俗に言う春の嵐と呼ばれるような、散り切らず
ごう、と一際強く吹き付けた突風が建てられて真新しい“ガルフレッド”の入り口を軋ませて揺らし、木材の悲鳴とも聞こえるそれに気を取られたカレンはもう1度聞き直す。
スマートフォンと連動したインカム状のデバイス────アウターギアへ今度はしっかりと意識を向け、
「もう1回言ってくれ工房長。
『何度目だババア、そろそろ耳が遠くなったか?』
「五月蝿いよジャリ、お前よりウチの店の方が大事なんだよ」
電話越しに聞こえる鼻を鳴らす声と肩をすくめる気配。
やがて僅かに伏せられた声音で続く言葉に、並々ならぬ予感を感じながらカレンはカウンターへと肘を掛ける。
『同盟のフォースの連中が立て続けに襲われてる。俺んとこに被害は無いが、時間の問題だと思ってる』
「ハッ、命知らずが居たもんだねぇ。
『まだだ。ステータス不明、と言うより素性を全てマスクしてる。聞けばリボーンズガンダムかアイズガンダムの
「そりゃご忠告どうも、下の連中がどうもピリピリしてると思ったらそういう事だったかい……」
カレンがフォース長を務める“星辰の探求団”は、端から見ればいわゆるゴロツキと呼ばれるような人間が多い。
理由としては彼らは志願して入団したわけでもなく、迷惑行為を行っているところをカレンに目撃・
それを見越しての忠告だろうと、通った鼻筋のある顔に笑みの気配が一瞬走る。
「血の気が多いと言えばそっちにも1匹“狂犬”が居るだろう。手綱はちゃんと握っているのかい?」
『握る以前に外に出したら問題起こすだろうから謹慎中だ。お陰で毎日騒がし………………。だぁ~! 離れろ! 離れろっこの! 地獄耳が過ぎんだろ! 大人しくしてろ、この駄犬ッ!』
やがて電話越しから聞こえる「なんですかなんですか、私の話っすか!? も~ぅ、部下を誉める時は内緒ではなくちゃんと部下の耳に入るよう言わないと駄目っすよ! ほらほら~何を言ったんですかぁ~?」等の声にすっかり肩の力を抜いたカレンは、未だ工房長の罵声が響く電話を────アウターギアから眼前に展開されたホロウィンドウの通話終了の項目へと視線を強め、何故かプロレス技に掛かる娘の叫び声が唐突に消え去る。
外されたアウターギアは
「リボーンズガンダムか……アイズガンダムねぇ」
該当する人間が多すぎる。
挙げられた2機は、片や全局面対応型の高性能機体ということもありデザインの秀逸さも有する事から使用人口が非常に多く、片やレギュレーション600の中でも高水準に纏まった機体性能に加えて戦局の巻き返しが狙える兵装を搭載している事もありこちらもまた使用人口は多い。
これらを踏まえると1万を越える学園都市内のファイターから件の人物を探すのは容易ではないな、と。思考する傍らカウンター内に保管されたキープボトルから適当な物を選んで封を開ける。
ずしりと重い、ざらついた質感の赤茶色のボトル。最高級品にしか
そこへ。
「ねぇママ」
「わっひゃあっ!! な、なな、なんだい!? どうしたんだいユナ、そんな所に立って!」
「どうしたも何も掃除終わったんだけど…………って、あ~~~。またお客さんのキープまた飲んでる、怒られても知らないよ」
「良いんだよ。客がこいつを頼んでたとき大分回ってたからバレやしないさ」
店奥に通じる扉の前に、
彼女が着用している服装の、全身に散りばめられたフリルの
小生意気な娘にはこのくらいきっちりとした形式の物がやはり似合うと、それをつまみにグラスを煽る。
「で、なんだい改まって。恋の話かい、お前がどっちになびくか内心気に掛かっていたんだが…………」
「違うわッ!! 話の意図が汲み取れないんですけどッッ!?」
本気で否定してくるあたりそういった気は無いらしい。
半ば白けた視線のまま再びグラスに軽く口を付ける。
その、カレンの横顔に。おずおずと窺う視線で少女が見上げてきた。
「頼みたいことがあって……。最近リュウさんの様子がおかしいの。少しママに探ってもらえないかなって」
「嫌だよ面倒だねぇ。思春期の年頃のガキが何かに励んでることを女は詮索しちゃいけないよ」
「本気なのママ。最近リュウさんバトルに凄い勝ってるんだけど全然嬉しそうな素振りも無いし、……少しピリピリもしてて」
また面倒なことを頼んできたなと肘に
「聞くだけだよ。……どのくらい勝ってるんだい」
「……最後に見たときは勝率8割越えてたんだけど、最近は戦績を隠してるから分かんない。この時期のプロを目指すファイターは他のファイターに悟られない為って言ってて……。
そう言って磨かれた反射する木目に落ちる視線は
────戦績をマスクしている?
あの少年が? 大事な仲間の為、その身1つを暴力に晒されるかもしれない只中へ投じた、少し鼻のつくあの少年が?
「分かった。調べてみるさね」
「え……、ほんと!? ほんとママ!?」
目の前で咲く笑顔とは対照的に、勘と呼ばれる類いの
丁度酔いも程よく回ってきたところだ。手早くワインとグラスを片付けて、そこでユナのきょとんとした顔が視界端に映る。
存外に気の張った顔をしてしまったか、と。自分でも珍しく取り
「心配すんな。あの坊はきっと大丈夫さ」