ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章11話『心の涙』

 学園都市開発が進められていた時期と同じくその中心である萌煌学園にも改修工事は行われていた。

 生徒側から挙げられていた不満のある施設箇所、主に外観や老朽化が進んでいた通路の工事が(ほどこ)された影響か廊下は真新しく陽光(ようこう)を反射し、照明も長距離ライン型LEDに変更されその近未来的な装飾は男子に大人気だ。

 ──2号棟、教員室。

 “ガンダムビルドダイバーズ”に登場する三角形のデバイスを()した学生証を教員室前の電子パネルへと掲げる。

 ピッ、と。程無くして軽快(けいかい)な音と共に扉が素早くスライドし、丁度昼休憩だからか、学園の教員がそれぞれ食事をしたり授業で扱うガンプラを弄っていた。

 その中の1人、コーヒーカップを片手に歩く教員の1人がこちらに気付く。

 

「おや、君は」

 

「萌煌学園3年普通科コトハ・スズネです。コーチ……、あっいや。トウドウ先生に用があって来ました」

 

「そんなに(かしこ)まらなくていいさ。コトハ君が優勝したシンガポールの大会、あれはここの先生方は皆知っている。もっと肩の力を抜いて、自分の家のように振る舞ってくれて構わないよ? ……とと、そうだ。トウドウ先生だね、待ってて」

 

 明るい茶髪を短く揺らし教員が装着したアウターギアを展開し(ほが)らかな口調で通話を始めた。

 見れば他の教員もアウターギアを使用して職務の続きをしていたりガンプラのステータスを図っている姿が散見され、その動作には一切の(とどこお)りが見受けられない。最新機器を使いこなしている辺り流石は萌煌(ほうこう)学園の教員だな、とコトハは内心感嘆した。

 

「……コトハさんなら」

 

「は、はい? すみません考え事をしていて」

 

 いつの間にか通話を終えていた教員の視線に気付き、(あわ)てて視線を合わせる。

 

「はは、また畏まってる……。コトハさんの成績なら普通科では無くプロコースへの編入も出来るのに、何か理由があるのかな?」

 

 優しい口調に反してコトハは目線を逸らした。

 床に落ちた視線に浮かぶ幼馴染みの顔。笑顔をめっきり見せなくなったあの顔が真白の床に浮かんでくるようで、思わず声も小さくなってしまった。

 

「友人を、待っているんです」

 

「……、友人? おっと、来たね。トウドウ先生、じゃあお願いします」

 

 疑問に首を傾げる教員と入れ替わる形で彼女がやってくる。

 最優の教員、トウドウ・サキ。

 1200を越える萌煌学園の生徒の詳細を全て把握しているという噂も、成る程。改めて感じる彼女の(まと)うオーラのようなものに当てられれば納得するのも難しくない。

 その、全能にも等しい彼女の瞳が。(わず)かに思念を帯びて曇る。

 

「────タチバナさんの事かしら」

 

※※※※※※※

 

 リュウが学生寮へ戻った頃にはナナは荷造りを全て終え、貸し出された室内の一角のソファに何をするでもなく座っていた。

 ただいまの一言すら告げられず開かれた玄関の扉にナナは目を見開いて駆け寄り、素早い手際(てぎわ)でバスタオルを持ってくる。

 

「……っリュウ、さん。その顔……」

 

 懸命に服から水気を取るナナが悲痛さえ窺える表情でリュウを見上げる。

 

「はは。…………エイジに殴られたよ」

 

 千鳥足(ちどりあし)と表現しても差し支えない足取りでベッドに腰を掛け、付き添うナナは髪の水気を拭き取る。

 彼の目からは、おおよそ生気と呼べる物が消え失せていた。

 

「あいつらがガンプラやってる理由が、俺なんだとさ。……くはっ、はは。何も思い出せねぇ」

 

「リュウさん、あの、……服を脱いでください。そのままでは風邪を引いてしまいます」

 

「多分Linkが無くても覚えてなかったな。……大事な事の筈なのに、大事な事の筈だったのに」

 

 口だけは歪に笑みを形取り、他人の感情に(うと)いナナでさえ咄嗟(とっさ)に目を()らした。

 ──リュウさんの心はもう。

 ────壊れている。

 

「い、今暖かい飲み物を用意します。お風呂も沸かします」

 

 自分のせいなのだ。

 嬉しい事があれば笑い、悲しいことがあれば傷つく。仲間の為ならば怒り、そして人並みの闇も抱えている。

 博士(いわ)く、そんな何処にでもいる彼の心を破壊したのは。

 紛れもなく自分なのだ。

 

 ナナにとって少し高所の風呂のスイッチを背伸びをして入れて、(あらかじ)め保温されていたポットから注がれたお湯にココアパウダーを溶かす。甘いものが好きな彼の為にと、先日一緒に買い物をした際購入した蜂蜜(はちみつ)を1(まわ)し入れると、停滞(ていたい)した室内の空気にふんわりと甘い匂いが香った。

 

「蜂蜜を加えてみました。……蜂蜜にはリラックス効果もあるようで、どうか……飲んで下さい」

 

 ベッド向かいの、作業机にカップを置く。

 散在されたガンプラのパーツ。どれもがちぐはぐな形で散らばるその中心。

 彼の目線がカップへとやがて定まる。

 

「……恐いんだっ」

 

「え?」

 

 引き(しぼ)るように(つむ)がれた声は震えていた。

 視線を彼の目に向けると。

 

「ほんとは恐いんだっ……! 記憶も戻らなくて、ガンプラバトルが、ガンプラがつまらないまま一生過ごすことになるって想像してっ……! 皆が俺の目の前から去っていくのを考えると……!」

 

「……リュウさん!」

 

「すごく、こわいんだ……っ!」

 

 声と共に少年の目から大粒の涙が(こぼ)れ落ちる。

 気が付くと腕が伸びていた。彼を胸に抱き寄せ、ナナは髪に顔を埋める。

 奪った側なのに、騙している側なのに。

 こんな真似をしている自分が卑怯だと胸が恐ろしいほどに痛んだ。

 ──しかしそんな事より。

 

「わたしが、! 付いていますから……!」

 

 彼が目の前で泣いている事が何よりもナナにとって苦しい事だった。

 胸の内に泣く少年に、少女もまた(すが)るよう強く抱き寄せる。

 

 ────あぁ私は。

 

 こんな思いをするなら、感情なんて。

 持たなければ良かった。

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