小さな鎮守府の小さな物語   作:湊音

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大井と北上

「こんにちはー。 軽巡洋艦、大井です。 どうぞ、よろしくお願い致しますね」

 

「……っ!」

 

 目の前に居る白い軍服に身を包んだ男の表情が何処か暗い。何か気に障る事でも言ってしまったのかと思ったが、作り笑いも上手くできているはずだし私の挨拶におかしな点は無かったはず。

 

「どうかしましたか? 何か私に至らぬ点でも?」

 

「い、いや。 何でもないよ、これからよろしく頼むよ」

 

 私と違ってこの人は作り笑いが下手だなと思った。視線は私では無く床に向いているし若干口角がわざとらしく曲げられているのだと一目見ただけで分かる。

 

「あの……? 北上さんは着任しているのかしら?」

 

「あ、あぁ。 着任してるよ」

 

「会わせて貰っても良いですか?」

 

 私は心の中でガッツポーズをする。正直に言ってしまえば目の前の男にはあまり興味は無いし、そんな事よりも今は北上さんに会いたいと思った。

 

「それは……」

 

 何やら渋っている男の後ろにあったドアがゆっくり開く。外の光によって映し出されたシルエットを見て私の身体は自然と歩き出していた。

 

「新しい艦が進水したって聞いたけ……ど。 まじ……?」

 

「北上、これは───」

 

「北上さーん! 会いたかったです! また一緒に海に出る事ができるなんて感激です!」

 

 男は北上さんに何かを伝えるつもりだったようだが、私はそれを無視して北上さんの手を握ると上下に振って再会の喜びを精一杯表現する。北上さんもきっと私に会いたかったはずだし、これからの事を考えるだけで頬が緩んでしまいそうになる。

 

「ねぇ大井っち?」

 

「何でしょう北上さん!」

 

 どんな言葉をかけて貰えるのか頭の中でシュミレートする。北上さんの事だから何気なく言ったつもりでも私の心を貫くような素敵な言葉を言ってくれるかもしれない、私は一字一句聞き逃さないように北上さんの言葉に集中する。

 

「手、離してくれないかな? あんまりベタベタされるの好きじゃないし、はっきり言ってウザイんだよね」

 

「えっ…?」

 

「お、おい! 北上っ!」

 

「それじゃ私は執務室に帰るから。 提督、後はよろしく~」

 

 そう言って北上さんは私の手を振りほどくと、ドアが壊れるのでは無いかと思える程の音を立てながら出て行ってしまった。私はさっきの言葉が聞き間違いであって欲しいと願ったが、もしそうであれば私の手を振りほどく必要は無いし、敵意を伝えるような立ち去り方をするはずがないと自分を誤魔化すことができなかった。

 

「……どうして?」

 

「君の部屋に案内するよ……」

 

 それからの事はあまり覚えていない。途中で何人か私を見て驚いたような表情をしていたと思うけど、そんな事は北上さんに嫌われているかもしれないという事に比べれば些細な事だった───。




これはちょこちょこ続きを書くかもしれません_( _´ω`)_
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