やっと、やっとだ!
あの忌々しい男を彼女から引き離せた!
ああ、もう嬉しくて仕方がない。
これならやっと彼女が僕のものになってくれるのだから!
さぁ早くお姫様を抱きしめてキスをしなければいけない。そうだろう?
コンコン
「どなたですか?」
「僕だよ、愛しいメリー。」
「…お引き取りください」
「どうしてだい?どうして顔をあわせてさえくれないんだ?」
舌打ちが微かに聞こえた。
あの男のせいだ。あの男のせいで天使のようだった彼女が穢されてしまった。
「…お引き取りください。貴方と会う気はありません」
扉を押せばぎしり、と音を立てるものの鍵がかかっているらしい。
小さく縮こまり、ずっと泣き続けている彼女をこの腕で抱きしめたい。そうすれば彼女はきっと素直になってくれるだろう。
「僕は帰らないよ。君と会うまでは。」
思いっきり体当たりをする。2回、3回と繰り返すと段々と感覚がわかってくる。
7度目で鍵が壊れ、8度目で扉が開いた。
革張りのソファーには目を腫らしたメリーがこちらを見つめていた。
「出て行って下さい。」
「嫌だ。メリー、君が泣いているのが耐えられない。だからメリー、僕と結婚しよう。僕は君を泣かせることなんてしないよ。」
大きな溜息をついた。
「当たり前でしょう。私にとって貴方はどうでもいいので、貴方が何をしても心に響く筈がないです。」
強がらなくていいんだよ。悲しいでしょう?結婚式を滅茶苦茶にされただけじゃなくて彼は連れていかれてしまった。
そんなすぐに約束を破る人間となんで結婚しようとするんだい?
そのままソファーにメリーを押し倒す。
「僕の奥さんになっておくれ。ずっとずっと愛しているよメリー。帰ってこれない男なんて放って置こう。」
「…何ですって?帰ってこれない?」
「おや?知らなかったのかい、メリー。あの憎っくきエドモン・ダンテスは
「………
「嘘じゃないさ。こんなところで嘘をつく意味が無いよ。」
蒼い宝石のような瞳から大粒の涙が溢れ出す。
とても美しい。
「………ね……も…る」
「え?」
「死ね死ね死ね!もう絶対に許さない!殺してやる!」
押さえつけていた筈の手首が外れている。もう一度捕まえなければ。
そう思い手を伸ばすものの、掴むことができない。手首から先が動かない。
それに気がついた瞬間に激痛がはしる。
「ゔぁぁぁあ!」
手首は外れ、ゆびは数本他の方向に向いている。
カタリ、と音がする方を向けば、レイピアを手にする彼女が。
飛びのいてみるが、避けきれずにレイピアが足を刺す。
グリグリと捻じ込まれ、鋭い痛みが襲い続ける。
何度も足や腹を刺される。それでも急所を外しているのは彼女の優しさだろうか。それとも嬲る為だろうか。
「貴方を殺せば私も監獄島に行けるかしら?ねぇ。」
レイピアを振りかぶる彼女は酷く冷たく美しかった。
そこに不躾に声がかかる。
「ダメですよぉ〜?お嬢様。そんなの殺したって監獄島には行かずに裁かれて死ぬだけですから。」
レイピアはピタリと途中で止まり、おろされた。
「メイド達に片付けて貰います。」
ドアのそばに待機していたのか、すぐに駆けつけて彼を連れて行った。
「ナイ先生、ごめんなさい。ありがとう。」
「お礼を言われるようなことはしていませんよぉ?」
くすくすと笑いながら部屋から出て行く先生を見送る。部屋の奥の扉を開き、寝室へと移動する。
ベッドに座りそのまま倒れる。
今はもうドレスがシワになったって、髪がグシャグシャになったって構わない。
もう…もう…
「疲れちゃったよ、メル。」
〈大丈夫?交代する?…俺はメリーのことが心配だよ…〉
「優しいなぁ…でもね、もう疲れたの。
〈待って!待ってよ!〉
「おやすみ、メル」
「待ってよ!」
ガバリと起き上がればもう体の支配権は俺になっていて、何度呼びかけても彼女は何も答えてくれない。
どれだけ彼女を感じようとしても、今まであった暖かさがどこにも無い。
「どうしたらメリーは帰ってくるのだろう。目を覚ますのだろう。」
まるで眠り姫のようだ。
悪い魔女の呪いでずっと眠り続ける。
呪いを解くには、王子様のキス。
ああ、なんだとってもかんたんなことだった。
エドモンをたすければいいんだ。
じゃあまずは何をしようか。
軍人になるのが一番早いが、父さんが反対するだろう。先生も反対する。
色々なことを考えて俺はとある人物に手紙を送った。
親愛なる友へ
お久しぶりですね。
お身体の方は大丈夫でしょうか。
他にも色々と聞きたいことがございますが、あまり長く手紙を書くのは趣味ではないので単刀直入に聞きます。
貴方に直接会って話をする事は出来ませんか?
軍人になった貴方はやはり忙しいでしょうか?
会える日があれば是非折り返しお手紙を届けて頂けると嬉しく思います。
貴方の友人
メルセデス・モンテゴ
宛先は私の兄弟子であるトマ=ロベール・ブジョーだ。
彼なら合理的で口が堅い。
人手が足りないといつも先生は嘆いているから多分大丈夫だと思う。
さようなら半身。
俺は君のことが
いっつも自分勝手で
いっつも努力して
いっつも人を傷つけて
いっつも人を助けてる。
そんな君がいなくて俺は
☀︎月♭日
大事なあの子はもういない。
でも、いつ目覚めても良いようににっきのスペースは空けておこうと思う。
荷物をまとめておこう。
寂しいよ
この日はここで終わっている。