異世界行ってダークエルフの高級娼婦で童貞卒業 作:あじぽんぽん
漫研にはゴローさんという尊敬できる先輩がいた。
漫画を始めとした各種サブカル知識の造詣が深く、シーズンごとに嫁が変わり、少々陰キャでチーレムラノベばかりを好むけど良い人だったよ。
俺のオタ知識の殆どはあの人から学んだものと言っていい。
言うなればサブカルの師匠、いや人生の師匠と言っても過言ではないね。
俺は一生あの人に付いていくつもりだった……でも、でもね……。
ゴローさんはロリコンだったん……。
幼女を愛でるライトサイドのロリコンじゃない。
幼女が性の対象のダークサイドのロリコンだったん……。
あの人のイエス・ロリータ・ノータッチは嘘っぱちだったんよ。
カミングアウトされたのは、俺の家に遊びに行く前。
俺は幼い妹達を守るためにゴローさんを殴った。
碌に喧嘩もしたことのないモヤシだったけど必死で殴った。
騙された怒りに震え、マウント取って全力でぶん殴り続けた。
ゴローさんは男らしく何も言い訳をせず、甘んじて俺の拳を受けいれていたよ。
もう止めてヒイロさん! ボクのライフはゼロです、許してください!! とか泣き声が聞こえたけど気のせいだと思う。
それからゴローさんは漫研に来なくなり、大学にも来なくなり、そして学校を辞めた。
俺が再びゴローさんと会うことはなかった……。
今でも思う、俺がゴローさんの言葉を否定せず話を聞いて、彼の悩みを少しでも分かってやれれば、大学を辞めることなく未だに漫研で仲良くアホやっていたのかなって……。
そう、何だかんだ言っても、ゴローさんはやっぱり俺の心の師匠だったんだ。
尋ねに行ったら彼の家族から旅に出たと聞かされた……ゴローさんは今頃どこか遠い空の下で元気にやっていると思う。
夜……俺は館のリビングで前世でのほろ苦い思い出を語り終えた。
暖炉で薪がパチパチと燃えている。
雰囲気出したくて、夏場だというのに掃除して火をいれてみたんだ。
ソファーに座る元漫研仲間……三人のTS娘達は互いに気まずそうに顔を見合わせて何も言わない。恐らく各自がゴローさんとの思い出を懐かしんで照れくさくなっているんだろう。
ふふ……本当に懐かしいよ。
部屋に漂う空気は穏やかで心地良く感じる。
はは、こらこら
「鈴木……。ゴローさんは〇学生と援交して捕まっただろ……」
ぽつりと、赤毛の美少女がほざきやがった。
「ぶらあああああああああああああああぁぁぁぁ!!」
俺は真実を暴露され逆切れして小娘を威嚇した。
そして平気で人の心のデリケートゾーンに土足で踏み込めるこいつは、漫研唯一の突っ込み男子のアユムだと確信したのだ。
◇
館を購入することに決め、祝いと厄払いを兼ねて購入代金に一割のせることを商人に伝えた。商人は泣いて喜んで俺達を上客あつかいしてくれたが、支払う額は最初に提示された金額の半分なんだよね。俺の横で商人の話に相槌をうちながら、にこにこと微笑むダークエルフの美女カオルが頼もしくも恐ろしかった。
館にはポーの予想通り人避けの呪いが掛けられており、その呪いの撤去作業をポーとイズミの二人がおこなっている。手間はそれほどではないが仕掛けられている数が多いので少しだけ時間が掛かるとか。
アユムについては少々難儀で、彼……彼女はカオル達のような生まれ変わりではないのだという。俺達と同じように神に出会って話をし、この世界に落とされるまでは一緒なのだが、なぜ館にいたのか、なぜ今の体になっていたかは本人にも分からないらしい。
深い闇の中で覚醒と眠りを繰り返し、まるで終わりのない夢でも見ているようだったとか……。
同じ肉体が用意された転移に近い生まれ変わりでも、一からの生まれ変わりでもない、状況から考えるに憑依という状態が近いのではないかというのが全員一致の考えだ。
元の体の持ち主は何者で意識がどうなったのか、アユムはどうなってしまうのか、考えることは山積みであったが、答えは何も無くやがては日々の忙しさの中に埋もれていった。
一週間ほど過ぎた頃……日中、俺は庭の手入れに汗を流していた。
そこそこの土地面積、家庭内栽培くらいなら余裕で出来るというか田んぼが作れる広さだ。周りに視線をやると人影ならぬ骨影が無数に見える。ポーのスケルトン達……庭の手入れをするのが大変だったので魔女にお願いして出してもらったのだ。
スケルトンはアンデッドのため太陽の光に弱く、長時間放置していると体から派手に煙をだしてご近所迷惑になってしまう。そのため日よけローブを着けてもらっているのだが中々に怪しい集団である。
そんなことを考えつつ、建物の日陰に座って猫のようにチラチラとこちら見ている赤毛の小娘に質問してみることにした。
「へいっ! ミスタ、アユ~ム! ユーはトマト好きデスカ?」
「っ!? …………嫌いじゃないな」
アユムは声をかけられて一瞬驚きをみせたが怠そうに言葉を返し、そして足りてないと感じたのか追加で返答する。
「むしろ、好きな方だと思う」
よし、最初はトマトを植えることにしよう。
俺は作業の手を止めると、手拭で額の汗を拭きながらアユムの元に向かった。気づいたアユムは座ったまま横にずれ俺が入れる日陰を作ってくれた……律儀なやつ。
「悪いな」
「ああ」
短いやり取り、アユムの横に腰を下ろしながら様子をうかがった。小柄な体、燃える色合いの長い赤髪に金色の瞳、そして幼さを残すがカオルやイズミに比べても遜色のない美貌。スケルトンと同じ日よけローブをまとっているのは肌が弱いためだ……確かに蝋燭のような白肌では直ぐに日焼けしそう。
その下にはゴシック風のドレス。館の地下室……アユムが安置されていた部屋の衣装ケースに入っていたもので、ポーの調べによると魔法の術式が編まれたかなりの高級品だとか。前世は若武者風な男らしい容姿だったアユムは酷く嫌がったが、他にサイズの合う服もないので仕方がない。
「でも似合ってるぜ可愛こちゃん?」
「はあっ?」
突然の俺の褒め言葉に、何言っているのコイツ的な視線を向ける小娘アユム。
いかん、脳内思考が無意識に漏れてしまった。
というか幾ら何でも可愛こちゃんはないだろう、少女漫画にありがちな勘違いキザ男か……気まずい非常に、何か話題を、何か話を振らないと。
「あー……アユム、最近はどうだ?」
「別に、普通かな……」
なんだろう、この父と娘的な会話。
「う、おほっん……慣れない体だろう、普段の生活で何か困ったことないか? 必要なものとかはないか? 悩み事があったら
「………………」
思春期の娘は沈黙してこちらを見ようともしない……ますます気まずい。
アユムも気まずく思ったのか口を開く。
「鈴木……僕は平気だ」
「お、おお、そうか?」
僕っ子娘だ……。
正直な話、漫研の中で俺とアユムの仲はあまりよろしくない。
お互いの性格が真逆で、向こうからは俺がひどくいい加減なやつに見えるのではないだろうか。アユムに嫌われている……とは思いたくはないが、多分それに近い感情は抱かれているはずだ。
そんなアユムはここ一週間、気がついたら俺の近くにいることが多い。
他の漫研メンバーであるTS女子のカオルとイズミは完全に女性化しており、純正なTS少女のアユム君としては絡み辛いのだと思われる。
「なあ、アユム……こんな状況でお前も大変だと思うけど、思っていることがあったら本当に何でも言ってくれ、俺達はこの世界で唯一の同胞で仲間なんだからさ?」
「……僕達は……同胞」
アユムは同胞……と口の中で転がすように呟く。
その姿、何だろう……まるで、今にも消えそうで不安を覚える。
「ヒイロ、いるかなー? そろそろ買い物に付き合って欲しいんだけど大丈夫ー?」
遠くからカオルの声が聞こえる。
そういえば必要な生活物資を買いに行く約束をしていた。
俺は立ち上がりアユムを見下ろす。赤毛の小娘はそんな俺に対して肩を竦めた。
「
「おう……娘よ、何か欲しい物とかあるか?」
「ん、別にないな……ああ、男物の服が欲しいけど、どうせ反対されるだろ?」
すまんなアユム、それはうちの
そして行こうとしたらアユムに呼び止められた。
「あ、鈴木……」
「うん、なんだ?」
「その……色々と気にかけてくれて……ありがとう」
やつからの珍しいお礼の言葉。
驚いて振り向くとアユムはそっぽを向いており、顔はリンゴのように赤く染まっていた。
……ふふ、このツンデレさんが。
「どういたしましてだ」
俺は返事してアユムの前から去った。
その時は心の中の水位が増して……ガキのようにこれから先のことが何もかも上手くいくような気がしたんだ。
ただ、アユムの蝋人形じみた美しい横顔……わずかに唇の端を開いて笑ったその口内に、獣のように尖った八重歯が見えたのが気にかかった。
俺とカオルが買い物を終えて館に戻った時、アユムが倒れたことを知らされた。