宇宙空間での雷は地上から見えるような
断続的に、切れかけた蛍光灯さながらに瞬く長大な筒を背景にして、ペルセ・ダハックは手にしたビームライフルの銃口をHiーガンダムの胸部へと向けて揺るがない。Hi-ガンダムの背部バインダーは2基とも根本から失い両脚部も先程射抜かれて半ばほどから先が見えず、ナナが最後の抵抗と振り上げたビームサーベルもたった今発振前に撃ち落とされた。
『Linkを……、Linkを切ってください。今ならまだ間に合います。この状態での撃墜は本当に危険なんです……!』
思考の端から鳴る少女の悲痛を押し込めて抑えきれない声もあえて無視をして機体ステータスの確認を行う。
唯一無事なのは左腕のみ。対して尚もこちらを見据えるペルセ・ダハックの機体に目立った損傷は見られない。
『リュウさんッッ!!』
一際強く、少女が訴える。
その声に呆れを含んだ溜め息を短く吐いてからリュウは自分でも冷えきったと自覚する声音でポツリと呟いた。
「今日しか無ぇんだよ……」
『……え』
「今日を逃したら、Linkは使えなくなる。そしたらどうなる? よしんば記憶が戻ったとしても、俺の────“リュウ・タチバナ”の腕じゃ勝てない。今日までバトルしてきた意味が消えちまう」
ペルセ・ダハックから突き付けられるビームライフルは満身創痍のHi-ガンダムの胸部を尚も狙っている。
「今ここで死ぬよりもさ……! これまでの俺の人生がようやく報われるって、思えたんだ……!
学園都市へ出発する朝、助けを求める瞳でリュウを見詰めた少年の。
それより以前、リュウを信頼していた友人を利用して3年生への昇級試験を合格し、落第した彼が見せた大粒の涙の。
そして、ナナのLinkを使用して抱いた、自分という人間の
それら全てを嘘で終わらせたくない。
…………だから!
「──────俺の全てを吸えッッ!! ナナぁッッ!!」
『──────ッッ!!』
自身へと向けた
同時に
『戦術アルゴリズム変更。
特徴的な起動音と共に
全身に供給された大量の粒子が切断された箇所から噴出し、それすら推進材の代わりとして目の前のペルセ・ダハックへと
銃口が閃き、1発のビームがHi-ガンダムの頭部を穿つ。正面モニタからの映像に一瞬砂嵐が走り、それと同時サブカメラへと切り替わる中、今の射撃がこちらの機動性能を読むための試射だということはリュウにも分かった。次が本命の射撃、この距離では確実に当たる。
その瞬間、ペルセ・ダハック後方に
背後からの
『──────ぐぁッッ!!』
苦悶に歪むオープン回線からの声とペルセ・ダハックのアイセンサが灯りを消したのは同時。背部に直撃した雷電に
トランザムによる深紅の残影を
その、武器を何も持たないまま少女は
ズバン! と重いスパークの衝撃がリュウを揺らし、Hiーガンダムの腕がゆっくりと引き抜かれる。
──────“光雷球”。
ガンダムアストレイレッドフレームの武装をオリジナルとしたギミックであり、Hiーガンダムの基となるアイズガンダムの肘部大型GNコンデンサから供給される過剰粒子を敵機に炸裂させる兵装だ。
加えてトランザムにより大幅に増加した粒子量を上乗せした一撃。
勝負は、着いた。
『はぁ~~~やだやだ全く、ツイてないねぇ、これだからステージギミックは。………………坊』
ノイズの混じるカレンの音声がスピーカーから聞こえ、Linkを解除された腕が操縦桿へと無意識に伸びる。
選択、オープン回線。
「なん、ですか」
『ハッ、やっと繋がったよ。一方的に回線を切りやがって。……それに酷い声さね』
「…………、俺がぶっきらぼうなのは前も変わらないでしょう」
『そんな事無いさ、前はケツの青い可愛いガキの声をしていたよ』
ペルセ・ダハックの胴体が一度大きく揺れて、続いて噴煙が至るところから上がる。
それでもカレンの声音は
『腕を上げたねと誉めてやりたいが、坊。お前今、何かに
「なっ……!?」
『ペルセを視認するまでは、ずぼらも良いとこのザル索敵だったが、……前に見た坊の戦い方は常に何かに怯えてるようにも見えるくらいに警戒していたよ。そして今回戦いでこっちを認識した瞬間の変わりよう……間違いなく坊じゃないね』
────見抜かれていた。
衝撃が脳を走ると共に、周りの人間に告げ口をされるかもしれないという不安が思考を埋め尽くす。そうなったら誰かに、エイジやコトハ、ユナに失望されるかもしれない。今まで隠れてLinkを行使してきた事が無駄になってしまう……!
『安心しな、誰にも言わないさ』
反して、スピーカーから聞こえる声は予想とはかけ離れどこまでも穏やかだ。
『ガキのマスターベーションを言いふらすほどあたしゃ酷い女じゃあない。…………だがね、これだけは1つ聞かせておくれ』
爆炎が上がる。
ペルセ・ダハックの深い青色が真紅の
『坊、お前今。───────ガンプラバトルが楽しいかい?』
「ッッ!!」
楽しいわけ、無い。
楽しく、無い。
でもそんな答えをこの人に言うのは何故だか凄く嫌で、だからだろう。
大きな爆発と共にペルセ・ダハックがその身を宙に散らせる。
答えを言う前にレーダーフリップからカレンのアイコンが消えていた。
「俺は……ッ、俺は何で……ッッ!!」
楽しい筈のガンプラバトルが
そんな最近の感情を、
俺は、どうしてガンプラバトルをしているのだろう…………?