ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章6話『心から大切な人』

 Linkとは、究極を言ってしまえばある程度の可動性と一般的な射撃武装さえあれば動かす機体は何でも良いと、目の前の光景を見つつ思う。

 対艦刀に属する大型の近接兵装も、敵機がビームサーベルで墜とせるならそちらで斬った方が間接への負荷も機体バランスの安定化という点でも合理的だ。大型剣は、至近の間合いに入れば振りかぶる動作でビームサーベルのそれに比べると僅かなタイムラグが存在し、それは数瞬の読み合いが発生する近接戦闘では致命的な遅れだ。

 

「どうして、対艦刀なんて持って……」

 

 縦に両断されたスローターダガーは左手にアグニを抱え、右手には撃墜された味方機が装備していた対艦刀シュベルトゲベールを携えている。

 最後に残ったこの1機は立ち尽くしたと思えば反転して逃げ出し、迂回する形で味方の残骸から対艦刀を持ち出して迎撃してきた。

 負けたくないという思考は理解できるが、宙域に残った近接兵装は他にもまだある。何故、重い対艦刀なんて。

 

『何か、想い入れのある武器だったのでしょうか』

 

 少女の澄んだ声が意識に響く。

 

「想い入れ。……そうだな、()()()()のある武器なら、きっとこういう場面で使うんだろうな」

 

 自分でも驚くほどに空虚で空っぽな声音で吐いた事にリュウは続いて鼻を鳴らす。リュウにはもう、想い出と呼ばれる類いのガンプラの記憶が存在しない。

 残った記憶は全て苦々しい記憶だけで、ガンプラを見ると陰鬱(いんうつ)な気分にさえなってしまう。一ヶ月前、学園都市に移動する前の模型店で出会った助けを求める少年の顔。それより以前、3年生へと進級するための試験で友人に犯した愚行。目を(つむ)って思い出されるのはそういった記憶ばかりで、目の前のスローターダガーが本当は正直、羨ましかった。

 目の前の敵機から火炎が漏れだし、紅蓮の牡丹(ぼたん)が暗礁地帯に咲くのを眺める傍ら、リュウの思考は冷えてどこか苛立つ。

 

「あと1機、それで試験への勝率が確保出来る。頼んだぞナナ」

 

『はい。リュウさん』

 

 そんなリュウの思考の全てを共有する自分は(ずる)いと呼ばれるんだろうと、リュウの意識内の少女は儚く笑う。

 ナナにはリュウの抱く不安や疑念が全て見えて、対して自分の思考はあちらからは見えない。それは、(ずる)いと思うと同時に卑怯だとも思った。

 …………だって。

 

(私が持っている感情と言われるこれは、貴方の────)

 

 思う途中で、思考に激痛が走る。

 それより先は()()()()()()()()。思うことも、彼の前で口に出す事も許されていなかった。

 

(ごめんなさい、リュウさん)

 

 きっと貴方にとって裏切りだろう。

 きっと私を恨むだろう。

 きっと、貴方は哀しむだろう。

 こうやって自分で自分の心を自傷する事しか、謝罪しか少女には許されていなかった。

 

 だからだろう。

 2人が更ける間、この宙域に迫るそれに気付けなかったのは。

 

 直後、警告音(アラート)

 意識が転瞬しリュウがレーダーサイトを見やる。高速で移動するそれがMSであることは移動速度で理解できた、しかしこの軌道は…………! 

 

「真っ直ぐこっちに来てる……?」

 

『リュウさん正面です! 衝撃に備えてっ!』

 

 少女の声と同時、ステージギミックである漂う機体の残骸に薄桃(はくとう)の閃光が突き刺さり爆発。

 伸びた(ほむら)の波に呑まれぬようリュウの身体を扱う少女が巧みに操縦桿を引き倒してHi-ガンダムを後退させる。

 その、爆炎の中から。

 

『久しぶりだねぇ、坊。見ない間に大分腕を上げたようじゃないか』

 

 記憶に覚えがある親しんだ声。

 リュウから消えた記憶はガンプラもしくはガンプラが関わる人間関係や出来事が殆どで、今聞こえた声音はガンプラ関係無しにリュウの記憶が大切と判断し残した数少ない人物の物だった。

 

 ────強さってもんは積み重ねる時間と手前の意思の強さでゆっくりと(にじ)み出てくるもんさ。おいそれと強さを得ようだなんて、それこそ魔法の果実でも食わないと道理が通らない。そして残念なことに、この世の中には魔法の果実なんて実ってないのさ。

 

 そして、最も会いたくない人物だった。

 純然(じゅんぜん)たる強さと心の強靭(きょうじん)さを見せ付けたあの女性は、リュウにとって目映(まばゆ)く手の届かない位置の人間で、そんな人物に今の自分は決して見られたくなかった。

 魔法の果実、それを食した自分は彼女に会わせる顔なんてないのに、どうして……。

 

「どうして……ッ! アンタが出てくるんだよ! カレンさんッッ!!」

 

 剛焔(ごうえん)が斬り払われる。ぶわりと散る炎の華の中心、こちらを鋭く見据える緑光のツインアイと特徴的な深い蒼。

 ペルセ・ダハックの背部サブアームから発振された4つのビームサーベルは爛々と輝きを放ち、その攻撃性を見せつけるかのようHi-ガンダムに切っ先が向けられた。

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