ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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1章8話『散る夜桜』

 萌煌学園3号棟────昼間エイジとガンプラバトルを行った部屋が備わる建物は学生寮から最も近い建物だ。近いと言っても正門以外森林で囲われている萌煌学園は正面から入るのが一般的であり、密集する森林地帯を走破するには土地勘に優れた学園生徒しか行えない。

 夜闇の中リュウは慣れた様子で森林を駆け抜け、アリアドネ森林トライアル自己ベストを更新した自分に賛辞の声を心の中の自分へと贈っていた。

 雲間に覗いた月に反射する特徴的な三角形のデバイス。

 ガンダムビルドダイバーズに登場するデバイスと同型のそれはガンプラバトルの筐体にセットされたままで、思わず感慨に揺れた声が漏れる。

 

「良かった……! やっぱり置きっぱなしだったか」

 

 突き当たりの独占していた部屋は過去に「深夜にガンプラの性能を試したいけどバトル出来る施設がない、そうだ! 学園を使おう!」とエイジや悪友で部屋を大改造した際に警報装置は外してあり、防音設備も完備されている。この暴挙とも思える行動に過去幾度と無く学園講師側が激怒し、遂に衝突した『学園側』対『ガンプラの性能調整を夜にも行いたい、というのは建前に遊びたい生徒』の衝突、通称『第一次萌煌バトルルーム紛争』は学年主任の介入で学園講師が帰る時間までなら解放という条件でこちら側の要求が飲まれることで一応は終結した。しかしその後深夜に学園へ侵入しバトルをしていたことがバレて再び開戦の火蓋が切られこととなり『第二次萌煌バトルルーム紛争:学年主任武力介入編』が繰り広げられる事になるのだがそれは今は割愛しておく。

 そういった経緯もあり一切の障害なく目的を遂行し、今度こそ忘れないとポケットにデバイスを捩じ込んで森林地帯へ再び足を運ぶ。

 短く一息。気合を入れふくらはぎと太股が筋肉痛になることを覚悟し夜の森を駆け抜けた。

 地面から二股に別れた樹を右に、絡まる木々を左に。迷うことなく目印の樹を目印に右へ左へ曲がり、真っ直ぐ行けば寮へ到着する獣道へ差し掛かる。

 そこへ。

 

「どぅあっ!」

 

 暗闇の中何かにぶつかる。電脳世界へのログインしか考えていなかったリュウにとって足元は死角だった。

 短いうめき声が聞こえ、慌てて見やれば学生服を着た少年だ。

 

「ごめん、君大丈夫!?」

 

「あぁ別に、何も問題は無いよ」

 

 月明かりが樹の若葉で届かず少年の顔は詳しく見れないが、声の限りではどこか怪我をしたようではなく一先ず安心する。

 差し伸ばした手を興味深げに見た少年は、一拍置いてからリュウの手を掴んで立ち上がり、見れば身長はリュウの腹程度までしか無く、声音も相俟った印象はどうやら初等部の生徒にも見えた。

 月明かりが今度こそ少年の姿を晒して、特徴的な深紅(しんく)相眸(そうぼう)がどこか興味深げにリュウを覗く。

 

「へぇ、面白いね君。暗い、深い色だ」

 

 急にそんなことを言われるものだからリュウの思考は電脳世界(アウター)から目の前の少年────(からす)の濡れ羽のような髪と、猫のよう暗がりでも灯る血色の瞳を持つ少年に意識が向いてしまう。

 さしずめアニメの見すぎからの妄言だろうが、リュウもこの少年と同じ年の頃はこういった台詞を良く言っていたもので、感慨深く微笑んで姿勢を低くした。

 

「どこか痛くないか? 今は痛くなくても明日起きたら痛くなってるかも知れないから……。そうだ、スマホ持ってるか? 俺の連絡先渡すからもし病院行くことあったら言ってくれ、俺も着いてくよ」

 

「──────僕の眼を見ても何も無い、と。成程ね、見付けたよ。……お兄さん、だったら今から僕を病院まで連れていってくれるかい?」

 

 自分で言って後悔した。

 今から少年を学園都市の病院に連れていくとなると時間がかなり掛かってしまう。リュウ自身学園都市のどの学区に病院があるか把握もしていないし、確実に電脳世界(アウター)への一斉ログインには間に合わない。

 それでも。

 

「勿論。連れていくよ」

 

 仕方がないな、と。

 近所の模型屋に集まる子供達と同じくらいの年齢か、彼らの姿と重なるこの少年を見過ごす事はどうしても出来なかった。

 ────助けて。そう瞳で呟いた少年は見捨てた癖に。

 

「……連れていって欲しい病院は萌煌学園の研究棟だ」

 

「研究、棟?」

 

「あそこは24時間だれかが居るし、……優秀な保険医も滞在しているしね」

 

 暗い思考に頭を軽く振って記憶を辿る。

 去年最低限の授業しか出席していないリュウにとって学園の施設名は馴染みが薄い。そもそも萌煌学園は先進的技術を取り込んだ施設や授業が多すぎる為、在籍している生徒でも自分の学科以外の建物は知らない者の方が多い───が。確か寮の先輩に研究科に在籍している人がおり1度道具を入口まで届けていた事を外気に頭が冴えたのか朧気(おぼろげ)に景色が見えてくる。

 研究棟は確か研究生が出入りしていた棟だ、となると場所は正門近くの……、と思い出すと記憶の糸が少しずつほどけるように場所が頭に浮かんだ。

 

「分かった。正門をぐるっと回ると白い建物があるから、そこが研究棟だな」

 

「ありがとう」

 

 短く切られた返答に、やはりどこか痛むのかと少年の顔を見れば、先程と同じ興味深そうな顔でリュウを覗いているままだ。

 変な子供だな、と。根が入り組んだ足元に注意しながら踵を返して研究棟へと足を進める。

 夜風にさざめく桜の樹の、咲いた花弁が両者の間に舞った。

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