ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章9話『後悔だけで』

 宇宙空間での雷は地上から見えるような雷雲(らいうん)から発せられる物ではなく、スモッグとも言える(もや)に包まれた廃棄コロニーが時折内側から輝いて放射状に電流を放出させる。緩やかな(おうぎ)の形で広がる百雷(びゃくらい)は妖しく輝いてはデブリや機体の残骸を焼いて、今は再び放電されるその時まで紫輝を孕ませている。

 断続的に、切れかけた蛍光灯さながらに瞬く長大な筒を背景にして、ペルセ・ダハックは手にしたビームライフルの銃口をHiーガンダムの胸部へと向けて揺るがない。Hi-ガンダムの背部バインダーは2基とも根本から失い両脚部も先程射抜かれて半ばほどから先が見えず、ナナが最後の抵抗と振り上げたビームサーベルもたった今発振前に撃ち落とされた。

 

『Linkを……、Linkを切ってください。今ならまだ間に合います。この状態での撃墜は本当に危険なんです……!』

 

 思考の端から鳴る少女の悲痛を押し込めて抑えきれない声もあえて無視をして機体ステータスの確認を行う。

 唯一無事なのは左腕のみ。対して尚もこちらを見据えるペルセ・ダハックの機体に目立った損傷は見られない。

 

『リュウさんッッ!!』

 

 一際強く、少女が訴える。

 その声に呆れを含んだ溜め息を短く吐いてからリュウは自分でも冷えきったと自覚する声音でポツリと呟いた。

 

「今日しか無ぇんだよ……」

 

『……え』

 

「今日を逃したら、Linkは使えなくなる。そしたらどうなる? よしんば記憶が戻ったとしても、俺の────“リュウ・タチバナ”の腕じゃ勝てない。今日までバトルしてきた意味が消えちまう」

 

 ペルセ・ダハックから突き付けられるビームライフルは満身創痍のHi-ガンダムの胸部を尚も狙っている。

 鈍色(にびいろ)に光る銃口にぞわりと鳥肌が総立ち、そこで初めて自覚した。

 

「今ここで死ぬよりもさ……! これまでの俺の人生がようやく報われるって、思えたんだ……! 偽善(ぎぜん)と嘘で生きてきた俺に意味が出来るってさ。ナナ、今負けたらお前のLinkで消えた記憶が全部無駄になっちまう、それが一番恐いんだ!! …………俺の嘘を、嘘で終わらせたくないんだッッ!!」

 

 慟哭(どうこく)だった。

 学園都市へ出発する朝、助けを求める瞳でリュウを見詰めた少年の。

 それより以前、リュウを信頼していた友人を利用して3年生への昇級試験を合格し、落第した彼が見せた大粒の涙の。

 そして、ナナのLinkを使用して抱いた、自分という人間の(みにく)さの。

 それら全てを嘘で終わらせたくない。

 …………だから! 

 

「──────俺の全てを吸えッッ!! ナナぁッッ!!」

 

『──────ッッ!!』

 

 自身へと向けた憎悪(ぞうお)侮蔑(ぶべつ)を正面モニタに映るペルセ・ダハックに重ねて、叫ぶ。

 同時に脊髄(せきずい)を上から引き抜かれるような、ずるりと()()が抜かれる錯覚に連続していた意識にノイズが走った。

 

『戦術アルゴリズム変更。接続者(コネクター)への安全装置(セーフティ)解除。回避を重点とした軌道(マニューバ)から被弾前提の軌道(マニューバ)に移行。接続者(コネクター)の生存確率20%以下。Nitoro:Nanoparticle、命令、承認──────トランザム』

 

 特徴的な起動音と共に幾何学的(きかがくてき)なスクリーンが正面モニタに映し出される。

 全身に供給された大量の粒子が切断された箇所から噴出し、それすら推進材の代わりとして目の前のペルセ・ダハックへと突貫(とっかん)。携行火器を持たない機体による自殺にも等しい捨て身だ。手負いの獣のそれにも思える凶行に、しかしペルセ・ダハックは怯んだ様子もなくビームライフルを依然(いぜん)として突き付けている。

 銃口が閃き、1発のビームがHi-ガンダムの頭部を穿つ。正面モニタからの映像に一瞬砂嵐が走り、それと同時サブカメラへと切り替わる中、今の射撃がこちらの機動性能を読むための試射だということはリュウにも分かった。次が本命の射撃、この距離では確実に当たる。

 

 その瞬間、ペルセ・ダハック後方に()()()()

 孔雀(くじゃく)が広げる羽のような、膨大な量の稲妻が廃棄コロニーを支点に爆発。放射状に拡がる紫電が帯電するデブリや機体の残骸に伝って焼き付くすその軌道上、スローモーションで流れる時の只中にペルセ・ダハックへと伸びる雷光を、リュウは確かに見た。

 背後からの稲光(いなびかり)だ、あれはもう避けれない。

 

『──────ぐぁッッ!!』

 

 苦悶に歪むオープン回線からの声とペルセ・ダハックのアイセンサが灯りを消したのは同時。背部に直撃した雷電に(もだ)える隙を、少女は決して見逃さない。

 トランザムによる深紅の残影を(まと)いながらHi-ガンダム左腕が貫手(ぬきて)の形でペルセ・ダハックの胸部に突き刺さる。

 その、武器を何も持たないまま少女は()()()()()()()()()()()()の操作を操縦桿に叩き込んだ。

 ズバン! と重いスパークの衝撃がリュウを揺らし、Hiーガンダムの腕がゆっくりと引き抜かれる。

 

 ──────“光雷球”。

 

 ガンダムアストレイレッドフレームの武装をオリジナルとしたギミックであり、Hiーガンダムの基となるアイズガンダムの肘部大型GNコンデンサから供給される過剰粒子を敵機に炸裂させる兵装だ。

 加えてトランザムにより大幅に増加した粒子量を上乗せした一撃。

 勝負は、着いた。

 

『はぁ~~~やだやだ全く、ツイてないねぇ、これだからステージギミックは。………………坊』

 

 ノイズの混じるカレンの音声がスピーカーから聞こえ、Linkを解除された腕が操縦桿へと無意識に伸びる。

 選択、オープン回線。

 

「なん、ですか」

 

『ハッ、やっと繋がったよ。一方的に回線を切りやがって。……それに酷い声さね』

 

「…………、俺がぶっきらぼうなのは前も変わらないでしょう」

 

『そんな事無いさ、前はケツの青い可愛いガキの声をしていたよ』

 

 ペルセ・ダハックの胴体が一度大きく揺れて、続いて噴煙が至るところから上がる。

 それでもカレンの声音は毅然(きぜん)としたままいっそふてぶてしいまでに気丈だ。

 

『腕を上げたねと誉めてやりたいが、坊。お前今、何かに()かれてるね?』

 

「なっ……!?」

 

『ペルセを視認するまでは、ずぼらも良いとこのザル索敵だったが、……前に見た坊の戦い方は常に何かに怯えてるようにも見えるくらいに警戒していたよ。そして今回戦いでこっちを認識した瞬間の変わりよう……間違いなく坊じゃないね』

 

 ────見抜かれていた。

 衝撃が脳を走ると共に、周りの人間に告げ口をされるかもしれないという不安が思考を埋め尽くす。そうなったら誰かに、エイジやコトハ、ユナに失望されるかもしれない。今まで隠れてLinkを行使してきた事が無駄になってしまう……! 

 

『安心しな、誰にも言わないさ』

 

 反して、スピーカーから聞こえる声は予想とはかけ離れどこまでも穏やかだ。

 

『ガキのマスターベーションを言いふらすほどあたしゃ酷い女じゃあない。…………だがね、これだけは1つ聞かせておくれ』

 

 爆炎が上がる。

 ペルセ・ダハックの深い青色が真紅の陽炎(ようえん)に包まれ、貫手の(あと)から火花が漏れ出た。

 

『坊、お前今。───────ガンプラバトルが楽しいかい?』

 

「ッッ!!」

 

 楽しいわけ、無い。

 楽しく、無い。

 でもそんな答えをこの人に言うのは何故だか凄く嫌で、だからだろう。

 大きな爆発と共にペルセ・ダハックがその身を宙に散らせる。

 答えを言う前にレーダーフリップからカレンのアイコンが消えていた。

 

「俺は……ッ、俺は何で……ッッ!!」

 

 楽しい筈のガンプラバトルが微塵(みじん)も楽しくない。

 そんな最近の感情を、(ふた)をしてきた疑問がカレンの言葉で開かれて大きくリュウの中を満たす。

 

 俺は、どうしてガンプラバトルをしているのだろう…………?

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