異世界行ってダークエルフの高級娼婦で童貞卒業 作:あじぽんぽん
夜……俺はカオルのネットリとした視線にさらされている。
王都の宿の一室、ベッドは二つだ。
毎日、別々の部屋を取ろうと提案しているのだがカオルは酷く嫌がった。
あんな事があった後だ、一人では怖いのだろう仕方がないと思う。
しかし……しかしだよ……背を向けて寝ている振りをする俺のすぐそばで、はぁはぁふぅふぅと熱い吐息を漏らし、何か人生を考えさせられるような水っぽい音を響かせるのは止めてくれ。
俺は眠る事も出来ず、こうなってしまった原因を思い出していた。
あの後、俺のズボンを脱がそうとする、淫乱TSダークエルフの元キモデブを拘束して説得した。
そして話し合いの結果、二人で冒険者をする事になった。
互いに一銭も持たぬ身である、稼ぐにはガテン系が一番手っ取り早かったからだ。
ちなみに俺は典型的な勇者タイプの魔法剣士、剣と魔法の両方いけちゃうノンケである。
それに対しカオルにどんな事ができるのか尋ねてみれば、セッ……本人も分からぬとの返答。
幼い頃に奴隷となって以来、知識と美貌を磨く事と〇技の修練に人生の全てを費やし、体を鍛える事は健康のための軽い運動以外はさせて貰えなかったらしい。
こればかりは本人の咎ではないが、先を考えると全て容認するわけにもいかないのが保護者としての俺の辛いところ。
取りあえず武器屋に行って気に入った武器があるかと選ばせると、ビビっときて手に取ったのはシンプルな謎の指輪。
指にはめると呼び出される美しい水の精霊。
店主に話を聞くと、その指輪は精霊を召喚するためのアイテムであった。
娼館ゆえに召喚ですか? ……やかましいわ。
どうやらカオルには精霊使いとしての能力があったらしい。
それから俺達は冒険ギルドで登録をすると、魔獣を討伐して金を稼ぐ事にした。
俺達二人のコンビは実に息がピッタリであった。
俺がオールラウンダーだという事もあるが、カオルもいい感じで合わせてくれる。
カオルは俺が接近戦をすると、それに合わせ壁となる土の精霊をだし、遠距離で炎の魔法を使えば威力を増す風の精霊でサポートしてくれた。
流石は元漫研のネトゲーマー・カオル、癒しのデブネカマの名は伊達ではない。
カオルは元高級娼婦だからなのか、おしゃれをするために高価な香水や、宝石や衣服などの目玉が飛び出るような値段の品を次々と買い、金使いが非常に荒かった。
しかし俺達は討伐の難しい希少な魔獣を倒し、高級素材などを手に入れてアホのように稼いでいたのであまり問題ではなかった。
むしろカオルの問題は隙あれば俺の股間を触ろうとしたり、服と呼ぶのもおこがましい格好でうろついたり、思い出したように誘惑してくる事だろうか。
それに関しては奴が、牛乳を拭いて放置した雑巾のような体臭を持つ元キモデブだと知っていたので欲情できず、カオルも元娼婦という負い目があって、気まずさを誤魔化すために冗談でやっていたのだと思う。
そう、あの事件が起きるまでは……。
俺達は冒険者ギルドでも有望なルーキーコンビとして名を売っていた。
特に美貌のダークエルフであるカオルの注目度は非常に高かった。
それなのに警戒心が足りてなかったのだろう。
別々の仕事の依頼を受けている時に……カオルはさらわれた。
犯人は依頼主の、とある小国の有力貴族。
カオルは元高級娼婦だ。
高級娼婦とは、ただ美しければいいというわけではない。
何故なら王国の高級娼婦とは教養と品格を兼ね備え、政治や商業や芸術といった様々な分野の知識に精通した頭脳明晰な女性しかなる事が出来ないからだ。
相手は王族や大富豪といった国家レベルの権力者達が殆どなのだが、体を求めずに助言や愚痴など、会話をするためだけに来る者も珍しくはないのだという。
ましてやカオルは王国一の高級娼婦。
女として、下手な貴族令嬢やお姫様より遥かに高みにあると言っても過言ではないだろう。
そんな普通であればお目に掛かる事すら難しい天上の美姫が、冒険者として依頼を受けてくれるというのだ、不埒な事を考える者がいてもおかしくはなかった。
迂闊だった……この世界に来てから騙される経験は何度もしていたというのに、俺がもっとしっかりとしていればよかった。
精霊がカオルの危機を知らせてくれた。
俺はすぐさま小国まで出向き、そのクソ貴族の屋敷に襲撃をかけた。
カオルを見つけだすまでどんな事があったかは、まあ割愛しよう。
そしてベッドには、薬を盛られて意識を朦朧とさせられた全裸のカオル。
それに圧しかかり始めようとしていたサカッた醜い豚。
俺は怒りのままに、豚……貴族とか言う名の男に地獄を見せた。
カオルを抱きかかえて、その小国を抜け出した。
相手に非があるとはいえ一国の有力貴族、どんな危害を加えてくるか分からない。
俺一人ならいいがカオルを守る必要があった。
目を覚ましたカオルは泣きながら俺に抱きついて来た。
「ごわがっだっ! 私、本当にごわがっだの!!」
カオルはエンエンと鼻水を垂らしながら俺の胸の中で泣いた。
カオルが今まで高級娼婦として相手をしてきたのは理知的な高い身分の者、つまり紳士的と言える者達だったのだろう。
そんな彼女にとって、欲望のまま獣のように襲い掛かってきたクソ貴族は、本当に恐ろしい相手だったんだ。
その時ばかりは俺も、彼女が牛のクソみたいな顔をした元キモデブである事を忘れて、優しく慰めてやった。
それからだ……カオルは俺から片時も離れなくなった。
カオルは一切の贅沢を止めた。
冒険者家業は続けているので、莫大な稼ぎが相変わらずあったのにも関わらずだ。
宿も高級なところではなく健康を保てる程度の場所にランクを落とし、服も見た目よりも丈夫で長く使える簡素なものを選んだ。
まあ、カオルがそれで満足しているなら俺としては問題ないのだが、たまに……。
「私達の将来のための資金だものね」
頬を染めて、愛おしげに自分の下腹部をさすりながら言うのだ。
あの……冒険者ペアとしての活動資金だよね?
深い意味はないと思いたいのだが、ひまわりのような笑顔で言われると何も返せなくなり、何だかものすごく恐ろしい。
それに以前は冗談程度だったボディタッチが、最近では冗談にならない感じで変化しており、むっちとした乳や太ももを所構わず密着させて蠱惑的な顔をしてくるのである。
仕事をしている時と寝ている時以外は常時だ。
手洗いや風呂ですら、出るまで扉の外で待っていて下手したら一緒に入ろうする。
夜は夜で……人間的な水っぽい音をたてている。
そんな風に張り付かれている俺は、自己処理をする暇がまったく無かった。
――朝が来た。
カオルはベッドに横座りし、はにかみながら左手を差し出して待っている。
俺の手には彼女から渡された精霊の指輪。
あの事件の後、カオルが恐怖から立ち直るために俺に望んだ事の一つだ。
俺はカオルの美しい左手を恭しく取ると、彼女の薬指に指輪を通した。
「今日もありがとう……ア・ナ・タ」
艶やかなダークエルフの美女は、指輪のはまった左手を朝焼けの光にかざして、目を細めて幸せそうに呟くのだ。
その本当に嬉しそうな、魅力的な笑顔を見て俺は思った。
元漫研仲間のキモデブTSダークエルフ女と間違いを起こす前に、高級娼館にいって今度こそ童貞卒業と発散をしてこよう……と。