異世界行ってダークエルフの高級娼婦で童貞卒業   作:あじぽんぽん

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第4話 それからそれから……。

「では、始まる前にルール説明だ」

 

 その声に訓練場が静まり返る。

 決闘の立会人……審判をしてくれるのは古参の冒険者の一人だ。

 

「まずは、クロウ。お前はヒイロに一発でも有効打を当てることができたらそれで勝ちだ。判定は俺がする」

 

 空気の流れ……模擬訓練用の刃を潰した鉄剣を持ったクロウ少年がうなずくのを感じた。

 

「そして、ヒイロは時間切れまでクロウの攻撃から逃げ切ること。攻撃は一切認めないが、それ以外の接触なら問題はない。ただし拘束具を引きちぎったらその時点で負けだ」

 

 俺もうなずいた……罪人袋を頭に被せられたまま。

 こんな亀甲縛りされた変態さん状態でも俺はクロウ少年を殺せる……ゆえに手出しは一切しないことになったのだ。それに俺は変態さんじゃない。

 

「魔力の使用に制限は掛けない。勝負時間は、この砂時計の砂が落ち切る十分ほどだ。互いに全力を尽くせ……以上だっ!!」

 

 二人して同時にうなずく……決闘開始の合図が響いた。

 途端に訓練場が大きな歓声に包まれる。

 

「二人とも頑張れー!」「ヒイロー怪我しないでね!」「おらおら、お見合いしてないで始めろー!」「鈴木ー負けるなー勝てー!」「クロウー回り込んでいけ!」「二人とも無理しないようになー」「勝者には熱いキスをさしあげますね!」「気合い入れていけー!」

 

 雪崩のように聞こえてくる応援の声……正直に言うと悪くはない気分だ。

 時代劇の石を太ももの上に乗せる拷問を受ける人のように縛られてるけど。

 

 俺が冒険者ギルドに来て驚いたこと、それは冒険者である彼らは良くも悪くも単純ってことだ。

 勇者の一団にいた時はある事件から村八分にされて無視された。

 何度も中学生かよこいつらって思ったくらいで……温厚で心が広く大人な俺でも泣きながら復讐手帳を書いたくらいだ。

 

 しかし冒険者達は違う、怒りを覚えれば口に出して言うし、嬉しいことがあれば手を叩いて喜ぶし、感動すればいがみ合っていても抱き合って互いに褒め称える。

 実力主義、そこに過去なんて関係ない、詮索もしない。

 そして酒を飲みアホみたいに毎日騒ぎまくる。その生き方は愚かかもしれない、刹那的かもしれない、でもありのまま人生を謳歌しているといえよう。

 

 毎日命がけだから彼らは知っている、取り繕うことや拘ることの無意味さと愚かさを。だから俺にとって冒険者の生き方は性にあってるし心地よいと思えるのだ。

 

「クロウー!俺が許可する!そのヘナチン野郎を殺しやがれ!」「死ねーヒイロ!美人な嫁を三人も貰いやがってこのやろう!」「てめぇは前から気に入らなかったんだ!無様に負けろ、そして死ねー!!」「くそハーレム野郎が! 腐り落ちろぉ!!」「死ね!死ね!とりあえず死ね!!」

 

 俺は正座したまま飛び跳ねて威嚇した。

 キシャーと威嚇した。「キモッ!?」という声。

 この底辺カス冒険者どもが!!

 

 そんな茶番をよそにクロウ少年が近づいて来る。

 俺は一切その場から動かず座したまま彼を待った……亀甲縛りされた縄が股間に食い込んでちょっといい感じだ。

 

 肌に感じる、呼吸、足を踏みしめる振動、空気の流れ。

 耳に聞こえる、腰を落とした動き、剣を高く振り上げた動作。

 クロウ少年は小細工なしに正面から攻撃を仕掛けてきた。

 その思いっきり嫌いじゃない、動きも荒いが悪くはない……だが。

 

 縄が内圧で千切れない程度に、ほんのわずか魔力を解放する。

 

「なっ!?」

 

 亀甲縛りで正座したまま、スッーと半歩横にずれた。

 少年が振り下ろした剣先が地面に食い込み訓練場の硬い土が抉れる。

 

 クロウ少年の視線を感じ静かに顔を上げた。

 

 渋川剛〇先生のように黙して悠然と座る俺と、慌てて後ろに下がる少年。

 人体構造すら無視した動きを可能とする、これが魔力という謎力だ。

 

 途端に上がる大歓声。

 しかしその大半が俺に対しての野郎どものやっかみの罵倒だった……お前ら・そんなに・オデが憎いのガ!? オデが羨まシいのガ!?

 

 驚きで目を見開き動きを止めたクロウ少年だが、歓声に我に返り再び俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

 背面からの攻撃、コテンと転がって回避する。

 フェイントを入り交ぜた連撃、独楽のように回転して回避。

 体ごとの鋭い突き、魔力で重さを消し、飛び上がって避ける。

 

 そのまま剣の上にベガ様のように乗っかった。

 ただし足ではなく逆さ正座になって頭でちょこんと。

 罪人袋ごしに見つめ合う俺と少年。

 クロウ少年の悲鳴が上がる、観客席のほうでも大きな悲鳴が上がった。

 

 冒険者達から湧き上がる、キモイキモイの連呼の嵐。

 

 すいませんが皆さん、キモイ呼ばわりは止めて頂きせんか?

 余裕そうに見えてこれでも必死なんですよ、色々な厳しい制約の中で全力を尽くすエロ漫画家みたいに必死なんですよ。一般誌ではオッパイの大御所とか言われている作家が、同人誌だと性癖全開のロリ幼女もの描くとか言うあれですよ。

 そりゃ縛られ顔に袋を被って正座したまま、くるくると動き回っていたらキモイと思うけど……じゃあ! じゃあ! この状況でどうしろっていうんですか僕に!?

 

 俺は罪人袋の中で泣いて切れながら、クロウ少年の攻撃を回避し続けたのである。

 

 

 そして特に何も見どころはなく時間は過ぎた。

 クロウ少年が地面に剣を突き立てる。

 

「勝負は終了だ! 勝者、ヒイロ!!」

 

 審判の冒険者が手をあげ宣言した。

 結局、クロウ少年の剣は俺に一回も当たることはなかった。

 

「あ……ありがとうございました!!」

 

 荒い息と共に吐きだされたクロウ少年の言葉。

 膝に手を当て呼吸を整えているのが分かる。

 疲労交じりだが彼なりに全力をだしたのだろう、声質は気持ちのいいものだった。

 

 俺は正座で軽く空中浮遊したまま、うむと、うなずいた。

 すとんっと地面に降りる。

 戦った者同士で多くの言葉は無用だろう。簡潔に声をかけることにした。

 

「フガーフガーフンガー(ナイスファイトだ。まだまだ粗削りだが悪くはなかった。ただ、剣を振り切った時の戻しが0,2秒遅い。何度も素振りして克服したほうがいい。それから横振りする時に体が明らかに付いていってない、筋トレをして筋肉をつけたほうがいいな。ああ、筋トレだが全身運動をする水泳がいいが王都だと難しいだろう、基礎体力をつけるランニングから始めることをお勧めする。それから……)」

 

「い、言っていることは分かりませんが、ありがとうございました!?」

 

 周りでは俺達を褒め称える歓声が上がっていた。

 フフ……その大半は俺に対しての怨嗟の声だが、賭けに負けた連中の惨めな泣き声は非常に心地が良い。

 

「ヒイロー!」

 

 ゆっくり歩いて来る足音が二つ……カオルとイズミだな。

 そして小走りで駆けてくる武道経験者特有の足音は……アユムか。

 

「鈴木、今解くよ」

「フガー(いつも迷惑かけてすまないねぇ)」

「それは言わないって約束さ」

 

 罪袋も取ってくれた。ふー熱かった。

 

「お疲れさま~ヒイロ」

 

 カオルが微笑みながら俺の頭に手拭を掛けてくれた。

 いつもならそのまま拭いてくれそうだけど、人の前だしな。

 それに……。

 

 少年とエルフの少女が静かに見つめ合っていた。

 

「イズミさん。俺……」

「……はい」

 

 沈黙……なんだろう、こういう状況の時に思い出し笑いどころか、一発ギャグをしたくなる俺は人として何か欠けているのだろうか。

 やがてクロウ少年はイズミに無言でお辞儀をすると踵を返して去っていく。

 

 彼が見せた表情は耐えるもの、しかし同時に……。

 

 訓練場の周りにいた冒険者仲間に、肩や頭を叩かれ健闘を称えられている少年の後姿を俺は見送った。

 

「ふふ、彼は人として強くなりますね?」

「ん、そうだな……」

 

 俺は地面にだらしなく胡坐をかいたままイズミの声に返す。

 そう、クロウ少年の顔は男らしい晴れ晴れとしたものだったのだ。

 そして横に立つイズミを見上げて……清楚系ビッチはチェシャ猫のように笑っていた。

 

 ……あっ!?

 

「それでは、決闘の勝者には……約束通り賞品を!」

「ぎゃあっ!?」

 

 イズミに抱きつかれ悲鳴をあげる。

 そういえばそうだ、忘れていた!?

 俺はそのために……目の前の悲しみを消すために戦っていたというのに!?

 

「あら、失礼ですね……わたくしから口づけを授かる名誉を得られるのは、世界広しといえど貴方だけですよ?」

 

「ひゃぁ……ひやぁぁぁぁ!?」

 

 魔の吸引キスを思い出し、ぷるぷるとチワワのように震える俺。

 救いを求めカオルとアユムに視線を送ったが、ダークエルフの美女はニコニコと微笑み、サキュバスの美少女はふくれっ面であらぬ方向をむいていた。

 

 埒が明かないと思ったのか「もう」と耳元の髪をかきあげ顔を近づけてくる白エロフ。

 ああ、その顔は、透明な雰囲気をまとい清楚で可憐で本当に美しいものだけど……だ、だけどさぁ!?

 

 い、いやぁ、お、お母さ――!?

 

 ――ちゅっ。

 

 頬に軽くキスをされた。

 

「……あれ?」

 

 驚き、見上げる俺に、唇に指をあてウインクをするイズミ。

 

「ふふ、勝者への賞品ですからね、頬にするのが妥当でしょう?」

 

 そして、満面の笑みを浮かべるエルフの美少女。

 

 …………ああ、ちくしょう。

 

 不本意ながらまた、彼女に見惚れてしまったのだ。

 そんなイズミにふと思った。

 もしかして俺とクロウ少年を決闘させようと仕組んだのは……。

 

「なあ、イズミ……」

「なんですかヒイロ?」

 

 それは、禍根を残さないため……クロウ少年のことも考えて?

 

 俺の視線から清楚なエルフの姫君は目を逸らす。

 その雪色の肌はほんのりと、そして艶やかに染まっていた。

 神の芸術家が造り上げたような……美貌と佇まいだった。

 

「そんなに熱く見つめられると、誘われているのかと子宮が熱くなってしまいます」

 

 清楚系ビッチエロフは鼻孔を広げ、下腹部に手を当てて腰をビッチに回転させた。

 紅潮とさせた乙女(メス)の顔、明らかに発情していやがった。

 

 ……うん、無いわ、気のせいだな。

 

 俺にねっとりしがみ付き頬ずりするビッチエロフと、そのビッチを必死に引き離そうとする小娘アユム。

 微笑ましそうに見守るカオルと顔を見合わせて、俺は体をガクガクと振り回されながら苦笑いするのであった。

 

 

 ――――

 

 

 そして翌日……今日も依頼の確認と朝食をするために冒険者ギルドの食堂に来ていた。

 

 いつものテーブルに四人で座る。

 注文を取りに来た小娘リコットが白黒エロフコンビに心にもないお世辞を言って、煽てられた二人はクネクネと踊りだす。フード付きローブを目深に被ったアユムが頬を膨らまして、なぜか俺に肩パンするといういつもの日常……のはずだった。

 

 しかしその日もいつもと違っていた。

 

「おはようございます、ヒイロさん、皆さん!!」

 

 元気に、大声で声をかけてきたのはクロウ少年だった。

 

「お、おう……おは、よう?」

 

 昨日の今日でなんか気まずい俺は、きょどり気味で挨拶を返した。

 彼からは昨日の争いの残滓は欠片も残ってなかった。

 まあ、冒険者ってそういうもの……そういうものだけどさぁ。

 

 クロウ少年に女達もにこやかに挨拶をしている……イズミも何事も無かったようにだ。

 うん、やっぱりこの中で俺が一番コミュ能力が低いのかもしれない。

 

 そしてクロウ少年、なんと、うちの家の小娘アユムに向き直り話しかけているではないか。

 

「あの、アユムさん、昨日はありがとうございました……悔しさを感じ、素直にそれを受け入れられる人間は成長できるって言葉……本当に心に沁みました」

 

 その言葉に目深に被ったローブの中でアユムが、うんうんとうなずいていた。

 おや、いつの間に二人は知り合いに?

 

「あ……アユムさんに昨日お借りしたハンカチは今洗濯していますので、明日には必ず持ってきますね!」

「ああ、大丈夫。そんなに焦らなくていいよ」

 

 二人して仲良さげに話していた。

 部活の先輩と後輩……柔道部とか、そんな感じの。

 

 うーん、恐らくだが……。

 

 あの後、夕暮れの訓練場……その片隅で負けた悔しさに一人エンエンと泣くクロウ少年。

 それをたまたま見つけた、TS少女アユム君。

 男前の小娘はほっとけずに声をかける。

 そしてアユムは、元武道男子らしいアドバイスをしてあげ、涙を拭くためのハンカチを渡してあげた……ってところだろうか?

 

 うん、あり得そう。

 

 なんか面白くなく二人をジットリと見ていたら、突然クロウ少年が姿勢を正し、そして男らしい真剣な表情を作る……凄く嫌な予感がするのですが?

 

「そんなアユムさんの優しさに惚れてしまいました!! ……お、俺と付き合ってください!!」

 

 ギルド内に響き渡るほどの大声だった。

 食堂は一瞬で静寂に包まれる。

 冒険者達の視線が俺達に……俺に集まった。

 

 TS少女アユムが冒険者のクロウ少年に告白されたのだ。

 

 カオルを見ると、彼女も驚いていた。

 その隣のビッチも、やはり驚いていた。

 最後に小娘アユムを見ると、目深に被ったフードの奥で口を開けて驚いている。

 

 アユムに見返された……その目が、どうしようこれって言っていた。

 

 俺は咳払いをする、そしておもむろに少年に声をかけた。

 

「あークロウ君」

「はい、なんですかヒイロさん!」

 

 クロウ少年は非常に元気な声だった……。

 

 初失恋を経験した少年は、次の日には新しい恋を見つけたようだ。

 そのエネルギィ、若さは褒められるべきものだと思う。

 むしろ羨ましいと思えるくらいだ。

 

 しかし……しかしだよ……クロウ君……君ね。

 鈴木家の三女アユムにだね……俺の前で告白するってのはだね……。

 

 瞳が怒りで充血し真っ赤になるのを感じる。

 俺は静かに立ち上がると、娘に手を出そうとする、ふてえ野郎をキッと睨みつけた。

 

「貴様のようなどこの馬の骨と知れぬ男に、うちの家の大事なアユムは絶対にやらんわ、くそがぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 テーブルをひっくり返し、指を突きつけ宣言してやったのだ。

 その後、再びクロウ少年と決闘することになるのだが、それはまた別の話だ。

 




突然ながら、ここで終了とさせていただきます。

返信はしていませんが感想は全て読ませて頂きました。
作品への指摘は本当に参考になりました。
次の創作に生かせるようにしていきたいと思います。

私の拙作をここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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