ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章8話『ラグメント』

 レギュレーション800、“ペルセ・ダハック”。

 “ガンダムGのレコンギスタ”に登場する強襲型モビルスーツであるダハックをベースに、携行火器の追加と各部改修による基本性能の上昇、加えて塗装による対弾性の強化が施された機体。

 宇宙に溶け込む深い蒼と、つや消し塗装による視認性の低下はこうして相対すると思った以上に厄介だなと、紛れる深蒼(しんそう)を意識の少女が観測出来るようきつく視線で見据(みす)える。

 そのまま。

 

「カレンさんッ……どうしてここにっ」

 

『なんだいその言い草は。あたしが学園都市のファイターである以上電脳世界(アウター)にいるのは不思議じゃあないだろう。それともあれかい? 例によってまさか、────見られたら困る事でもしてたのかい?』

 

 (きゅう)する意識に快活で豪快(ごうかい)な声音が無遠慮(ぶえんりょ)に響く。

 あと、1人だった。それでプロになるための試験へ挑める勝率に届く筈だった。それなのに。

 オープン回線を拾ったスピーカーが短いノイズを走らせる。

 

『別に、取って食おうだなんて思ってないさ。勝率稼ぎなんてものは聞こえは悪いが禁止されている行為でもない。────あたしが興味あるのはねぇ、()()()と戦いたい、それだけさ』

 

 (ただよ)ったデブリがペルセ・ダハックにゆっくりと近付き、サブアームから煌々(こうこう)と発振されたビームサーベルが溶けたバターのよう何の抵抗もなくデブリを両断する。

 言葉が終わると共に粒子の刃も勢いを増し、薄桃(はくとう)に輝く無言の選択を突きつけられた。

 カレンの戦闘を受けるか、それともログアウトをして逃げるか。

 試験への勝率獲得まで、あと1人。

 

「────ナナッッ!!」

 

『────誰だいッそりゃあッッ!!』

 

 Hiーガンダム左腕ハードポイントから射出された実体刀GNタチを加速する挙動の只中に持ち直し、直進する軌道のままペルセ・ダハックへと猛進した。

 それを避けること無くペルセ・ダハックはサブアームを前方に展開、束ねられた4本のビームサーベルと対ビームコーティングが施された実体刀が紫電(しでん)の閃光を(またた)かせ衝突し、発生した斥力(へきりょう)に操縦桿を握る両者の腕が衝撃に負けないよう強く前へと押し出される。

 その勢いを増して照らす鮮烈(せんれつ)に暗礁地帯も呼応(こおう)するよう稲妻を走らせ、漂う機体達の残骸だけが戦闘の火蓋が切られる樣を眺めていた。

 

※※※※※※

 

 一見すれば多少大きい程度の蛍光弾(けいこうだん)がデブリの隙間を()ってHiーガンダムへと迫る。

 こちらは周囲が機体の残骸で囲まれている以上回避が難しい、意図を()み取ったナナの小さな息遣いが脳裏に鳴って機体半身を(よじ)る形で背部バインダー2基を前面に展開、ディフェンスモードによる二重のGNフィールドで衝撃に備えた。

 着弾する寸前に正面モニタが捉えたのは光弾がデブリに衝突する瞬間だ。小粒とも言える粒子の弾丸が大ほどのデブリに直撃する直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────ぐぅッ!」

 

『リュウさんっ! 大丈夫ですか!』

 

「問題ねぇ、思った以上に威力がでかかったから驚いただけだ」

 

 直撃を免れたとしても(かす)っただけで周囲を覆うエネルギーで対象を(ちり)に変える、まるでビームマグナムの一撃だった。

 恐らくは通常のビームよりも圧縮された弾丸による威力増加を狙った代物だが、放たれたエネルギーが小さくなる分対象に命中させる期待値は低下する。

 そんな代物をあの距離から狙うあの人は、やはり強い。

 防いだ衝撃で(しび)れる腕の感触に冷や汗が頬を伝い、デブリの影から追撃もせずこちらを窺う深蒼の機体は挑発するかのよう佇んで動かない。ならばと、奇しくもリュウと同じ思考を選択したナナがバインダーを展開、ディフェンスモードから両翼を思わせるハイスピードモードへと移行し(かが)む姿勢でペルセ・ダハックを狙う。

 

「ビームマグナム…………、ユニコーンガンダムを覚えてるって事は、俺ってやっぱり」

 

『リュウさん。モニタの観測引き続きお願いします。該当敵勢力の危険度を引き上げました、油断しないよう』

 

「分かってる。────いけッ! ナナッッ!」

 

 疾駆(しっく)する粒子の余波で後方のデブリが吹き飛ぶ、Hiーガンダムが叩き出せる目標距離への最速移動による加速だ。

 視界に捉えたペルセ・ダハックが迎撃の為4基のサブアームを構え射撃。デブリに風穴を穿ちながら高速に迫る光弾に対してHi-ガンダムは周囲を浮かぶ残骸で身動きを取ることが困難だ。

 求められるのは最小限の回避による全弾回避であり、しかしそれも少女の動きなら造作もないマニューバ、落ちれば最期のか細い活路を減速しないままバレルロールで()わし、直後回避不可の同時射撃がHiーガンダム眼前を覆う。

 墜ちれば死ぬという恐怖など感じさせない手捌(てさば)きでリュウの身体を手繰(たぐ)る少女は、前もって粒子をチャージされたバスターライフルの最大出力照射を以て前方の光弾をデブリ諸共紅蓮(ぐれん)の光線で呑み込んだ。

 次の瞬間、射出された真紅の閃光が瞬いては散って、左腕に構えたGNタチの切っ先を消えゆく深紅を捉えたまま最大速度で突撃する。

 ──────手応えは、あった。

 

『へぇ…………やるじゃあないか! 囮を使う戦術も回るんだねぇ!』

 

「────なっ!?」『────っ!』

 

 エネルギー吸収を備えるビームシールド“プランダー”。少女の取った、恐らくはそれの使用を見越しての刺突はペルセ・ダハックの右腕を貫通するに留まり、カウンターとばかりにペルセ・ダハックの左腕がHiーガンダムの右腕を軋むほどに掴む。

 “プランダー”を使用したのだろう。本来であれば周囲に拡散されるビームシールドがHiーガンダム右腕一点に集中され、瞬く間に赤熱して()ぜ飛んだ。

 同時GNタチに突き刺されたペルセ・ダハックの左腕が爆散。視界が火炎で(さえぎ)られる中、(ひる)んだ様子の無い少女が機体腰後部GNスマートランチャーを敵機回避予測箇所へ撃ち込む。吹き飛ばされた爆炎の先にペルセ・ダハックの姿は無い。

 

「悪ぃ、見失った」

 

『いえ、そもそもが私の戦略の甘さが原因です。戦術パターン、誤差修正。敵機回避行動剪定完了。次はいけます』

 

 淡々と告げる少女の言葉にしかしリュウは眉を潜ませる。

 思い出したのはトウドウ・サキと戦闘を行った際のLinkだ。

 視線や思考が追い付く余地など介在しないあの高速戦闘においてリュウはただ観測を果たすだけの機器と成っていたが、先のスローターダガーとの戦闘も現在のカレンとの戦闘も、全てリュウに理解が及ぶ程度の、言ってしまえばただの上手い操作だ。萌煌学園で2年を過ごしたリュウですら次元が違うと感じたあの冷利(れいり)軌道(マニューバ)が、最近のLinkでは鳴りを潜めている。

 果たしてリュウ自身の理解が成長しLinkに追い付いたのか、少女がただ単に手加減をしてるのか…………。

 ──────瞬間、警告音(アラート)

 リュウの視界を通して戦局を判断する少女が直上から接近する熱原体を宙返りをする形で回避する。Hiーガンダムの胴体を真一文字に(かす)めたのはビームダガー、モニタを向けた先にはデブリ帯の闇に溶け込む深蒼の機体が、猛追する姿勢のままサブアームからビームサーベルを展開して迫っていた。

 見え透いた追撃に対して少女が取った戦略は────武装スロット最右、レグナントブレイカー。その戦法に成る程とリュウは思い至って口角を上げる。

 

 これまで繰り広げてきた攻防は全てペルセ・ダハックに搭乗するカレンの挙動、長年染み付いた癖を見抜くための時間だ。攻撃が来れば右に避けたり、攻め込む際は直進する。何百パターンと分けられたそういった挙動から次にカレンが取る動作をLinkにより統計を弾き出し、レグナントブレイカーによる粒子屈折で回避箇所毎焼き払う。

 リュウが使用すれば当てずっぽうの域を出ない一発武装だが、圧倒的な戦局判断速度を持つLinkの手に掛かれば百発百中の魔弾と成り得る正に切り札だ。

 加えて、カレンはレグナントブレイカーの存在を知らない。

 

「………………くヒッ」

 

 ────勝った。

 バスターライフルを失った状態での粒子屈折回数は2回だが、ナナならやってくれるだろう。

 バインダーはとうにアタックモードへと展開され、2基のバインダーの射線上にペルセ・ダハックを捉えている状態だ。エネルギー充填(じゅうてん)まであと僅か。

 そこで、視界の端で何かが光る。

 

「な────ッッに!?」『しまっ────!!』

 

 リュウの身体を操る少女がモニタを下方に見やれば、先に投擲(とうごう)されたビームダガーが()()に刺さっているのが確認出来た。

 遠く漂うそれは、自らが駆る機体の物なのに、何故か名前が咄嗟に出てこなかった。

 プランダーによって右腕を破壊された際、投げ出されたGNバスターライフル。大容量GNコンデンサを内蔵するそれに紫電の蛇がのたうち。

 閃光と衝撃が、射撃体勢に入ったHiーガンダムを呑み込んだ。

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