異世界行ってダークエルフの高級娼婦で童貞卒業   作:あじぽんぽん

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以前に組んだ箇条書き状態のものです
中途半端に残っていたので供養がわりに投稿しておきます
出来は御察しでs


閑話 エルフの女王アイナノア

 その日、世界樹を基盤としたエルフの国に魔族達が戦をしかけてきた。

 アイナノアは護衛の兵士に囲まれ、敵情視察に戦場にきていた。

 眼下の平原に広がるのは魔王軍、それに対抗して先陣をきる勇敢なエルフの兵士達。

 両軍から弓と魔法がはなたれ、戦いの剣戟と雄叫びがあがる。

 敵陣の遥か奥――父から鷹の目と揶揄されたアイナノアの双眼は確かに視認する。

 

 巨大な人の形をした影を……。

 

 アイナノアの夫、エルフの王は十年前に病にて死去している。

 名の知れたエルフの英雄達は、全て魔王討伐戦に参加して不在だ。

 そんなときの魔族の侵略である。

 邪悪な魔王とその一派は、今ならばエルフの国を落せると安易にそう考えたのだろう

 舐められたものだと思う。

 エルフの国の兵士達はこの程度の軍勢に敗れるほど弱くはない。

 それに、女王アイナノアがいる。

 

「女王陛下、ここは危険ですのでお下がりください。きゃつら、封印されていた巨人まで引っ張り出してきたもようです!」

 

 アイナノアの横に立つゲイル将軍がそう呼びかけてくる。

 忠義の男である。

 しかし彼の端正な顔には、王宮の小娘が邪魔だと言いたげな表情も浮かんでいた。

 咎める事はしない、武人ゆえの愚直さだ、個人的には嫌いではない。

 

「あれは……炎の巨人ですか。ゲイル将軍、あの近辺の民の避難は済んでいますね?」

「はっ、それはもちろん、つつがなく」

「ならば、遠慮なく……あれはわたくしが討ってみせましょう」

「はっ! ……えっ? あ、あの巨人を、陛下が倒すというのですか!?」

 

 ゲイル将軍が慌てふためいた。

 無理もない、アイナノアは彼の前で武を見せた事が無く、また戦場には明らかに不釣り合いなドレス姿で赴いていたのだから。

 

「ふふ、これでも、弓を使う事に関しては少々心得があるのですよ?」

「さ、さようでございますか?」

 

 返答に困ったという感じのゲイル将軍。

 だが嘘ではない、アイナノアは女王として即位する前まで、エルフの中でも優れた弓取りを輩出する一族の一番の使い手だったのだ。

 

「女王陛下、弓をお持ちしました」

「ええ、ご苦労」

 

 エルフ王族の秘宝、竜の翼を貫き、落としたとされる竜殺しの弓。

 アイナノアはそば付きの者に持たせていたその弓と、魔術文字の刻まれた水晶の矢を一本だけつかむ。

 そのとき、炎の巨人が動き出す姿が見えた。

 

「くっ、皆の者恐れるな! 陛下が見ておられるぞ、声をあげよ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおっっっ!!』

 

 風精霊による音の増幅。

 戦場の彼方まで届く声で、兵士達を鼓舞するゲイル将軍。

 力強く魔族達を押し返す兵士達と、氷の壁を張る準備をする魔術士達――どうやらあまり猶予はないようだ。

 アイナノアは弓を構える

 巨人との距離は二キロほど、たとえ弓術に優れたエルフといえど普通では届く範囲ではないだろう。

 ゲイル将軍がため息をつく。

 弓の射程距離も知らぬ、無知な女の行動に見えたのだろう。

 そして一回撃てば満足するだろうと、アイナノアを止める事を諦めたようだ。

 護衛の兵士達の視線を感じる。

 

 百年以上は弓を使ってなかったというのに……動きに淀みはなくアイナノア自身も驚くほどに自然であった。

 恐らくは、この世界樹の枝から削りだした弓の力だとアイナノアは感じた。

 アイナノアが撃ち放った矢はエルフと魔族の軍勢を飛び越えて、炎の巨人の灼熱の炎と、厚い皮膚を通して心臓に突き刺さった。

 王家秘蔵の矢の魔力が解放される。

 炎の巨人は一瞬で氷に覆われて……粉々に砕け飛び散り、足元の魔族達に降り注いで甚大な被害を与えた。

 

「な、なんとっ、あれほどの距離を……しかも一撃で!?」

「ゲイル将軍、後は任せても?」

「は、はっ! ……エルフの勇敢なる戦士達よ、巨人は偉大なる女王陛下の手によって討たれた! 残り有象無象だ! 我らがエルフの誇りを示せ、邪悪な魔族どもを殲滅せよ!!」

 

 エルフの国から魔族は追い払われた。

 そして、それからしばらくして魔王も勇者の一団によって討たれ、戦争も終わり世界に平和が戻った。

 

 

 ◇

 

 

 アイナノアは王位を王家の血を引くメリアに譲ると旅に出る事にした。

 

「姉様……どうしてもこの国を出て行かれるのですか?」

「魔王討伐の勇者メリア……成長したあなたに王権は渡しました。あとはあなた達の世代がこの国を支えていくのです」

「ね、姉様……」

「顔をあげなさい。新たな女王となった者がそのような事では民が不安がりますよ?」

「……はいっ!!」

「ふふ、良い顔になりましたね。ではわたくしは行きます。あなたと民に世界樹の加護がありますように」

「……姉様も、世界樹の加護と、風精霊の導きがありますように」

 

 アイナノアはエルフの国から旅立った。

 

 

 ◇

 

 

 そこは人族の王都、そして高級娼館。

 

「アイナ、あなたが本当に来るとは思わなかったわ?」

 

 そう口にするのはアイナノアの古い友人、エルフの高級娼婦エレイ。

 

「あら、隠居したら一緒に仕事をしましょうとわたくしに言ったのはあなたですよ」

「言ったけど……あなたなら弓だけでも生活の糧を稼げるでしょうに。元女王陛下が娼婦の真似事なんてしなくても……」

「いまのわたくしはただのアイナノア……それにわたくしは偽りの女王です。だって、あの人との間に子を成す事ができなかったのですから」

「アイナ……」

「ふふ、ごめんなさいエレイ、嘆いているわけではないの。ただ、わたくしは女王という生き方と弓を少し使える以外には何も出来ない無能な女。だからこそ、それ以外の生き方をしてみたいと思っているのよ」

「分かったわ……あなたがそこまでの決意なら、私は何も言わない。お父さんにあなたの事を紹介するわね」

「お父さん?」

「ええ、高級娼館の店主の事よ。何か困った事があれば彼に相談するといいわ。もちろん私にもね?」

「はい、お願いします、エレイ先輩」

「あはっ、ビシビシ扱くわよアイナ後輩」

「ふふ、お手柔らかに」

 

 高級娼館で仕事を始めるアイナノア。

 先輩娼婦達に、性技の数々と、明らかに間違った知識を面白半分で叩き込まれる。

 元来の真面目な性格ゆえに疑わず励むアイナノアは、あくる日に店主に呼び出された。

 

「アイナ……少し頑張りすぎではないか?」

「はい、お父様、大事なお仕事ですから、手は抜かないつもりです」

「いや……アイナの場合は頑張る方向が間違っているから」

「え……そ、そう、なのですか?」

「うむ、お客様をキッと睨みつけ、卑猥な言葉を言うのはなんだ?」

「カリム姉様に、それが王都ではツンデレという淑女の嗜みと聞きましたが?」

「ツ、ツンデレ? カ、カリムのやつ出鱈目をっ……! ではいきなりスカートを捲り上げ、ケ、ケツドラムするのは?」

「それは、アム姉様がお客様に目で見て楽しんでもらうための、おもてなしと」

「おもてなしだと……うぐぐぐぐぐ、アムのやつ出鱈目をっ……! じゃ、じゃあ、お客様のズボンを初っ端からさげてナニをナニしちゃうのは一体ナンなの?」

「え、これですか? ヨア姉様が高級娼婦の最高の挨拶だと……?」

 

 アイナノアは指で筒を作り、スコスコと上下させた。

 姉様達にも褒められた手技、アイナノア自身、最初の頃よりも上達したと思う。

 

「ガッテム!! ヨアのやつ出鱈目をっ!! というか高級娼婦にそんな挨拶ねーから! 八十越えのキドゥ老のナニにそんな激しい運動をして、あの爺様はしばらく腰痛で動けなくなったんだぞ!! ……久しぶりにおっききしたと本人は喜んでいたけど」

「それは素晴らしい。しかし八十才ですか……まだまだヤンチャなヤリたいお年頃ですね?」

「くそ!! エルフめっ!! 人族の年を学習しなおせ!!」

 

 アイナノアへの間違った教育は、高級娼婦の新人に対してのお茶目な洗礼である。

 店主も代々ついできた家業とはいえ、自分よりも年上で、彼が子供の頃から変わらぬ美しい高級娼婦達は扱いづらくて中々に辛い。

 嫁にいってしまったレムナくらいのものだ……彼にとって本当に娘と言える相手は。

 

「とにかく! アイナはしばらく見習いとして修行してもらう……その間はお客様に対して変な事はしないように、いいね?」

「はい、承知致しました、お父様!」

「笑顔と返事だけはいいよね、エルフというやつは……」

 

 そんなときにお店に例の勇者(むすこ)が来たという報告。

 店主は少しだけ悩み。

 

「アイナ、私の知り合いが来たのでこれから練習で接客してもらう。いい機会だから間違った知識を訂正していこう」

「お客様ですね! お父様、わたくし頑張りますよ!!」

「いや……アイナ……元気で一生懸命なのはいいが、頼むから人の話は聞いてね?」

 

 

 ◇

 

 

「ん、んん!? って……あ、あなたは、もしやヒイロ……ヒデオですか!?」

「……また、その、パターンかよ!?」

 

 そしてエルフの元女王は、前世の親友(・・)に再開しイズミとなったのだ。




お粗末様でした

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