異世界行ってダークエルフの高級娼婦で童貞卒業   作:あじぽんぽん

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主人公は真剣です


第3話 森の乙女の接吻

 判決が不服ならギルド立会いの下でルールに乗っ取った決闘をする。

 これは冒険者ギルドが出来てからの伝統らしい。

 

 訓練場のやや硬い土の感覚を膝下で感じる、顔には罪人のように袋を被されて何も見えない。しかし問題は無かった。魔の者との戦いで目を潰されたり、姿の映らない透明な相手と戦ったこともある、視界の全く効かない戦闘は初めてではない。

 ふふ……戦いの中で研ぎ澄まされ完成された俺の護身、現代格闘技をベースに作られた対魔格闘術【カラヌ】は、この程度で使えなくなるほど安くはないのだよ。

 

 決闘前、一流の武道家のように精神を集中する。

 不本意な決闘だがやるからには全力を尽くすのが武士。

 既に覚悟は決めている……何が何でも勝つ、彼のためにも!

 

 そんな亀甲縛りのまま正座をする俺の前に歩み寄る人の気配がした。

 この感じは……。

 

「あの……ヒイロさん。その……さっきは色々とすいませんでした」

 

 クロウ少年だった。

 俺は精神統一をやめ静かに顔を上げる。

 

「俺、田舎から出てきてあんな綺麗な人は見たことなくて……女の人を好きになったのも初めてで……イズミさんに振られてどうしていいのか分かんなくてなって……言うつもりはなかったのにヒイロさんに八つ当たりして……まさか、ここまで大事になるとは思わなくて……」

 

 俺に噛みついていた時の元気はどこにやら、意気消沈しポツリポツリと語る少年の声。

 ……何度も騙され裏切られ、人の裏側を見てきた身だ。

 彼の声質からは自分の行動を悔いていることがよく分かる。まあ、本気で(・・・)好きになった相手だったら、一度や二度断られてもそう簡単に心は切り替えられないよな。

 そして彼なりに自分の気持ちを考えたのだろう、意固地になるでもなく、こうやって素直に謝罪できるのだからクロウ少年の気質はやはり真っすぐのようだ。

 

 ふと俺は、彼と同じくらいの年の頃はどうだったのかなと考えた。

 

 思い出したのは相手のことを決して認めず考えず、尖ったナイフのように傷つけ、自らの存在を示すことだけが全てだった……ネットゲのBBS戦士時代だ。

 

 レスバトル中に論破されそうなったんで、父さんの携帯を使って援護レスつけたら本人乙って特定されてね。しかも父さんがカキコしてた不倫板の全レスまでばらされてさ、それをたまたま母さんに見られて危うく鈴木家崩壊一歩手前までいったんだよ……ふふ、懐かしい、俺も若かったな。

 

 クロウ少年に顔を向けて深くうなずいた。

 

「ふもーふももふもー(気にするな、若い時に感情に任せて動くのはよくある事さ、そうやって失敗から学んでいくのも若さの特権ってやつだ)」

「何言ってるのか分からないけど、ありがとうございます。あと俺こっちです」

 

 顔を向けた方向とは逆からクロウ少年の声がした。

 俺は正座したまま飛び上がり、彼のいる方に空中転換。

 少年の後ずさる気配がする……少し恥ずかしかった。

 

「フガーフガーフランケン(それに俺もいい大人なのに堪え性がなかった。たかだか息子の成長具合を指摘されたくらいで大暴れするほど切れるなんて、たかだかチン長程度で……切れ、切れるなんて……いい大人が、が、が…………く、くそがきゃぁ!!)」

「ごめんなさい! ごめんなさい! 何言ってるか分からないけど、怖いんで殺気放たないでくださいっ!?」

 

 

 

 ギルド内でのクロウ少年の俺に対しての侮辱発言。

 そして俺のクロウ少年への暴行未遂とギルド職員と冒険者への暴行行為。

 

 ギルド長によって下された判決は喧嘩両成敗だ。

 

 討伐依頼などの多くは命がけの仕事である。命のやり取りなどしていれば気性も荒くなる。冒険者ギルドのほうも、あくまで仕事を仲介しているだけの立場なのでトラブルは個人で片付けてくれということだ。

 

 ただし殺傷沙汰になれば警備兵が来て面倒になるから、冒険者ギルドの中での喧嘩は御法度。それでもやりたければ外に出てご自由に……かつてはそうだったらしい。しかし街中で喧嘩をすれば、やはり警備兵が来て仲良く牢屋に入れられるのは火を見るより明らか。そこで始まったのが、ギルド立会いの下での訓練という名の決闘であった。

 

 ところが、ここで問題になるのが決闘する者同士の強さ……魔力の差である。この世界での強さの基本は魔力の量だ。これは肉体の大小より遥かに大きい。元の世界で例えるなら魔力を持つ者と持たない者の差は、生まれつき拳銃を所持しているかどうかというほどなのだ。

 

 そこでギルドから提案されたのが、魔力を低く抑制する魔道具を使っての決闘。

 

 魔力が同じならば、あとは鍛えた肉体や技術での戦いになり、修練によって積み上げたものが意味を持つそこそこ公平なルールというわけだ。ギルドとしても訓練という名目なので高い魔力持ち同士の戦いでミンチよりヒデェは出したくないし、冒険者達としても勝負がすぐについたら盛り上りに欠けるということで合意したらしい。

 

 盛り上り……騒がしい訓練場の雰囲気からしても分かる。オッズは3:1か。

 

 しかし今回の場合、更なる問題なのが魔力抑制の魔道具。元々は古代の魔法帝国時代に作られた罪人用のチョーカーなのだが、困ったことに俺の体には全く効果なかった。そう、神様作製の特殊ボディはありとあらゆる魔法を弾いてしまう、ある意味で欠陥ボディだからだ。

 

 結果ハンディをつけるために俺は縛られ五感も半分は封じられたというわけだ……こんな格好みっともないしギルド長には戦いたくないですと散々駄々をこねた。

 というかその前に暴れてすっきりしたし、クロウ少年も戦意喪失してるので期待している皆さんには悪いけど喧嘩両成敗でイイっす。フヒヒっサーセンになってたんだ。

 迷惑をかけた人達には酒の一杯でも奢りますで手打ちになるはずだったんだよ。

 

 ところがそんなやり取りをしている最中、イズミがとんでもないことを言いだした。

 

「決闘の賞品として勝った方には、わたくしがキスをしてさしあげますよ?」

 

 肩越し振り向き尻アピールのセクシィポーズを決めながら言いやがったんだ。

 俺の顔をみて舌なめずりしニタリと笑いやがった……。

 

「い、いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 俺は口を押えて甲高い悲鳴を上げた。

 頭を抱えて机に突っ伏し、仲間達に慰められていたクロウ少年が凄い勢いで立ち上がった。

 小娘リコットが黄色い声をだし飛び跳ねた。

 

 そこからの展開はあっという間だ。

 冒険者ギルド中で歓声が上がり、冒険者達によって決闘のための準備が手際よく進められていく。普段は個人主義な連中なのにこういう時の手際の良さはなんなのもう。

 

 カオルには優しく微笑まれ、頬を膨らませたアユムに何度も肩パンされた。

 

 ちなみに俺を亀甲縛りにしたのはビッチ。

 鼻の下を伸ばし、はぁはぁと興奮していて怖かった。

 

 ダンディなギルド長に皆を説得するように必死に泣き縋った……しかし「いやこれ、止めるの無理でしょう」と首を横に振られ、冒険者達の「やるよね?やるよね?」といった強い同調圧力に右ならえ主義の俺はあえなく屈してしまったのだ。

 

 

 ようやく悟る……鬼畜エロフの罠に完全にはめられたことに。

 

 俺が勝てばヤツのことだ、公然の面前でも……いやそれを理由にしてディープなやつを仕掛けてくるに違いない。

 以前された酸欠寸前の吸引キスに恐怖がぶり返した。

 そう、恐ろしいことにそれが結構気持ちよかったんだ……。

 まるでラフレシアのように捕らえた獲物を少しずつ溶かす蠱惑的な花。

 カオル達が止めてくれなかったら、そのまま個室までお持ち帰りされていたところだろう。

 

 最近気づいた……生前と同じく、白エロフは俺を貶めることに喜びを感じている。

 

 ならば、わざと負けるか……ありえない、俺は元勇者だぞ?

 俺が負ければ一人の少年の輝かしい未来が断たれかねないんだ。

 

 守り切れなかったあの女の子と子犬、ヒイロお前はまた一生後悔することになるのか?

 

 勝っても地獄、負けても地獄……まさに生前の鬼畜イズミの名に相応しい所業。

 ああ、覚悟は決めた、ならば前に進み自ら地獄に堕ちていくだけよ。

 

 こうして俺はクロウ少年を守るために、ビッチなキスを賭けて決闘をすることになったのだ。

 




現代格闘技をベースにヒイロによって作られた、対魔格闘術【カラヌ】
ベースとなった格闘技は酔拳(ジャッキー)です

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