「あら、もう陽が落ちてきたのね」
ギンちゃんがふと呟く。そんな時間かぁ、なんて思いながら外を見てみると夕焼けが雪を照らし、幻想的な景色が浮かび上がっていた。
「ふわぁあ! ギンちゃん、何これ!? すごいキレイ! 」
「そうでしょ? 私のお気に入りなの、この景色」
今まで色んなところを旅してきたが、こんなにも美しい景色を見たのは数えられるほどだろうか。そんな余韻に浸っているとギンちゃんが満足そうにこちらを見ているのに気づく。
「んー? どうしたのギンちゃん?」
「……気に入ってくれて良かったなって、そう思ってたの」
そう彼女は呟くと私のそばに来て腰を下ろす。頬を撫でる心地よい風が、温泉で火照った体を冷やしてくれる。私はふと、かつての主人との思い出を呼び覚ます。たしかフエンタウンと言ったか、あの町の温泉は実に気持ちよかった。温泉に入った後のモーモーミルクは本当に美味しかったなぁ……なんて、らしくもない回想に浸りながら刻々と時は過ぎていった。
それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。夕焼けは顔を隠し、星々が閑散と瞬いている。気付かぬうちに夜の帳が落ちていたらしい。ギンちゃんは隣に腰掛け、未だ遠くの方を見つめていた。
「ねぇシャワーズ……もし良かったら当分の間、ここに住まない?」
「ほほぅ……ギンちゃん可愛いから夜襲っちゃうかもしれないぞー?」
「? 狩りごっこはあまり好きじゃないのよね……」
彼女は頬を掻きながら、申し訳なさそうな笑顔でこちらを見てくる。あ、その比喩的な表現でね……? ピュアすぎて心が痛い。
「その……私気がついてからずっと一人でね……短い間だったけど、シャワーズと過ごした時間。すごく楽しかったの」
「一人……」
「だからー……そのー……シャワーズさえ良かったら、一緒に居てくれないかなって(ボソボソ」
恐らく照れ隠しで意図的に小声で喋ったんだろうけどそうは問屋が卸さないってね!このシャワーズイヤーは地獄耳、遠くの音でさえも聞き取れるのだ!
「そっかー……素直に最初から一緒にいて欲しいって言えばいいのに……頭がいい子ってどうしてこうひねくれてくのかねぇ……」
「!? い、今のなし!私は何も言ってない! 」
「はいはい。わたしは何も聞いてないですよー」
「ならそ、そのニヤニヤした顔をやめなさいよー!」
エーちゃんもそうだったけどギンちゃんもなかなか抜けてるなぁ……あー、ホントに可愛い。それはさておき、今の私はどこに居るのかも分からない流浪の旅人。あちらこちらを宛もなく旅するのはあんまり現実的でないときた。だったらなおさら……
「……決めたよギンちゃん。当分の間、お世話になります」
「……! そ、そう……えっと、よろしくね、シャワーズ」
「うん! こちらこそよろしくね、ギンちゃん!」
こうして不肖シャワーズ。ギンちゃんの家に居候になることが決まったで候。はてさて、今後はどうなります事やら。何はともあれ、末永く平穏でありますよーに。
「まずはシャワーズのお部屋を決めなきゃね! 安心して!このお宿には沢山お部屋があるの。きっとシャワーズも気に入るお部屋があるはずよ。着いてきて!! 」
「え、手を掴んでどうするのって急に走らないでよギンちゃん転けちゃうあぶないよアベシっ」
はてさて、どうなります事やら