ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?〜雷霆兎は道化と踊る〜   作:bear glasses

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副題、
白兎収斂/銀月少女、炉の神と出会う
諸事情(作者の深夜テンション)により、ベル君の顔合わせが夜になりました(白目)


幕間/プロローグ

—————夢を、見た。

 

「ねぇ、ベル兄。行っちゃうの?オラリオに」

 

思い出す。自分と、妹のような白銀の少女との会話。

 

「うん。僕の目標の為に」

「目標?」

「決めたんだ。強くなるって。もうあんな思い(・・・・・)をしない為に。護りたいものを護れる力を手に入れる」

 

故郷を去って迷宮都市へと向かう、前日の出来事。

 

「英雄みたいな?」

「英雄みたいな……か。僕は別に英雄の様な力が欲しいわけじゃないんだ。英雄にはなりたいと思った事はある。でも、僕は英雄になれなくてもいい。僕は、この手の届く範囲の全てを救いたい。だから僕はオラリオに行きたいんだ。信念を貫き通す力を手に入れる為に」

「そっか……でも出会いも求めてるんでしょ?」

「勿論!」

「変態」

「なんで!?」

「うるさい。ベル兄のバカ。オークに掘られちゃえ。それか狼に食べられちゃえばいいんだ」

「冗談でもやめて!?」

「……私も追いかけるから。何時か、オラリオに行くからね」

「————うん。わかった。待ってるよ」

「じゃあ、お休み」

「うん、お休み」

 

—————泡沫の夢。故郷での最後の安穏とした出来事。

 

 

「………朝か」

 

ふと、目が覚めた。しかし、

 

「懐かしい、夢だったな」

 

妹のような存在は、■■■■は元気だろうか。オラリオに何時か来ると言っていたが、無事だろうか?危険はないだろうか?

 

「まぁ…考えててもしょうがない、か。よっし、行くぞぉ!」

 

朝の支度をし、朝食へ向かう。

 

 

 

———————————————————

 

 

 

朝食を終え、ここはダンジョン5階層。

 

「スゥッ—————【雷霆よ、鳴り響け】!【ロスト・ケラウノス】!」

 

身体に、雷が迸る。思考が、身体が加速する。

 

コボルトが、フロッグ・シューターが、知覚する間もなく切り裂かれる。

数秒もすれば、そこにはモンスターの灰と魔石(亡骸)が転がっていた。

ベルは魔石を拾ってポーチに入れる。

 

「————よし」

 

6階層に行こう。

 

 

 

 

ダンジョン6階層。ここから、新たな敵が現れる。

ダンジョンの壁から、同時に6体。モンスターが生まれた。

 

「———ウォーシャドウ……!」

 

影のような、顔に十字架の浮かぶ不気味なモンスター。

6階層での鬼門にして、上層でも屈指の戦闘力を持つ。

三本の指の切れ味は凄まじく、Lv.1にすぎない自分の首などバターの様に切れるだろう。

しかもそれが6体。

本来ならば窮地なんてものじゃあない。しかし————————

 

「(それが如何した……!?)当たらなければいいだけだ!【雷霆よ、鳴り響け】」

 

自分を絶望させるには、値しない。

即座に呪文を詠唱する。対象は自身の身体。

 

「【ロスト・ケラウノス】!まだまだ!【雷霆よ、鳴り響け】ッ!!」

 

続けて対象に取るは己の(ナイフ)

 

「【ロスト・ケラウノス】!!」

 

纏われた雷は刀身の延長線まで発され、長剣のような様相を呈する。

瞬間、ベルは自信を加速させ、1体目のウォーシャドウを切り裂く。

的確に魔石を狙ったその一撃に反応できず、ウォーシャドウはドロップアイテム『ウォーシャドウの指刃』と魔石を残し、灰に還る。

 

『………!!』

「甘いんだよっ!」

 

すぐさま背後から飛び掛かる2体目のウォーシャドウに対し、『ウォーシャドウの指刃』を地面から拾い上げて、高速で投擲する。

 

『…!?…!!』

()ッ!」

 

牽制にしかならないとわかっていたので、指刃が弾かれた直後に、空いた胸元を袈裟斬りに切断する。2体目が魔石と灰に還った直後、首元に風を感じた。

 

「くっ、そ!」

 

瞬間、身体を伏せて、左手に持っていたナイフを右手に持ち替え、回転しながら3体目を切り裂く。

2つ目の『ウォーシャドウの指刃』がドロップする。

ベルは一つ目と2つ目を回収しながら、残りの3体と距離を取る。

 

「——————っ、ふぅ」

 

左手の指刃を1本、投擲する。

その直後、加速を開始する。ウォーシャドウが牽制の指刃を弾くより早く、その腕を振るうより(はや)く。

左手で握り締めて血が溢れる刃と、雷の長剣で、三体のウォーシャドウを灰に還す。

魔石と共に、指刃が一本だけ落ちる。

 

「(———————ウォーシャドウの指刃、鉤爪にでもして貰おうかな)」

 

と、くだらない事を考えながら、置き去りにした指刃を確保する。

 

「これじゃ、足りない。もっと、もっと、もっと、力をつけないと」

 

あの憧憬(剣姫)に追いつくために、護る力を、救う力を、『家族(ファミリア)』の為に。

 

「強く、ならないと」

 

もう、大切な人(家族)を喪うのは、ゴメンだから。

 

————そうして、少年は収斂する。

 

 

 

 

 

————————————————————

 

「———————で、な・ん・で!6階層まで進んでるのかなぁベル君!?」

「あ、あの、えと、その…ごめんなさいエイナさぁん!」

 

目の前の茶色の髪と緑玉色(エメラルド)の瞳、そして尖った耳が特徴的な女性は『エイナ・チュール』。

ヒューマンとエルフのハーフ(ハーフエルフ)で、受付役兼、ベルのアドバイザーである。

 

「……早く、強くならないといけないから。です」

「なんで、『早く』強くならなきゃいけないの?」

「ごめんなさい、これはまだ(・・)エイナさんには言えないんです」

 

それを聞くと、エイナは、ハァ。と溜息を吐き

 

「…わかった。じゃあ、いつか聞かせてね?」

「はい。いつか、必ず」

「でも!無理や無茶は許すけど、『無謀な行動』だけはダメ!約束よ!」

「はい!」

 

 

————————————

 

 

ベル兄を追ってオラリオに来て2日。数々のファミリアに声を掛けたけど、

 

「弱そうな奴はいらん」

「お嬢ちゃんは家に帰ってママのおっぱいでもすすってな!」

 

と、門前払い。前途多難とはこの事だ。そろそろ明日を生きるお金にも困ってきたころ。

 

「————やっぱり、私ファミリアには入れないのかなぁ……」

 

グスン、と、泣きそうになってしまう。

 

「ねえ、君!今、ファミリアって言ったかい!」

「———え?」

 

ふと、顔を上げると———————

 

「僕の名前はヘスティア!しがない女神さっ!君の名前を教えておくれよ!」

「神、様?名前、ですか?」

「ウン!」

「私は、フィーナ。フィーナ・アリエスです」

「フィーナ君か。いい名前だね。君さえ良ければ、だけど」

 

————僕の【家族(ファミリア)】になっておくれよ!

 

「……はいっ!」

 

私は、差し伸べられた手をとった——————————

 

この日、炉の神と銀月の少女は出会う。

これこそ、もう一つの『眷属の物語(ファミリア・ミィス)』。

いずれ伝説になる2つの物語の1つの始まりである———————————

 




このペースがいつまで続くか⋯(自嘲)

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