異世界行ってダークエルフの高級娼婦で童貞卒業   作:あじぽんぽん

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第12話 ダークエルフの高級娼婦

 王都外門近くの通りの一角に、多くの露店が所狭しと立ち並んでいる。

 その場所は王都に住まう者や遠くから来る者、商売人などの様々な人種の者達が入り混じり活気に満ち溢れていた。売り子と買い手のやり取りする声がひっきりなしに聞こえて中々に騒がしい。

 悪く言えばごみごみとして雑多だが、この風景は嫌いではない。昔は人混みに入るのだけでも億劫だったんだけどね。そんな喧騒の中をカオルと二人で歩いていた。

 

「ヒイロ~、調味料は問題ないと思う。次に行っていいかな?」

へい、お母さん(イエスマム)。いつでもどこにでもどうぞ!!」

「うふふ、ありがとうお父さん、いつもいつも助かっております」

 

 そう冗談交じりにお礼を言う笑顔のダークエルフ美女。

 

 本格的に館での生活を始めるにあたり足りてない品などを買いにきていた。

 通常の買い物などは中央の商店街で買ったほうが早いが、露店の市は売り出す品物の種類が豊富で掘り出し物などを探すのにも向いている。もちろん怪しい物も多く、玉石混交としているので一定の目利きができることが前提だが。

 

「う~ん、夜寝る時の虫よけのお香、これとかどうヒイロ?」

「あまり匂いがきつくないものなら何でもいいかな、カオルに任せるよ」

 

 露店に置いてあるお香の煙を手で嗅ぐカオル。俺の投げやりな返答に仕方ないなぁと呆れ顔を見せるも長耳の動きから判断するに楽しんでいるようだ。

 彼女はかなり目利きである、それは前職で多くの優れた物、高級品を見てきた経験が生きているのだろう。先日の館購入時の商人とのやり取りや、その他のもろもろでもカオルとイズミの優秀さは身に染みて理解できる。

 

 少なくとも生きるということ関しては俺なんかより遥かに有能だ。むしろ俺は戦う以外はこの世界において無能と言っていい、何しろ自分一人では飯を作るどころか一般人としての生活すらも困難なのだ。あの我が道を行く外道の魔女でさえ自活する力は十分に持っているというのに。

 

「これからの時期は毎晩四人分(・・・)必要だからね、数種類買ってきて好きな物を使ってもらおうかと思うのだけど、どうかなヒイロ?」

「四人分……う、うん、それがいいんじゃないか」

 

 館の住人は五人……ははは。

 

 露店の店主と話をして値段の交渉をしているカオル。

 店主は強面の逞しい中年の男だが、類を見ないカオルの美貌に対してひどくデレデレになっている。どの世界でも男が美人に弱いのは一緒だな。その逆も然り……だよな? それを横目で見ながら俺は思い出していた。

 

 ――――

 

 あの後、一晩を過ごした俺とアユムを待っていたのはカオルだけではなくイズミもだった。そして二人の足と足の間から顔を覗かせた魔女がニヤニヤと笑っていやがる。コノヤロウって睨みつけてやった。

 

「くひひひひひ」

 

 キシシと嗤われる。魔女は嘘をつかないが人を騙す……どうやら幼女(ポー)が裏切ったらしい。

 

 焦る俺は疚しいことは何もしてないけど正座したまま必死で言い訳……いや事情を説明した。しかしもう一人の当事者であるTS少女アユム君は一切弁明をせず俺の背中に寄り添うように隠れて、俺のシャツを両手でキュとつかみ何故か恥ずかし気にうつむいている。

 

 止めろ馬鹿、何でそんないかにも事後ですって勘違いさせるような仕草をしてるんだ!?

 

 気がついたら顔の前に、清楚系美少女イズミの太ももがあった。

 彼女は腰に手を当てて至近距離で俺を見下す。ミニワンピースから伸びるしなやかな足とその根元に見えるのは()ぽい何か。……ビッチ臭漂うエロフは大きく腰を曲げ前かがみになると、俺の首元を犬のようにクンクンと嗅いでいる。

 香る良い匂いと重力に従うおっぱいのたぷたぷした動きに少し鼻が伸びるのは男としての致し方ない生理現象……アユムに脇腹を強く抓られる、君なんなのさっきから!?

 

「はい、童貞ですね!」

 

 頬を染め長耳をぴんと立てた白エロフに判定された。清楚系ビッチは美麗な鼻を得意げにスピスピとさせている……ビッチだと匂いで童貞がわかるの?

 イズミの言葉に魔女が深いため息。安堵のため息ではなく何やっているのコイツ的な感じだ。状況を全く飲み込めない俺にカオルが苦笑しながら説明してくれた。

 

「ごめんね、ヒイロがアユムちゃんに手を出したのなら、私達も遠慮する必要がなくなるかなって少しだけ期待していたの……でもヒイロの忍耐力は想像以上だったね」

 

「忍耐力ですか? カオルさん違いますよ、ヒイロの場合はそのような上等なものではなく、ヘタレなだけですよヘタレ。このヘタレのイ〇ポ野郎!!」

「ワシの裸を見ても中々おっききしなかったし、ひょっとして男としての機能に何か問題があるんじゃないかのう? どれ、将来のためにもワシがナニ見てやろうか?」

 

 言いたい放題だなお前ら、というか色々な意味で酷いし、おかしいぞ。

 

「ま、まあ……みんな平等でというなら、少し嫌だけど別に、うん」

 

 アユムよ、お前も頬染めて何言ってやがる!?

 

 それから……公平を期すため、俺は四人の女性と日替わりで添い寝することになった。アユムは魔力補充のため定期的にベッドを一緒にする必要があるだろうが、他の者はその必要はないはずという俺の反論に対して。

 

「あれあれ、ヒイロ。私達を拾ったお人形さんのように飾ったまま、お婆ちゃんにするつもりなの? 男としての最低限の責任は取って欲しいかな?」

「そうそう、わたくしは貴方に体を買われたのですからね。もちろん、わたくし達から手を出すつもりはないですよ?」

「ワシは、出すものさえ出してくれればそれでかまわのじゃ、出来た子供は自力で育てるしのう、くふふふふふふ」

「本当は嫌だけど、嫌だけど、みんながいいって言うなら僕もそれで構わないよ」

 

「あの……俺の意見は?」

 

 四人に無言で見つめられ、威圧感にビビって俺は無言で土下座をした。

 

 世の中のハーレム主達は一見ブイブイ言わせているように見えて、裏ではこのように女達から好き放題に言われて胃が痛くなるような毎日に耐えているのだろうか……すげえよ奴らマゾなの?

 俺は数時間にも渡る話し合いと泣き落としの末、安息日を一日勝ち取ることに成功したのだ。

 

 ――――

 

 買い物を済まして食事に来ていた。

 

 俺の顔なじみが開いているお店、魔王討伐戦の際に一緒に旅した男が経営している料理店だ。あの面子の中じゃ俺や魔女にも比較的親切にしてくれたヒゲ面の豪快な大男で、その縁もあって開店した時に毎日通っていたら常連となっていた。

 

 久しぶりに会った彼に挨拶とカオルの紹介をする。彼はカオルを見て目を丸くして驚き、そして大笑いしながら俺の背中を叩き茶化してきた。いやまて、美人の嫁さんって何だ……カオル、お前もにこにこしながら「いつも主人がお世話になっております」って素で返すんじゃないよ。

 それから案内されたのは外の風景が見える落ち着いた雰囲気の個室。

 あのヒゲ親父、変に気を使いやがって……そう悪ぶりつつも心の中でありがとうネと感謝する俺は根っからの肝の小さい日本人だと思う。

 

「ふふ、面白い人だね?」

「まあ……愉快な人ではあるよ」

 

 料理が来るまでの暇つぶしに、旅の間の親父の(・・・)面白失敗話をカオルに話してみることにした。目を細めて楽し気に聞いていた彼女が口とお腹に手を当ててクスクスと笑い出す。

 

「ん、そんなに面白かった?」

「あ、違うの。ヒイロがそんな風に昔の旅のことを話してくれるのが珍しかったから嬉しくて、ついね」

「……そうだったっけ?」

「うん、そうだよ」

 

 そう言ってお淑やかに笑うカオル。

 彼女の穏やかな顔を見ていると、この世界に来てからのことを全てを話そうかと考えてしまう。あの旅は今でもたまに夢に出る。色々と後悔はあるが他人に責任を押し付けるつもりはない、流されたとはいえ最後は自分で選んで決めたことだから。

 

 それでも俺がやってきたことを日本人の同胞に告白するのはやはり怖い。

 

「どうしたのヒイロ?」

 

 俺が見つめていることに気づいたのだろう、カオルが疑問の表情を浮かべる。

 

「んにゃ、なんでもないよ」

 

 笑いながら首を横に振った。

 カオルは多分、全てを受け止めてくれると思う。

 全身全霊で受け止めてくれると思う。

 でも俺は……。

 

 丁度いいタイミングで料理が運ばれて来る。持って来てくれたのは綺麗な女性。お腹が膨れているからおめでたなのかな……え、ヒゲ親父の奥さん? ……いつの間に結婚していたんだ奴は。

 奥さんと楽しそうに話をするカオル。俺に対してさり気なく左手をアピールしているのが何だか意味深だった。

 

 下手な考え休むに似たりかな?

 

 件のヒゲ親父も来やがった、今日はお店を閉めたって……。

 親父が旅の間の俺の(・・)失敗談を面白おかしく語ってくれた。

 カオルがまたクスクスと笑い、俺は悔しくて親父をキッと睨みつけた。

 

 俺達は四人で騒がしくも楽しく食事をしたのだ。

 

 

 

 夕暮れ……街を行き交う人々は家路を急ぎ、お腹を空かせた子供達が走って行く。

 平凡な光景だ。俺が、俺達が勝ち取った何気もない平和な日常。

 館に入る前の路地で、ぼんやりと立ち止まり見ていたら手を取られる。カオルが俺の腕に抱きつき緩く微笑んでいた。

 

 なんだろう……どうしよう困った、どんどん切なくなってくる。

 まるで高級娼館に初めて行った時の心境だ。

 童貞を卒業したかったのか?

 それは……違う。

 魔王がいなくなって俺の役目が終わって、でも日本には帰ることが出来なくて、その後に色々なことをやったけど全然上手くいかなくて、ずっと一人ぼっちでさ。

 この世界に一人でいることが寂しくて寂しくて、どうしようもなく寂しくて人肌が恋しかったんだ。ここに俺がいるってことを誰かに確認して欲しかったんだ。

 

 ああ、お金を払ってでも誰かに頑張ったねって褒めて欲しかったんだよ。

 

「あのさカオルさん(・・)

「なんですかヒイロさん(・・)?」

 

 ダークエルフの彼女は悪戯な笑みを浮かべている。

 前世のキモデブの顔は随分前から思い出せず浮ぶことはなかった。

 アユムに手を出せなかったもう一つの理由、それは彼女。

 本当に綺麗で素敵な人だと思う、俺なんかには勿体ない程の……でも、だからこそ欲しくなって無意識に言葉がこぼれていた。

 

「キス……していいかな?」

 

 カオルは驚きを見せたが、再び微笑んで静かに目を閉じてくれた。

 夕日に照らされて伸びる俺達二人の影がゆっくりと一つになる。

 

 こうして俺はダークエルフの元高級娼婦でファーストキスを卒業することができたのだ。

 

 

 ふと思う、カオルと……彼女達とこの世界で巡り会えたのは神様の思し召しだったのかなっと。まあ、俺達が遭遇した神様はかなりの性悪そうだが……。

 

 

 

 この後、館に入った途端に三人の女からキスをせがまれた。

 キシシと愉快げに嗤う魔女……幼女めっ貴様見ていたな!?

 




第一章終了です
ほんの少しだけタイトル回収

ライブ感覚の話をここまで読んでいただきありがとうございました

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