ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章3話『最後の実験』

 分厚い防音加工の壁に四方を囲まれた部屋は照明の一切が灯っていない事も相俟(あいま)って暗い。

 やがて室内の中央へ立体画像(ホロウィンドウ)が浮かび上がり、ぼう、と照らされた(へき)の燐光が研究服を仄かに月白(げっぱく)色へと染めあげる。

 アウターギアから空間へ投影されたデータはバトルフィールドの詳細な情報で────ここは宙域か、大小のデブリが周囲に散らされた戦場は高機動の機体にとって厄介だなと、リュウの眉が苛立ちと共に寄せられた。

 

「────状況を説明するわ。3日後の深夜零時に最後の出撃よ、それまでにこの部屋まで来て頂戴(ちょうだい)。戦闘は電脳世界(アウター)の隔離空間で行う、この実験が終わればタチバナの役目は終了ということになるわ」

 

 淡々と告げられる内容は今までとさほど変わらない。

 学園都市が解放されてから今日まで行ってきた実験とやらもようやく終わると考えれば、自然と肩の力が抜け落ちて、ふとそこで思い至った。

 

「最後の実験……? そういえば最後の実験が終わると、ナナはどうなるんですか?」

 

「また私の方で預かる事になるわね。長かったホームステイも終わりになるから別れの挨拶は3日後までに済ませて頂戴(ちょうだい)

 

 隣を見やれば重く口を閉ざす少女が、淡く白い髪を揺らして視線に気付いた。

 それも(つか)の間、背けるよう立体画像に()らされた視線をリュウは怪訝(けげん)と思うも、その沈黙(ちんもく)を鋭く冷えた声が破る。

 

「……アンタの記憶の事だけど」

 

 (わず)かに開かれた唇のままリホが続ける。

 

「実験が終われば元に戻るわ。それはLinkによる副作用だから一時的なものなの、心配しなくていいわよ」

 

「…………副作用の事なんて、俺は聞かされていませんでしたが」

 

「それについては素直に謝るわ。本来であれば始めの実験の際に症状が現れる筈なんだけど、アンタにはそれが見られなかったから言うのは保留にしておいたの。いらない不安を持たせるのもLinkに良い影響はないって判断で。ごめんなさい。……けれど」

 

 瞬いた、若葉色に冷えた相眸(そうぼう)

 付け加えてリホはリュウを見据える。

 

「進むしかアンタの記憶は戻らないの。戦うことでしか取り返せないのよ」

 

 冷然(れいぜん)(にら)む瞳に身を乗り出していた体躯(たいく)を引かせる。

 その通りだ。

 ここで悪態を吐いても事態が好転するわけでもないし、苛立ちが増して(つの)るだけ。

 体内の熱を放出するよう深い溜め息をついて、リュウ自身が抱いてる疑問、違和感にも似たそれが脳裏にちらついた。

 

「嫌な記憶だけ、残ってるんだよな……」

 

「……嫌な記憶?」

 

 怪訝そうな声が正面から聞こえ、自身の口から思考が漏れていたことに気付いて口を開ける。

 

「いや、あの。……もう俺自身覚えていないんですけど、ナナが言うには俺が楽しそうにしていたって記憶は覚えていなくて、ガンプラに関する嫌な思い出だけは何故か鮮明に覚えてるんですよ」

 

 まるで浮き彫りになっているかのような。

 今までは思い返して笑えたり楽しかった記憶の中に沈んでいた嫌な記憶が、プラスの部分が消えた事でよりリュウの中で肥大し強調されていた。

 ────学園都市出発の際、模型店に居た少年の事。

 ────3学年に上がる為の昇級試験の事。

 ────プロになれるかの、将来の不安。

 そしてナナとの、生死が関わっていた電脳世界(アウター)での実験。

 思い出すだけで胸が締め付けられるような記憶だけがここ最近、不協和音のようリュウの頭の中を延々と()き乱していた。

 

「…………それも」

 

 言い(よど)むような、口に出すことが(はば)られているような。

 揺れた前髪に逃がした視線がやけに印象的だった。

 

「この実験が終われば全て解決するわ」

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