冬の街にて、人斬り異聞   作:はたけのなすび

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では。


巻の二十五

 

 

 

 

 

 

 アインツベルン城が、二度目の襲撃を受けたのは、日没より数時間経過した頃だった。

 ランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトにより、破壊された城内を見て回っていたアイリスフィール・フォン・アインツベルンは、即座に異変を察知した。

 森に張られた結界は、彼女の魔術回路と繋がっている。

 遠慮容赦ない結界の破壊により、回路に術の反動が襲いかかり、ふらつく。

 瓦礫と埃で汚れた廊下に倒れかかったとき、彼女の体を受け止めたのはセイバーである。

 

「アイリスフィール!」

「ええ、敵襲でしょう。切嗣の不在が痛いけれど……」

「私の側から離れないで下さい。また、あの刀のアサシンが現れないとも限りません」

 

 ケイネスの襲撃に便乗して現れた刀のアサシンは、セイバーのマスターであり、アイリスフィールの最愛の夫である衛宮切嗣に、重傷を負わせた。

 切嗣の最大の武器で、魔術礼装であるコンテンダーは破壊されたが、あれを盾にしなければ、生命を落としていたほどの傷である。

 それを治すために、アイリスフィールは一つの宝具を使った。

 自らが体内に隠し持っていた、セイバーの宝具、聖剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の鞘である『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を用いたのだ。

 持ち主であるセイバーでなくとも、所持しているだけで瞬時に傷を癒やすそれは、切嗣が切り札として、セイバーにすら存在を隠していた品である。

 セイバーへの隠し事が、思わぬ序盤で露見したことになったが、切嗣は鞘を用いて全快し、セイバーはそれを戦略であると許容した。

 だが、令呪を切らされ、セイバーの真のマスターが誰かということを、刀のアサシンとランサー陣営に知られたことは、痛かった。

 駆け付けたランサーがアサシンに加勢してセイバーにとどめを刺すことを躊躇い、思わぬ髑髏のアサシンの横槍で助かったが、あれがなければ、早々にアインツベルンの聖杯戦争は終わっていたところだ。

 

 刀のアサシンとその主は魔術師殺し、衛宮切嗣と似た、或いは同じ思考回路の持ち主なのだ。

 

 一人になった無防備なマスターに容赦なく奇襲を仕掛け、他人の戦いに便乗し、不意討ちも騙し討ちも、彼らは躊躇わない。

 セイバーやランサーのように、尋常な勝負にも騎士の誓いにも、拘りなどないだろう。

 

 切嗣の最優先の警戒対象が、刀のアサシン主従に切り替わるのは速かった。

 

 だが未だ、街に降りた切嗣は彼らを発見してはいない。

 刀のアサシンの真名も不明だ。

 彼が戦闘の際に使っていた掛け声からして、日本の九州に伝わる、とある流派の剣術使いでないかという予測はあるらしいが、喋り方には四国地方の訛りがあるという。

 そして、アサシンのはずなのにセイバーの剣を受け止める技量もある。ちぐはぐなのだ、彼は。

 

「ええ、そうね。セイバー、油断せずに行きましょう」

「無論です。……しかし、憚ることを知らぬこの出方は、恐らくライダーでしょう」

 

 スーツの上から銀の鎧を纏ったセイバーと共に、アイリスフィールは城内を駆け抜けた。

 エントランスホールからは、ライダーの胴間声がセイバーを呼ばわっている。

 駆け込んでみれば、そこにいたのは確かに、戦車に乗ったライダーである。

 

「応、何だ、セイバー。のっけからその無粋な戦支度は?今宵は戦いに来たのではない。一献、酌み交わしに来たのだ」

 

 戦車に仁王立ちし、酒樽を掲げたライダーの足元には、そのマスターである小柄な少年魔術師が真っ青な顔で座り込んでいた。

 だが、その近くにもう二人、乗り込んでいる人影があった。

 ひょい、と戦車から飛び降りたのは、灰色と白、二色の長い髪を紐で束ねた細身の少年。その襟首を掴んだのは、着崩した黒いスーツの青年だった。

 どちらも、顔立ちからしてこの国出身の人間に見えた。

 

「うわぁ……。これを丸ごと結界で隠してたのか」

「マスター、こら。まだ頭出すんやない」

 

 見知らぬ少年をマスターと呼び、彼を止めた青年が、エントランスホールを見下ろす階段の上に立つ、セイバーを見上げる。

 視線が交わった瞬間、セイバーの闘気が膨れ上がった。

 

「貴様は!」

 

 即座に抜剣したセイバーの様子に、アイリスフィールは悟る。

 

「セイバー、まさか……あれが刀のアサシンなの?」

「間違いありません」

「じゃあ、あの子がそのマスター?」

 

 悪辣な襲撃を命じただろう、刀のアサシンの主。

 その当人が、あんな少年だというのだろうか。

 顔は優しげで線は細く、歳の頃は恐らく十四か五。外見だけならば、セイバーと同じか、少し下程に見える。

 身の丈に明らかに合っていない茶色のコートに、赤い毛糸のマフラーという出で立ちのせいもあってか、まるで、一般人の学生か旅行客だ。

 最愛の人、衛宮切嗣を殺し掛けた憎むべき相手だというのに、思い描いていた姿との違いに、アイリスフィールは戸惑う。

 

「オマエら、本気で警戒されてるじゃないかぁ!」

 

 一方、ライダーのマスターは涙目で頭を抱えていた。

 アサシンのマスターは、じとりとした目で腕組みをした。

 

「言ったじゃないか。ボクら連れてきたら、門前払いになるだろうって。……だからって、門ごと吹き飛ばすとは思わなかったけど」

「細かいことは良いではないか、アサシンのマスターよ。なぁに、鬱陶しい森をちょいと伐採して、見晴らしをよくしてやったまでよ」

 

 水を向けられた当人は、特に否定もしない。さりとて肯定もせず、マフラーを引っ張り上げて半ば顔を埋めている。

 その横でアサシンは、鬱陶しげにライダーを睨んでいた。

 セイバーは未だ剣を下ろさない。

 

「ん?こいつらを警戒しておるのか、セイバー。案ずるな、今宵は王と王が酒を酌み交わし、何れの王が聖杯に相応しいかを問おうと思って訪れたまでのこと。こ奴らはついでだ」

「オマエ!それ逆だろ!聖杯に関して調べるべきだからわざわざここまで来たって、う、ぎゃあっ!」

 

 ライダーにどつかれて御者台に沈むマスターに、アサシンのマスターは無言で手刀を切っている。

 顔を上げた少年は、明るい茶色の瞳を、アイリスフィールの方へ向けた。

 

「えーと、アインツベルンの御令嬢、こんばんは。見ての通り戦いに来た訳ではないので、城に立ち入ってもいいか?」

 

 答えを返さず、唇を引き結ぶ彼女を見て、アサシンのマスターは首を横に倒した。

 

「ありゃ。やっぱり駄目か」

「当然じゃろう」

「完全にこっちのせいではあるけど、困ったなぁ……。うん、じゃあ、こうしよう。アサシンの真名を明かすから、それで入城を許可してもらえないか?」

「え?」

「何?」

 

 アイリスフィールとセイバーの驚きに、少年は、頷きを返した。

 アサシンのほうはと言えば、こちらも驚いたのか一瞬目を細めるが、念話でも交わしたのか、勝手にせぇ、と呟いている。

 

「嘘はつかない。なんなら、ギアスのスクロールでも使うか?」

「結構よ。でもそれだけじゃ足りないわ。アサシンのマスター、あなた自身の名も明かしなさい。それを聞かせるなら、アインツベルンは、あなたがたを受け入れましょう」

「アイリスフィール!」

 

 セイバーが警戒の声を上げるが、アイリスフィールは彼女を手で制した。

 少年のほうはと言えば、名を明かせという言葉に素直に頷いた。

 

「構わないよ」

 

 何の衒いもなさそうに、屈託なく彼は頷く。

 セイバーは憤懣遣る方無いという顔で、少年の背後に控えるアサシンを睨み据えていた。

 

「セイバー、堪えてちょうだい。今は情報を得るのが先よ」

「……わかりました」

 

 手元から剣を消し、セイバーは具足を鳴らして進み出た。

 

「いいだろう、ライダー。貴様の挑戦を受けて立とう。アサシン、貴様もだ」

 

 にやり、とライダーは、雄々しくも挑発的に笑う。だが、アサシンは一層気怠げな顔になり、収まりの悪い黒い髪をかいた。

 

「わしは問答に興味なんぞないき。マスター、終いになったら適当に呼べや」

「あっ、待った」

 

 そのまま、アサシンはふいと姿を消……そうとして、当のマスターに腕を掴まれていた。

 

「気配遮断のアサシンが姿なんて消したら、暗殺予告したもおんなじだよ。霊体化は無し」

「ちっ」

「舌打ちしても駄目だったら」

「……しゃあないの」

 

 何なんだろう彼らは、とアイリスフィールは目の前で、気安いふうに言い合う姿に目眩を覚えた。

 だがそれでも、この少年とそのサーヴァントは敵なのだ。

 隠し持った切嗣との通信機のスイッチを入れ、アイリスフィールは城の奥へと彼らを誘うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このような形で失礼する。私はランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ』

「ええ。聞いているわ。私はアインツベルンの代表、アイリスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 冷たい夜の空気が漂う城の中庭。

 白い花が咲き乱れる庭園の中央が、アイリスフィールの選んだ宴の場所だった。

 サーヴァントたちと少し離れて、マスターたちも一応円座になって座る。その中央に、アサシンのマスターだという少年、佐保繍は鞄から取り出した、金属製の小鳥を置いた。

 そこから流れるのは、なんとランサーのマスター、ロード・エルメロイの声である。

 本人が登場しない代わり、彼は刀のアサシンのマスターが持って来た通信礼装を介しての参戦となった。

 

「あのなぁ、ケイネスとも連絡取ってたんなら言えよ」

『聞こえているぞ、ウェイバー・ベルベット。気づけなかった自らの怠惰を、棚に上げるのはやめたまえ』

「……」

『とはいえ、シュウ・サオ。君がそこのウェイバーと共闘関係にあるとは、私も気づいていなかった。上手く隠したものだ』

「いやぁ、隠していたというか。どちらにも聞かれないので、言わなくていいか、と」

「オマエ、ほんっとイイ性格してるよな」

「それほどでも」

「褒めてないからな!」

 

 彼らは、どうやら時計塔を通じての知り合いらしい。

 

 佐保繍、というのが少年の名前だった。

 やはりこの国の生まれで、時計塔に留学していたことがあるという。切嗣が調べ尽くすだろうが、今のところその名前はアイリスフィールには、とんと聞き覚えのないものだった。

 そして刀のアサシンの真名は、岡田以蔵。

 百年と少し前この国の都を騒がせた、人斬りと呼ばれた暗殺者たちの一人が、その正体だったのだ。

 神秘の度合いはともかく、この国での知名度とそれに伴う能力値の補正は、かなり高いものが見込まれる。

 おまけに、真名を知られたことで致命的となる弱点も、人斬り以蔵には特にない。

 マスターの少年は、恐らく自分たちにはさして重要でもない情報を、対価にしたのだ。

 どちらも狙ってやったことならば、かなりの食わせ者である。

 ウェイバーに睨まれて、首を縮めている姿からは、どうも想像できないが。

 

「アインツベルン、こっちはあんたたちに聞きたいことがあるんだ」

『そうだ。……主に、第三次聖杯戦争のことについて、なのだがね』

 

 眉にしわを寄せたウェイバーと、通信礼装の向こうにいるロード・エルメロイの声がアイリスフィールに向かう。

 セイバーは、王の問答としてライダーと差し向かいに座り、ここにいない。彼女は一人で、彼らと相対しなければならない。

 おまけに、である。

 

「岡田さん、そんな誰彼構わず睨まなくても」

「ここは敵ん土地じゃ。おまんの分まで警戒しちゅうだけやき」

 

 刀のアサシンこと岡田以蔵。

 彼は聖杯に相応しい者を問おうという聖杯問答には、本当に興味がなかったらしく、完全に放ったらかしにし、少し離れているとはいえ、自分のマスターの側にいる。

 セイバーが挑発しても、まったく乗ってこなかった。

 尤も、彼の武装だという二振りの刀は、実体化されて繍が持っていた。

 柄にぐるぐると魔力糸の封印まで掛ける厳重さである。こうすれば、確かにすぐに抜刀できない。

 律儀なのか狡賢いのか、判断のつかないマスターだった。

 ともかく、アイリスフィールは彼らと一人で相対していた。

 

「情報が欲しいと言うけれど、あなたがたの問いに、私たちアインツベルンが答える義務はあるのかしら?」

『よく言ったものだ。姑息な手段に訴え、魔導の薫陶を忘れようと、誇りだけは一流かね?』

 

 アイリスフィールは小鳥を睨みつけた。

 ランサーのマスターが言っているのは、紛れもなく切嗣のことだろう。

 

「ロード、お願いしますから、出し抜かれた怒りは一旦置いてください。話が進みません」

『む……』

「アインツベルンの方も、ボクが言っても怒りが増すでしょうが、少し待って下さい」

 

 そういう彼が、一番の警戒対象なのである。どの口が言うのだ、とアイリスフィールは思った。

 アイリスフィールの心中はお構い無しなのか、彼はウェイバーの方を向いた。

 

「ウェイバー、説明頼むよ。……聖杯降臨が成るか成らないかの、重大事項だろう?」

「オマエが説明するんじゃないのかよ!」

「君がボクより上手いから頼むんだ。適材適所ってやつ」

「なんですって?」

 

 聖杯が降臨しない、という可能性の指摘に、アイリスフィールは声を上げた。

 

「じゃあ言うけど、今から話すのは仮説だからな。あんた方にも関わりがあるから、こうやって来ただけだ」

 

 眉にしわを寄せたまま、ウェイバーが語る。

 驚くべきことに、彼ら時計塔からの参加者たちは、聖杯戦争の裏事情までも掴んでいた。

 どうやら、ライダー陣営は間桐邸を襲撃した際に資料を持ち出し、ランサー陣営は、長老の臓硯から情報を吐かせていたらしい。

 そして、彼ら二つの陣営どちらとも関わり、情報を集めたのが刀のアサシン主従。

 二つの陣営を結び付けてここまで来たのも、刀のアサシンのマスターが手を出したからだという。

 

『その様子では、君たちアインツベルンも、間桐家の凋落は知らなかったようだな』

「ええ。旧き盟友が、そんなことになっているとは、思いもよらなかったわ。それで、聖杯降臨に差し障りがあるかもしれないというのは、どういうことなの?」

「ボクたちが調べた中で、あんたたちアインツベルンが召喚した英霊に、アンリマユって名前があったんだ」

 

 ウェイバーの説明は、淀みが無かった。

 かつて、アハト翁が参戦した第三次聖杯戦争にて、アインツベルンが喚ぼうとした拝火教の邪神・アンリマユ。

 この世すべての悪を司る絶対悪が、大聖杯に留まっているのではないか、というのだ。

 

「根拠は間桐家の情報、それに時計塔のロードの見識とこいつの知識と勘だよ。まぁ、あんたらにとってこいつは憎い奴だろうけど、神霊降臨に関しちゃ一家言ある家の当主なんだよ、これでも。こんなぽけぽけでも」

「ウェイバー、ぽけぽけはひどくないか?」

「うるっさい。それからもう一つ、聖杯が最初に選んだ七人目は、こいつじゃなくて、連続殺人犯だった。召喚されかかってたのも、恐らく反英霊のサーヴァント。……聖杯がマトモなら、もっと正純な英霊が喚ばれるもんじゃないのか?」

「召喚キャンセルして正解だったねぇ。でないと、怨霊に出会う羽目になってたよ」

 

 呑気に構える繍だが、アイリスフィールはそれどころではない。

 そもそも、本来なら聖杯戦争に反英霊、つまり悪行を成したことで結果的に人々を救い、英霊へと昇華された者は、喚ばれないはずなのだ。

 聖杯の異常、など考えたこともなかった。

 だが確かに、第三次は途中で聖杯の器が破壊されたために、儀式として失敗した。それを補うために造られたのが、アイリスフィールというホムンクルスである。

 失敗し、根源に至る孔を穿つ為に使われることなく、大聖杯に溜まったサーヴァントの魂。

 それがもし、どうしようもなく汚染された代物だったとしたら。

 

 ─────大聖杯そのものが、穢された?

 ─────じゃあ、切嗣の願いは?

 

 彼が、この戦いに賭けたもの、アイリスフィールが彼と愛娘のためにと決意したこと。そのすべてが、無駄になってしまう。

 

『どうなのかね、アインツベルンの名代』

「……待って、少し考えるわ」

 

 そう答えた時点で、アイリスフィールは疑いの念を晴らせないと言ってしまったようなものだ。

 セイバーに尋ねたい。この疑念を晴らさなければ、戦えなくなる。

 そう思って、アイリスフィールがサーヴァントたちの問答へと目を向けたときだ。

 

「戯れはそこまでにしておけ、雑種共」

 

 傲慢な声の主が、圧倒的な気配を持つサーヴァントが、庭園に降り立つ。

 黄金の甲冑に身を包んだ英霊を見とめた瞬間、アサシンが唸り声を上げた。

 

「なんで、あん男がここにおるがじゃ」

「オマエらがいないときに、ライダーが街中で声かけて……。本当に来るのかよぉ」

「王様らしいから、王様問答に欠席するわけないじゃないか。ウェイバー、アーチャーに声かけてるんなら言えよ」

 

 アサシンのマスターが、刀を抱え直す。

 獣のように唸るアサシンに向けて、彼ははっきり首を振った。

 

「動いたら駄目だ。彼、君が殺そうと思ったら殺しに来るよ」

「マスター」

「駄目なものは駄目だ。刀は返さない」

 

 胸の前で抱き締めるように刀を離さないマスターに、アサシンは諦めたように肩をすくめた。

 

「ほう、野良犬とその主も来ていたのか」

 

 だが、それで済まさないのがアーチャーである。酒の入った盃を揺らしながら、彼はアサシンに嘲笑を含んだ目を向ける。

 

「綺礼はやはりしくじったか。そこな雑種を問い殺す勢いだったが、まんまと逃げられていたとはな」

 

 びくり、とアサシンのマスターの肩が小さくはねた。

 綺礼とは、あの言峰綺礼のことだろう。

 切嗣に執着する素振りを見せ、城では髑髏のアサシンを救援に差し向けて来るという、不気味な行動を取る神父である。

 その彼と、刀のアサシン主従に一体何の因縁があると言うのだろう。

 

 アイリスフィールの戸惑いには気づかず、少年のマスターはアサシンの腕を掴んだ。彼のサーヴァントは、アーチャーを睨み殺しそうなほどの眼光を放っていた。

 

「やめろ、アサシン。それ以上動くなら、ボクは君に命じなきゃならないよ」

「マスター」

「死にたいのか」

 

 主の放つ低い声に、アサシンはようやく元の通り腰を下ろす。

 それを見て、アーチャーは鼻を鳴らした。

 

「詰まらぬな。だが狗使いよ、心せよ。貴様の元には、いずれ綺礼めが問いを投げに来るぞ。たまさか言い当てられた己の本質の片鱗に、随分と執心していた故な。奴の求道に、貴様が潰されるならば、その様は良い見物になろうさ」

 

 盃を掲げ、愉快で堪らないというふうに呵々大笑するアーチャーである。

 アサシンは歯を噛み折りそうなほどだった。膝の上の拳には、血管が浮き出ている。

 だが、彼は耐えた。やめろ、というマスターの言葉に従う。

 アサシンの腕を押さえていた、彼のマスターの手が離れる。

 ライダーが、呆れた目をアーチャーに向けた。

 

「そこなマスターと刀のアサシンは今は捨て置け。ここは王の為の宴だ」

「急くな、雑種。宴の席には、道化の余興が付き物であろう。あの野良犬とその主は、そういう類の玩具だ。先日、我が決めた」

「……アーチャー、それは」

「なんだ、気に食わぬのか、セイバー。次は貴様が王を語る番であろう。我と征服王の王道を否定するならば、当然、それなりのものを見せるのであろうな」

 

 それきり、アーチャーは興味を無くしたのか、セイバーへと向き直る。刀のアサシンのマスターの肩から、力が抜けた。

 尚も続く王同士の問答を聞きながら、アサシンのマスターは深いため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 





王様問答、不参加。人斬りと神職には畑違いも良い所。
そして日本人故、まぁまぁ童顔に見られた話。

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