「リュウが裏で練習してるのは皆知ってるしな。電脳世界(アウター)でも隠れてログイン状態やステータスをマスクしてプレイしてるし…………オレも負けてられないな」

 

 Linkを使用しての、無差別な勝率上げだった。

 ステータスを隠しているのは万が一リュウを知っている相手に出くわしたときの保険の為、ログイン状態を隠しているのはエイジ達からメッセージが送られてきても最悪シラを切れる為だ。

 張り付けた笑みが引きつく感覚に、自分が今どんな顔をしているのか分からなくなって思わず目を()()()()()へと逸らす。

 膝の上でわなわなと握り締める拳に、机の下の、皆から見えない位置で少女の手のひらが重ねられた。

 

「ごめん、俺帰るわ」

 

「どうしたんですかリュウさん。ガンプラ全然進んでないじゃないですか」

 

「寝不足で体調やばくてさ。皆ごめん、埋め合わせ必ずするから」

 

 体調が優れないのは事実だった。

 ガンプラについての記憶を探る度にギン、と。金属の針で脳を突き刺されるような鋭い痛みが走り、会話で過去の話題が出ようものなら頭痛は激しさは増すばかり。

 しかしそれ以上に罪悪感とLinkを使わなければ勝てない自身の腕への劣等感でどうにかなってしまいそうだった。

 エイジもコトハも、ユナさえも。以前より勝率を伸ばしているようで、表情には活力が満ちている。

 その()()()()()すら、最早思い出せないが。

 

「──────()ッ!!」

 

「リュウくん!? ほんとに大丈夫? 寮まで送るよ」

 

「大丈夫だって、大袈裟(おおげさ)なんだよコトハ。いやぁ……、流石に徹夜でバトルは堪えるな。電脳世界(アウター)が楽しすぎて止めるタイミング逃したぜ……。エイジも悪ぃ、また誘ってくれて」

 

「無理はするなよ? ガンプラファイターはまず体力が基本なんだからな、その上お前はビルダーでもあるんだから自分にはもっと気を使え。プロ目指してるんだろ」

 

 片手をひらひらと上げて背を向けた顔の、鈍痛にしかめる眉を(かたわ)らの少女だけは見逃さなかった。

 慌ててぺこりと長机に座る面々へ頭を下げて、(わず)かに足を引き摺りながら平常を装う少年の後ろへと従う。

 少女より頭2つほど高い商品棚を2回3回と曲がり、出入り口のドアの前に差し掛かったところで低いバイブの振動音が2人の耳へと届いた。リュウの携帯だ。

 着信の相手を見、苦痛に細める視線が見開かれる。

 

「…………リホ先生、なんですか?」

 

『酷い声音ね、休めていないのが一瞬で分かったわ。────次の、最後の実験の日程が決まったわ。夜までに私の部屋に来るように』

 

 少年の携帯から(かす)かに漏れ聞こえる会話の内容に、付き添う少女は悟られぬよう拳をきつく結ぶ。

 ────遂に、来てしまった。

 開かれた自動ドアから踏み出した外の、晩春の陽が黒を基調とした服の少女を暖かく照らす。

 対して、少女の胸には凍てつく罪悪感と痛みが刺すばかりで、薄紅の唇が小さく噛み締められた。

 

※※※※※※

 

「どう思う。リュウの、あの様子」

 

 見送った背中の重い足取りを宙に見やったまま、冷利を含んだ声音でエイジは2人へと問う。

 リュウの様子は明らかに近頃おかしい。今までも体調不良という理由で抜け出した事はあっても()()()()()()()()()()()という事は無かった。

 同じ事を思ったのか、(うれ)いを帯びた若葉色の瞳が瞬きの後伏せられる。

 

「何か抱えてるねリュウくん。話せない事なのかな……、いや、きっとそうなんだろうね」

 

「確かにリュウさんの様子変でしたね。話すときだけやけに明るいですし、その癖突っ込みにキレが無いというか」

 

 居合わせた2人が疑問を抱いている以上エイジの不安は確信へと変わる。

 日に日に増していくリュウの不審な態度と落ち着きが無い様子、自分達に言えない悩みを持ち合わせているときは昔からああいう去り文句で距離を取るんだったなと。記憶のリュウと現在の姿を照らし合わせて苦笑した。

 

「ユナ、お節介かも知れないがガルフレッドの店長さん────“星辰の探求団”のリーダーに電脳世界でのリュウを探ってもらえるよう頼んで貰えないか?」

 

「良いですけど…………、じゃあ貸しとして次お店来たときに高いメニューお願いしますね」

 

 小生意気な表情で薄い胸を張る少女に胸中感謝しつつ、エイジはテーブルに置いたMGドズル専用リック・ドムを買い物カゴへと入れる。

 立ち上がるその後ろ姿にコトハは満足気な笑みを浮かべて席を立った。

 

「よぉ~し。幼馴染みの悩み、解決しちゃおっか」

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