船に揺られて早数日
着慣れない軍服に袖を通してブーツを鳴らして歩く
「目的地に着くのは後どれくらいでしょうか?」
少し大きめの声で聞く
この船には数人の軍人と数週間分の食料、船を操るのに充分な船員が乗っている
「ええ、後半刻ほどで着きますよ!あそこにうっすら影が見えまさぁ!」
見張り台の上にいるガタイのいい船員が教えてくれた
「ありがとう!」
満面の笑み、所謂営業スマイルでお礼を言う
赤面している男などいなかった。いいね?
海の男は周りに男しかいないからな、そういうのに走る人も多いかもしれない
いくらメリーの面影があるとしても男なんだよ
こっちはしっかり女の子が好きだし
取り敢えず船室に戻ろう
ちなみに1人部屋だ
本当はもう1人いたけど…
思い出したく無いほど悍ましい事件だったね…うん
気をとりなおして荷物を纏める
これから受ける任務というのが目的地に1月留まるようなものだから荷物は多い
着替えに、ナイフ、一応の救急キット(手作り)、薬(手作り)、日記、筆記用具、お金、保存食
特に保存食とお金、日記は見つからないようにしなければ…!
準備が終わればちょうど上官が来た
「新入り!降りる準備は整ってるよなぁ!?」
「勿論です」
敬礼しないと煩い上官は本当に面倒くさい
「声が小さい!」
「失礼しました!次からは大きくします!」
こいつ難聴かよとか思いながらも表面には出さずに敬礼する
「いいだろう!後数分で目的地に着く!荷物を持って甲板に1集合しろ!」
「はっ!」
詰め終わった荷物を掴み、上官が出て行ってから甲板に行く
後ろからあの上官の怒鳴り声が聞こえるが、隣は部屋が汚かった筈だ。それのせいだろう
甲板に並び、説明を受けて船を降りる
この島での仕事はたったひとつ
【ナポレオン・ボナパルトの監視】
それだけだ
ただ監視するだけだが、周りはみんなナポレオン達に対してひたすら陰湿な嫌がらせをしている
俺がするかって?
…あの人ってうちの上客だったんだよなぁ〜話すのも楽しかったんだよなぁ〜
つまりそうゆう事だ
俺の仕事はナポレオン達にくっついている事だった
他の仕事は上官の世話が3人、馬の世話が4人だけだった。と言っても上官が起きている間はほぼずっとナポレオン達を虐めるので一緒にいるのだが
まぁちゃんと他にも軍人じゃない人もたくさんいて、お世話してくれる。
何はともあれ、お仕事のスタートだ!
「さぁどうぞ、ナポレオン将軍?美味しい葡萄酒ですよぉ?」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてナポレオンに酒を勧めているのはハドソン・ローだ。一応上官だが、心の中ではこのクズは呼び捨てで構わないだろう。
「…頂こう」
明らかにドロリとしてすえた臭いがするそれを一気に飲むナポレオン
明らかに顔色が悪くなっているが、俺はここでは助けに入れない。
「ボナパルト殿…顔色が悪いです!お暇させていただきましょう!」
「おやぁ?まだ食事をしていませんよぉ?良いんですかぁ〜?」
話してるのは俺じゃないけどすごくイラつく。ハゲのデブ野郎と苦しんでるイケオジだったらどっちの方を持つかは明白だろう
「構わない、食事は結構だ。」
そう言って席を立つナポレオンの後ろについて行く
廊下に出ると壁に手をつき、足取りがおぼつかなくなる。
「何故ついてくる」
「仕事ですから」
フラフラとしながらトイレに入りひたすら吐くナポレオン
廊下を歩く使用人に声をかけて水差しいっぱいの水とグラス、漏斗を要求する
すぐに持ってきてくれた使用人に老若男女問わず惚れられた実績のあるスマイルで「ありがとう子猫ちゃん❤︎(意訳)」と言っておく。ちなみに仕事中はずっと無表情貫いてるので一瞬で堕ちる。ラクですねぇ!(ヤケクソ)
「水です。飲めますか?」
ナポレオンはこちらを睨みつけ、
「…結構だ」
と胃酸で掠れた声で言う
一応今の俺は軍帽をかぶっているので目元に影がかって顔が分かりにくくなっているとだけ言っておこう。
「そのままですともっと辛くなりますよ」
「構わない」
掠れた声のまま即答する。よし、ならば強行してやろう!
ナポレオンの顔を掴んで無理やり口を開かせる。弱っているナポレオンの力では振りほどくことはできないくらいには強い力があるのでそのまま片手で口を開き、空いた手で口に漏斗を突っ込んだ。
「ゔぁっ…!」
苦しくても我慢しましょうね〜と思いつつ漏斗に水を注いでいく。グラス二杯分くらい飲ませてから吐かせるという事を数回繰り返す。
水しか出てこなくなったら完了。この時代にだとこうするのが一番いい。ヤバイもんは吐かせるに限る!
「ゲホッ…ゲホッ…くそが」
めちゃくちゃ睨んでくるけど俺より力弱いから怖くないんだよな…
「口の中がまだ気持ち悪いでしょう。これですすいでください」
グラスに入った水を差し出せばもっと睨んでくる。
「また私がやった方が良いですか?」
そういえば渋々受け取ってくれる。
口をすすげばすぐに立ち上がって、彼の部屋へと歩く。
彼の部屋は大きく豪華だが、先ほどの嫌がらせを見ると皮肉に感じる
俺はドアの前で監視をする。彼は机の引き出しから本を取り出して何かを書き始めた。
…腹が減った。十分我慢できる状態だが、それでも嫌なものは嫌だ。また、違う近くにいた使用人に声をかけて彼を見ていて貰う。
そのままキッチンに走って、そこの使用人に
「食事はまだ残っているでしょうか?」
と聞けば、ハドソン様が残っていたものを全て食べてしまわれましたとの返答。あのデブ殺してやろうか?
キッチンを少し使う許可と余った食材を分けてもらった。
貰えたのは一部が傷んだ玉ねぎと、乾燥したパン、トマトだった。
どうしよう…メニュー…パンはとりあえず乾燥してて食べづらいし…
…よし、パン粥を作るか。
まずは俺の手持ちの保存食より、干し肉を取り出して刻む。
そのまま鍋に水を張って浸しておく。次に玉ねぎの食べれる部分を薄切りにする。トマトは火で炙って皮を剥き、ペーストにする。鍋を火にかけて玉ねぎを入れる。玉ねぎが透け始めたらパンを千切って入れる。トマトのペーストを入れて煮込み塩、胡椒であじを整える。
これで完成。あとは皿を借りて盛り付けるだけだ。
お盆と皿、スプーンを借りて2人分を持って行こうとしたら先ほど、水を持ってきてくれた使用人が、ホットミルクのカップ2つをお盆に乗せてくれた。
「ブランデー入りです。よかったらどうぞ」
なぁ君さ、良かったらって言うなら無理やりお盆に乗っけないと思うの。などと野暮なことは言わずに
「ありがとう」
とあっまーい顔で微笑んでから素早く去る。
…変なもの入ってないよな?
心配になったからどちらも少しずつ飲むけど、なんともなかった。安心、安心。
部屋に戻り、使用人にまた同じく老若男女問わ(ryで微笑んで耳元でありがとうと囁き、真っ赤になって後ずさりしたら目を細めて艶やかに見えるように笑う。そうすると首まで真っ赤にして走っていく使用人。
男であの反応なら女の子にしたらどうなるんだろ。
ナポレオンは机で未だに何かを書いている。その横の空いたスペースにお盆を置いて、ベットの横の椅子を持ってくる。
「何をしている」
「一緒に食事でもどうかと思いまして。」
不服そうなナポレオンを無視して軍帽を外して側に置く。
「安心してください。変なものは入ってませんよ。」
湯気のあがるパン粥をナポレオンの近くに置き、自分の分をスプーンで掬って食べる。あっつい。そっと息を吹きかけて冷ましてからそれを口に突っ込んだ。…ナポレオンの。
ナポレオンは目を白黒させている。スプーンを引き抜いてから、
「美味しいですか?」
と聞くと、驚きつつも首を縦に振ってくれた。
皿をナポレオンのものと交換してから食べ始めれば、俺が毒味もしているからか、食べてくれた。ホットミルクも目の前で一口飲んでから渡せばすぐに飲んでくれた。
なんだろ…こう…餌付けしてるような…この感情…これが母性か…
食事が終わり、ナポレオンの警戒心も和らいだようなので、少し会話を試みた。
「自己紹介がまだでしたので、今させていただきますね。私の名前はメル。メーガス・グランツです」
これはトマと一緒に考えた偽名だ。
メルだけだとバレる可能性があるからね。
「分かった。ところでメル、君はどうして俺の利になる事をする?バレれば捕まるだろう?」
「何のことでしょう?私はただ貴方に無理やり水を飲ませては吐かせていただけです。料理だってただ作りすぎただけですよ」
真っ直ぐに目を見て話せば、すぐに彼から笑みがこぼれる。
「そう言うことにしておこう。とりあえず助かった。礼を言おう。」
あれを飲んだあとは吐くだけじゃなく下痢までするんだと苦笑いをするナポレオン。
「礼には及びませんよ。ただ少し、恩を返そうかと。」
「恩?」
えぇ、そうです。と答えて、にっこり笑いながら彼の椅子の背もたれに手をついて、顔を近づける。あごを人差し指で撫で上げれば、彼の顔が引きつる。笑いそうになるが、ここで大笑いすると負けだ。耳元でそっと、
「私のことを忘れてしまいましたか?」
と声をメリーの方に戻して囁く。
笑いながら顔を離せば、驚きに満ちた顔をするナポレオン。クスクスと笑ってから、
「それではお休みなさい。また明日」
と言って、食器を持って部屋を出て行く。
彼が覚えているようで良かった。
1ヶ月間は独りぼっちにはならなくて済みそうだ。
♭月☆日
やっと到着した。
船旅のストレスと、メリーのいないストレスで周りをひたすらいじった感がある。周りに変な疑いを掛けられないといいなぁ…
この日はここで終わっている。
ナポレオンが見せ筋と同じ筋力と聞いて