正直に言ってしまえば私は提督の事が苦手だった。
間違いなく優秀だとは思うのだが利己的であり、時として見せる傲慢な態度は多くの子達からの反感を買っていたと思う。
「何の用だ? 俺は今忙しいんだが」
「加賀さんから聞きました」
「何の問題がある、貴様達は俺の艦だ。 黙って命令に従っていれば良い」
細い枝が多く枝分かれをした木に水を与えていた提督はそれだけ言うと私から視線を外してしまった。
「理由を聞かせて貰っても良いでしょうか?」
「……金だよ。 他の鎮守府の連中がお前達を言い値で
引き取ってくれると提案してきた」
他の鎮守府への移籍についての理由を尋ねたのだが、帰って来た答えは最低な物だった。
「そうですか、短いとは言えない時間でしたがお世話になりました」
私はそれだけ言い残してその場を去る事にした。艦である私達は提督を選べない、例えどれほど卑劣で愚鈍な相手であっても命を賭けて任務を遂行し、提督や鎮守府を護るため努力を続ける。
「赤城」
ポツリと呟くような声が耳に入り、聞こえなかったと無視しても良かったのだが最後の言葉になるかもしれないと考えればその行為はあまりにも冷酷過ぎると考え、振り向く事にした。
「何でしょうか?」
「いや、何でもない。 貴様に話しても無駄な事だった」
「そうですか」
相変わらず提督は木に水を与えたり葉に付いた虫を取り除いたりしていたが、1つ1つの動作は丁寧で何処か優しさを感じさせるような気がする。
私はその動作にどうしようもない苛立ちを感じた。
どうしてその優しさを私達艦娘に向ける事ができないのだろうか、私達は彼にとって植物以下の存在なのだろうか。
「お節介かもしれませんが、私から最後の言葉を送らせていただきます」
「……何だ?」
「これまで私達は貴方のために戦い、傷つきながらも戦果をあげて来ました。 今までのように鎮守府に篭り君主の如く踏ん反り返ってばかりではそれも望めない事を覚えておいてください」
「あぁ、そうだな」
自分で言って自分の言葉に納得できた、この人は命令を出すだけで自分の身体には傷1つ付く事は無い。他者が血を流して得た戦果を自分の物にしていた暴君以外の何でもない。
「さようなら」
「……──でな」
最後に彼が何を言ったのかは分からなかったが、どうせ碌でも無い言葉なのだろう───。
他の鎮守府に移れると聞いた子達は皆喜んでいたと思う、ようやくこの地獄のような日々が終わり活躍できるのだと明日以降の事を考え笑みを浮かべていた。
しかしそんな考えは半月もしないうちに砕かれる事になった。
『役に立たない艦ばかりだな、前の鎮守府じゃどれほど甘やかされていたんだ?』
「……それは」
離れ離れになった仲間から送られてくる手紙は日に日に数を減らして行った。
『使えないな。本当に自分が空母だと言うのであれば敵の旗艦くらい落として貰わないと困るのだがね』
「……申し訳ありません」
加賀さんは元気にしているのだろうか、不甲斐ない自分の戦果にかつての仲間の事を思い出して心の支えにするしかできなかった。
『無駄飯食らいは私の鎮守府には必要無いのだがね』
「……はい」
何が悪いのだろうか、私のやっている事は間違っていないと思う。傷付いた仲間を庇い中破した事は悪いと思ったが、庇わなければ随伴艦の子が轟沈してしまう危険だってあった。
『もう良い。 貴様は使わない』
「……」
それから私は出撃する事が無くなった、深海棲艦との情勢が悪化していくにつれて戦果ををあげるためであれば轟沈すら許される風潮ができてきたと送られて来た
手紙には書かれていた。
「帰りたい……」
1人になると別れを告げた提督の事を思い出す時間が増えて行った。訓練は厳しく作戦のミスに関しても罰を与えられた、
しかしあの人は1度も轟沈に関わるような命令を出した事は無い。
「加賀さんからの手紙は……、来てないですね」
もしかしたら加賀さんもそうなってしまったのかもしれない。出撃をさせてもらえない以上彼女の元に行く事すらできないだろう。
それから私は沈んでしまった気持ちを切り替えるために提督の育てていた木が何だったのか調べる事にした。
「柘榴の木……、みたいですね」
記憶の中の特徴は朧げで時間はかかってしまったが、赤い実の形は特徴的で鎮守府の中にあった図鑑で簡単に調べる事ができた。
「不器用な人。 どうして、そんな回りくどい事をしようと思ったのですか……」
柘榴の花言葉は『優美』『愚かしさ』と書かれていた。同じように木や実にもついても意味が書かれており、その言葉の意味を知って私は彼を理解できて居なかったのだと奥歯を噛み締める。
彼に真意を聞いて謝ろうと思った時には既に遅かった、彼の鎮守府は深海棲艦の大規模な奇襲により既に地図から抹消され、賄賂や戦果の水増しと言った事が発覚して彼自身も処罰を受けこの世界から居なくなってしまっていた。私達は本当に彼のために戦い彼を守っていたのだろうか、その身を削り、命を賭けてまで守ってもらっていたのは私達の方だったんじゃないだろうか───。
これもツイッターでタイトルを頂いたので書かせてもらいましたー!
感謝です。